忘れたい事があって、忘れたくないものがある。
どれもをその手の中に収めておきたいと思っていたのだが、赤い血でぬるりと滑ってしまうこの手では全てが滑り落ちてしまって。
今、この手の中に残っているものもすべり落としてしまいそうだ。
滑り落ちる赤
ぼーっと縁側に座っていたら、ふわふわと赤い傘が揺れているのが見えてそれを何故だかじぃっと眺めていた。近頃、赤い傘を見ると思い出すのは幼い割に戦闘能力は決定付けられている夜兎族の非常にむかつきを覚えるチャイナ娘。
「よ、久しぶりだな」
その赤い傘はやっぱりチャイナ娘だったようで、真撰組の敷地内だというのに勝手に入ってきた彼女はすちゃ、と手を上げていた。
俺はそれを見ながら、ああやっぱりなと八割方予想していた事実が当たったことに何の感慨も覚えずにチャイナ娘を表情の一つも変えずに見ていた。
それに、チャイナ娘は眉を寄せた。
「なんか反応しろヨ。つまんねーだろ」
「俺はアンタを面白くさせるための道具じゃないぜィ?」
返すと、傘が上から下に俺の頭蓋骨めがけて振り下ろされたんで、反射でつい刀を抜くとその傘を受け止めていた。夜兎族の傘というのは特殊なもので、刃物で切りつけても切れないほどの構造をしているようだった。まぁ、傘から弾が噴出すのだから当たり前といってしまえばそれまでなのだが。
チャイナ娘は不服そうに口を尖らせると、コトンと肩に傘を開いて差した。
その傘は、深すぎるほどの赤で手に付着して取れやしない血を思い出した。
俺はどのぐらい大切なものを手に包んでは、ぬるりとした血で滑り落としたのだろうか。
「つまんなそうな顔しているネ」
「そうかィ?」
ふ、と口角を上げて笑顔を作ってみた。
きっと、それは見事なぐらいに歪んだ笑顔だったに違いない。
それに呼応するようにチャイナ娘はきゅうっと眉を寄せた。眉間に皺が深く作られている。
「アンタは表情を変えずに無茶苦茶なことをしているのが一番ヨ。そんな大人しいのは向かないアル」
「そうかィ?」
その言葉が面白くて、再度同じ言葉で聞き返していた。
すると、むっとしたように眉をピンと上げてチャイナ娘はその傘をたたむと俺に銃口を向けて即座に弾を発射していた。
剣は掴んだままだったから、どうにかして弾行を逸らすように刀を向けた。まぁ、刃こぼれしやすいからこういうやり方は好きじゃないのだが。
「動かないから変な事考えるネ。私と戦うアルヨ」
その言葉に知らずに口角が上がるのが分かった。
どうやら俺は、どんなに手で血を汚すことを嫌ってもそれを止める事など出来ないらしい。落ちる傘を避けると、立っていた。
やっぱり、チャイナ娘とは会うたびに戦うしか出来ないのだろう、きっと。
けれど、チャイナ娘は血のぬめりなんかで滑り落ちようなタマじゃないから。
俺は、笑っていた。
>>20050827/20060705
シズさんが出来るのなら総悟も出来そうな気がしますが。
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