白い狂気




「土方さん、俺は狂ってるんでさァ」

 突然何を言い出すかと思い、俺は隣で歩いていた総悟の顔を見た。
 狂っているという割にはまったく表情は変わっていなかった。
 いつも通りの、憎たらしいほどの何を考えているのか(恐らく99%俺を陥れるための作戦を考えているのだろうが)分からないような能面のような無表情だった。

「お前はいつも狂っているだろうが」

 そのサディスティック星の王子よろしくアホの子のように攻撃ばかりを仕掛ける様は、誰がどう見ても狂っているようにしか見えない。理性のある人間ってものはある程度攻撃性を押さえるものだ。
 だからこそ、俺はそう返すと総悟はガラス玉のような瞳を向けた。

「土方さんが言っているようなのとはまた違いまさァ」

「じゃあ、どういった部類の狂っている、だ?」

 総悟の言っている意図が全く読めずに聞き返すと、総悟は口角を上げてにやりと笑った。
 それは確かにニヒルな笑いのはずなのに、どこか自嘲じみていた。
 そんな総悟にまるで似合わない笑い方に俺は疑問を浮かべながらも、先に話を作り出したのは総悟なのだから、と返事を聞こうと彼の顔を見た。

「俺の全てはアイツ一人に向いているんでさァ。俺の知らぬ過去も、現在も、そして恐らく未来も。捨てる気もなけりゃあ、アイツから視線をそらす気もありゃしねェ。そんな、一人にしか全力で向かねェ感情なんてェ、狂気そのものに違いありやせん」

 総悟の言うアイツという固有名詞が誰であるか、なんとなく俺には理解できた。
 恐らく、万事屋にいるチャイナ娘。
 夜兎族という最強最悪の戦闘種族にして、総悟と唯一対等に渡り合える少女。
 総悟はチャイナ娘を気に入っていた。じゃれあうように命のやり取りを繰り返し、憎みあうように戯れる。それは二人のスタンスであり、また彼らの愛情表現にも思えた。
 俺はふっと笑って煙草に火をつけた。

「元より恋愛って奴ァ、狂気そのものだって言うじゃねぇか」

「――そんなもの、遥かに凌駕してまさァ」

 そう呟いた総悟のガラス玉のような目は、遥か遠くの濁った空を見ていた。
 俺には分からない、と思った。
 そんな恋愛など一度もしたことがなかったから。
 恋愛を超えるほどに狂った感情を持つような、それを。

「勢いあまって殺すんじゃねェぞ」

「ありえやすね。誤って殺してしまうなんてもったいねェが、殺してしまうほどには充分狂ってまさァ」

 総悟はふっと鼻で笑った。

「こえェな」

「怖いでしょう?」

 俺と総悟はただこの濁ったかぶき町を歩いていた。



      >>20060531 意外と土方は絡ませやすい。



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