本能に逆らう
いつも通りと言っていいのか何なのかともかくいつも通り万事屋は暇で、神楽はいつもの公園に来ていた。今日はマダオの姿は無い。就職活動でもしているのだろうか。
その代わりと言っていいのか、いつも座っている席に誰かが座っていた。
何故だか、神楽の第六感は変な風に疼く。
例えば好敵手に会ったときのような、わくわくする感じ。
それは花見のときにこぶしを交えてからこのかた、会えば会うほど喧嘩ばかりではなく常に何かしらの勝負事で対決する男に会うときのような。
不思議に思ってその人物を見ると、やはり花見の時の男だった。
「チャイナ、また会ったなァ」
何処となく嬉しそうな男に、差したままだった傘を閉じてその先端を向けた。
「勝負ネ」
ぶっきらぼうに言えば、男はやはり嬉しそうに腰に刺していた刀を抜き取った。
そうして、神楽と男の戦いは幕を切って落とされた。
夜兎族という戦闘能力の高い天人である神楽は元々互角に戦える相手は少なく、目の前の男は例外であった。
人間にしては強い。
神楽の傘が火を噴くことはなかったのだがそれを入れても多分、この男とは互角だろうと神楽は自分に向かってくる刃を捌きながら思った。
この男も戦いを楽しんでいる。
踏み込んで、夜兎族である自分の最大限の力を出して目の前の男を殴りにかかるが、刀でうまく力を分散されてそれは不発に終わる。
楽しい。
楽しいッ。
楽しいッッ!
汗をかきながらも神楽はこれを楽しんでいた。
一歩間違えれば、死をももたらすゲームのような勝負。
『お前の本能は血を求めてるんだよ、神楽』
不意に、パンチパーマの言葉が脳裏を走っていった。
そんなはずはない!
神楽は不意に目の前の男を見た。
自分と同じく、ほぼ無表情ながらもその命のやり取りともいえるこの喧嘩を楽しんでいるように……見えた。
それが自分と同じ性質ででも違う生き物だと、そう言う風に見えた。
結局のところ目の前の男との勝負はまたつかなかった。
神楽と男は同じベンチに座った。
「いやァ、チャイナとの勝負は面白くてしょうがねぇや」
男は無表情のまま言った。
それがお前のスタイルか。と心の中で突っ込む。別にこの男のことなんてどうでもよかったからだ。
「お前、もう私に関わるの止めるアルヨ」
「なんでだィ?もしやチャイナ、このまま勝負の決着をつけたくねーのか?」
それは卑怯だ。と男は続けざまに言うが。
神楽はどうしてもそれがいけないことのように思えた。
制御が利かないのだ、この男と対峙すると。
万事屋という職業柄厄介事はこっちから出てきたし、自分も非常に厄介ごとを踏み潰していくタイプなので格闘になることはよくあったが、明らかにそれなりに手を抜いても大丈夫な相手だったから、神楽は理性を失うこともなく戦いの本能に任せることもなくあしらうことが出来たが、この男は自分を本気にさせる。本気になれば理性のがたが外れ、本能のまま血を求めてしまう。
それが、嫌だった。
「私、夜兎族アル。このまま格闘を続ければアンタを本当に本能のまま殺してしまうネ。私、それが怖いアルヨ」
アンタは嫌いだけど。と付け足すことは忘れない。
その言葉に男は伺うように神楽を見た。
「……アンタに俺を殺すことなんて出来やしねぇさ。だから安心しろィ」
その言葉に、神楽ははッと男を見た。
男はやはり無表情のままだったが、それが神楽を何故か安心させた。
「私を舐めるな。アンタなんかこてんぱんにしてやるヨ」
「それでこそチャイナでさァ。俺もそうこなくちゃ面白くねェ」
にやり、と笑う男に神楽は笑った。
この男の言うとおり、この男は人間の癖に簡単にはやられはしないだろう。それはどこか確信めいたものとして神楽の胸の中にあった。
「おっと、もうそろそろ帰って土方さんをからかわねぇといけねぇ時間みてぇだィ。じゃあな、チャイナ。また会ったら勝負しよーや」
「おう、今度こそ決着をつけるアルヨ」
それは、また神楽にとっていい結果だった。
あの男は新八同様嫌いな輩ではあるが、きっとあの男との勝負は夜兎の血が求めるように、そうしてそれに応じてくれるように楽しいものに違いないから。
>>20050409/20060705
本編だともっと自制心のある子だと解釈するけどね私は。
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