私と植木は高校生になった。
 植木は『大切な人の記憶』を取り戻す過程で私達の間隔からすれば一年ほど(もっとも、植木にとっては百年ほど経っていたのだが)消息不明になっており、本来であれば休学という形から中学三年を一年しなければいけないのだけれど、三界と繁華界が一緒になった混乱や彼の家族の強い要望もあり卒業証書をもらうことができた。
 その後、ナガラクリーニング屋でバイトをしながら勉強し編入試験を無事合格することができ、半年遅れであったものの同じ高校のまた同じクラスで授業を受けれるようになったのである。
 無論、その前にあった天界での神を決めるバトルの後遺症で女子に嫌われたり勉強が出来なかったりと遅れたスタートは植木にとって大変なものであったはずなのだが、ハンデをものともせず一年の遅れを取り戻した植木をほめると当たり前だろ? と不思議な顔で返答して。その様は百年の時を過ごしていたとしても、変わらず植木のままだった。




      芽吹く




 その日、授業を受け終えると今日は部活がないから、という植木と一緒に帰ることにした。
 植木が戻ってきてから、私はなるべく時間が合えば彼と一緒にいるようにしている。
 というのも、植木が私にとっていかに大切な存在か、彼がいない一年で痛感したからだ。
 最初はゴミを木に変える能力を見て興味を持っただけで、その後は共に戦う仲間として(といっても私を守ってもらうほうが圧倒的に多かったのだが)友人として植木と共にいた。
 そこには尊敬や感謝の念はあれどもそれだけで、むしろ自分を優先にせず他人ばかりを思いやる植木にやきもちしているほうが多く、『大切な人の記憶』が人々の中から消え去る直前まで私は植木のそういった一種の身勝手さが嫌で。
 だから、仲間としての概念で彼は大切だったもののそれ以上の存在ではなく、いらつくことすら多かったぐらいである。
 ゆえに学校の友人や共に戦った友人の中の一人である植木にバランスが悪いほどの時間をかけることは(他人よりやや多く時間を取っていたものの)なかった。
 けれど。

「なぁ、森」

 隣で歩いていた植木が、ふと私を呼んだ。

「近頃、一緒にいる機会が多い気がするんだけど大丈夫なのか?」

 質問は今、正に思っていたことで。
 素直に思っていることを言うには恥ずかしい内容であったし、素直でないと自負していた私はそ知らぬふりをして聞き返した。

「大丈夫って何がよ」

「森は友達いっぱいいるじゃないか。俺ばっかりで他の奴と遊べなくてつまんないんじゃないか?」

 その言葉に溜息を吐いて、怒りを込めつつ反論した。

「あんたが一日百善っていって平気で怪我したりするから、こっちは毎日ハラハラドキドキさせてもらっているわよ」

 植木は変わらず、自分のことより他人を優先し親切をするがゆえに怪我をするなんてことは日常茶飯事だ。
 神器は使えないものの天界人である植木は頑丈で回復は早い。それでも手当てせずにはいられなくて通学用バックには簡単な手当てが出来るようなセットは常備されてあったし、休日に植木と外に出るとなったら手当てセットを持ち歩くようにしていた。
 でも、本当はそれだけじゃない。

「そうか? いささか納得いかないんだけど、まぁいっか」

 私のもう一つの気持ちを知らない植木は、彼らしい楽天的な言い草で話にけりをつけている。
 今はそれで十分だ。
 もう一つの気持ちを知られてしまうのは、まだ気恥ずかしかったし決意できているわけじゃない。
 その気持ちが私の中に根付いていたのはいつだったのかまったく定かではないのだが、気がついたのは彼が百年いなくなると言われ『大切な人の記憶』が私の中へ戻ってきたときだった。
 その時、私の中に戻ってきたのは悲しくて切なくて半身が切られてしまうような思いで。
 植木との約束を果たせなかった自分が悔しくて悔しくて、どうして植木ばかりこんなに割を食うのか歯がゆくて仕方がなかった。
 複雑に絡んだ思いのまま植木に叫んだのは、到底果たせそうもない約束で。
 百年待つなんていう絵空事で。
 でも、そう叫び約束した瞬間、植木は少し寂しげな笑顔を見せてくれた。
 まるで、映画の場面が切り替わるように植木の姿が消えて、いつもよりビルが多く立ち並ぶ暮らしていたその場所へ視点が移ったその時、私は植木の表情を思い出してただひたすらに泣いていた。
 どうして気がつかなかったのだろう、と。
 恋なんて熱のようなものでなく、私の中に根付いて切り取ることも出来なくなっていたその思いを。

「なにが納得できないのか、こっちが理解できないんだけど……。まぁ、いいわ。ほら公園よ」

 私は次の神を決める戦いの合間に植木と共に来ていた公園を知覚し、植木の意識をそらせた。

「おっ、よし森! 今日もゴミ拾い頑張ろうなっ」

 張り切るように学ランの袖を捲り上げた植木は、公園に向かってかけていく。
 その姿を見ながら微笑む。
 今はこうして、静かに育てていくのだ。
 恋よりも深く根付いてしまった感情を。



      >>20100618 植木はコミックでは働くと言っていますが、個人的には同じ高校にいってほしいんだ。



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