瞳の奥で笑っていた少女は今、俺の目の前にいる。
相反思想
何故か必ず会う事になると確信しながら、あの路地裏から離れた後から奇妙な服を着て笑っている少女の幻覚のようなもの――それは、過去なのか未来なのかそれとも俺の脳みそが狂っているのか分からなかったが――を良く見るようになっていた。
それは、笑っていたりじゃれ合っていたり喧嘩したり戦ったりと忙しないものばかりだったけれど、その表情どれもが楽しそうで。
俺は、そのくるくると変わる万華鏡のような表情を見るたびにふんわりと心を和ませ、表情が緩むのを感じていた。こんな事じゃあ仕事になどなりはしないが、決まってサボっているときばかりだったので平面上はまるで普通だった。
そんな折、やっぱりまた出会った。
甘い匂いが似合う死んだ魚の目をした男と、眼鏡の妙に生真面目そうな奴と、そいつは一緒にいた。
その二人に対して微笑んでいる彼女の表情を見て俺が思ったことは嬉しいでもわくわくでもなく、ただ笑ってくれていて良かったという安堵のものだけで、それが何かも知らなかったが知らなくても良いと思った。
ピコピコハンマーで本気で叩き合ってもまるで対等なぐらいの素早さで反応を示す彼女に、俺は幻覚の中で見た彼女と同じものを見出して、にやりと笑った。
きっと、惹かれる。
目の前の少女は彼女よりも幼いけれど、きっと惹かれる。
既にもう、淡白であったはずの俺の中に潜む女に対しての肉欲的な欲望は小さな炎から大きく煽りを受けて成長を続ける。
際限のないように。
「お前、多串君より怖いナ」
「何ででさァ」
「目、血走っているヨ」
ああ、そうかもしれない。
知らぬ間に欲しいと願っていた女が目の前に存在しているのだから。
「でも」
少女は笑った。
「上等ネ。アンタはそれぐらいじゃなきゃ面白くないヨ」
それは、目の前の少女が本来かもし出す事の出来ないような女の色香を持ち合わせているような、美しい微笑み。
純粋そのものでなく。
ただ、蛍光灯の光で虫が群がるように男を引き寄せるような色香を伴った、奇妙で不気味で…美しい微笑み。
上等だ。
上等すぎるほど上等だ。
お前は、端っから俺に対して女として仕掛けてくるのか。
だったら、俺も望みどおりに男として応じるだけだ。
けれども、すぐに目の前の少女から色香はなくなり、一瞬にして純粋な少女に戻った。
「名前、名乗れよ」
「総悟でさァ、チャイナ娘」
「神楽ヨ」
「わかってらァ」
笑って。
少女は保護者達のもとへと戻った。
奇妙な服を着た、少し大人びた君は微笑む。
少女のような純粋さとズルイ女を使い分けるような微笑みで。
くるくると血のように赤い傘を回し、厚い眼鏡の下からこぼれ出す瞳はじゅくりと何かを促すような熱い目のままで。
――なぁ、総悟。
微笑む。
奇妙なぐらいに雲がない空に呟いた彼女の肌は綺麗に映えた。
――女として見てヨ。
そして、手を伸ばそうとすると振り払うのだ。
今度は子供のような目で。
――性別のない人として見てヨ。
それは、奇妙なまでに相反する声。
でも、きっとそれが俺とアンタの真実だったんだ。
でも、俺は決めた。
狂った脳みそが見せるのか、突然変異した俺の目が見せるのか分からない、その幻想のアンタに笑った。
「俺は、女としてアンタを愛し生物としてアンタを慈しみまさァ」
>>20060221
ここまでパラレル度が高いと最早別物です。
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