思想




 結局月浪に関しては、彼に俺が攘夷浪士殺しの下手人を探すよう命じたものの捕まえられず、それを士道不覚悟と取り無残に切り捨てた、という形にした。
 内部事情を知っているものがいれば違和感を感じたであろうが、そのほとんどは俺が秘密裏に攘夷浪士殺しを調べていたことなど知らない上に俺の理不尽さは真撰組内共通の認識だったため、その公式発表は見事鵜呑みにされ俺の評判はとてつもなく悪くなり、月浪の評判が落ちることはなかった。
 もっとも、そう公式報告をした土方さんには「もうちょっと上手いやり方があったんじゃねーのか?」と言われたので、俺の本質を知る者にはそこそこばれているだろう。
 ちなみに陽江は今回の事件とはまったく関わりがなく、反抗的な態度を示したのは言葉として述べたとおり攘夷浪士に対し良い感情を持っていなかったためであったようだった。
 結局、彼は自分の感情に素直なだけであったのだ。
 もっとも感情を仕事に持ち込むのは良くないことなので、その辺りは矯正していくべきだろう。
 そうして、事後処理や雑務を済ませるうちに神楽が江戸を旅立つ日が来た。
 その日は有給休暇を貰うと、神楽のホテルの前で待ち合わせをして共にターミナルまで歩いていった。
 次の星はどういうところだとか、そこの飯は甘すぎてしんどいとか駄菓子がまったく一つもないなどと言った他愛もない話を繰り返し、ターミナルへと到着した。
 無機質な機械が佇んでいるその前で、俺は赤い傘を差している神楽に一枚の紙を渡した。

「手紙、寄越してくれや」

 その言葉に神楽は傘のせいかそれとも別の要因でなのか赤く染めた頬を膨らませて、俺を睨んだ。

「……なんで、そんな古い手使うネ。携帯電話使えヨッ!」

「携帯電話は、まだ星間対応していないせいで別の星へかけられない状態なんでィ」

「おまっ、手際悪いな!」

 神楽の鋭いツッコミに対しても揺るぐことなく、ズボンのポケットに手を突っ込んだまま彼女を見た。
 彼女は、戸惑ったように視線をさ迷わせてポツリと呟いた。

「暇だったら……とーっても暇だったら、手紙書くヨ。電話番号もつけてなッ!」

 俺は、思わず口元を緩めた。

「その時までには星間対応しておくぜィ。知らない番号から電話かかってきても切るなよ」

「おうヨ」

 神楽は端的に返事すると、くるりと背を向けた。
 赤い傘が目にしみる。

「またな」

 けれど、後姿から発せられたさようならの言葉は再開を含むものだったから。

「またな」

 同じ言葉を繰り返して、俺は穏やかな気持ちで口元を緩め微笑んでいた。



      >>20070905 カタツムリ並の鈍さで進展……してんのか?



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