七日目
人が行きかう空港内。
あんなにも辛かった太陽の光は緩和され砂煙もないその場所で、俺は芭燗素星行きの宇宙船の発射時刻を確認していた。
さすがに、身なりのほうはどうしようもなかったので(というか砲撃を受けてぼろぼろになっていない頑丈な衣服のほうがどうかしている)、空港内に売ってあった地味めの衣服を身に纏っている。
服もそうだが、傘もぼろぼろなので新しいものに早く新調したい。
服の売り場を聞くついでに他の遭難者達の事を聞いたら、沖田がすでに遭難場所を教えたらしく、即座に救出へ向かったそうだ。
奴らが無駄な行動や暴走をしていなければ、きっと助かっていることだろう。
俺はこの濃密な七日間を思いながら、ふうと息をついた。
「星海坊主さん」
声が聞こえ振り向くと、にこりと笑みを浮かべた沖田がひらひらと手を振って近寄ってきた。
その様に昨日のイライラが頂点に達する。
「沖田てめェ! 昨日はどたばたがありすぎて言えなかったが、あのビーム砲確実に俺狙っただろッ!」
「砲撃ぐらい防げるって言ったの、アンタじゃねーか。我が儘なおっさんだなァ」
怒鳴り散らすと、呆れたように肩を上げて沖田は言った。
その様はいかにも俺に非があるようなものであったが、実際は沖田のほうが非道である。
「いや、言ったよッ? 言ったけれども、ふつー、気を使ってわきにそらすとかあるだろうがッ!」
「中心にいたアンタを狙ったほうが確実にえいりあんどもをぶちのめせたんでさァ。そんな細かいところを気にするなんざァ、そりゃあ毛根の女神様だって呆れて実家に帰りやす」
「細かくないからねッ? まったく細かくないから!」
そんな風に怒鳴っても、沖田はどこ吹く風、と言わんばかりに口笛すら吹いている。
まったくもって腹の立つ男であるが、彼のこの七日間で見えた信念や強さは別に嫌いではなかった。
ハァ、と溜息を吐くと俺はしかしにやりと笑う。
「七日間、それなりに楽しかったぜ」
その言葉に目を真ん丸くした沖田は俺と同じくにやりと笑った。
「俺もでィ。また会う機会があったら遊んでくだせェ」
沖田は左手を差し出した。
握手を求めているようで、俺も促されるまま手を出そうとする――。
「パピー!」
独特の呼び名を叫ぶ声に、俺は右を向いた。
そこにはほんの少し怒っているように唇を尖らせている可愛い可愛い娘がいて、赤い傘を差しながらこちらへつかつかと歩いてくる。
「こんなところで何寄り道しているネッ! 休暇はどんどん減っていって……、って沖田?」
言葉を荒げながら歩いてきた娘は俺の隣にいる男を見て、目を丸くさせた。
「オマエ、なんでこんなところにいるネッ」
沖田はにやりと笑みを浮かべた。
「たまたまかぶき町商店街企画抽選会で一等の芭燗素星七泊八日お泊り旅行を当てちまってなァ。休暇がてら一人旅しようと思ったら、運悪く飛行機が落ちちまったんで星海坊主さんと砂漠漂流していたんでィ」
ほう、沖田はそういういきさつであの飛行機に乗っていたのか。
なんで娘が沖田と知り合いなのか、とかは全て拒否してそんなことに感心している。
「口説き落とそうとしている私ほっぽいてなんでパピーとの親交深めているんだよッ!」
んん、ちょっと待て。
今聞き捨てならない言葉を聞いたような気がしたんだが。
「阿呆だなァ、まず娘を口説き落とすんなら外堀から固めていくのが鉄則だろ? お前の親父なんぞ丁度良い外堀じゃねーか」
あれ、俺外堀扱い?
男親だよ? 最大の難所じゃね?
「って、ちょっと待てェェエエエッ!」
うっかり現実逃避していたが、これ最大の危機じゃね?
そう思って沖田を見ると、沖田はにやりと腹黒そうな顔で笑った。
「ってことで、今後ともよろしくお願いしまさァ、お義父さん」
「お義父さんとか言うなァァアアア! お父さんならまだしも、そっちの字使うの止めてッ!」
そう言いながら娘を俺の後ろに持っていくと、傘の先端を沖田に向けた。
「何でさァ、数少ない逢瀬邪魔するんならお義父さんでも容赦しませんぜ」
無表情でさらりとそんな言葉を吐く沖田に対し、俺は血管を浮き上がらせてガンつけた。
「ああんッ? 娘を口説き落としてェンなら、まず俺の屍越えやがれェエエエエッ!」
そうして、ジャンプしながら傘を振り下ろす。
この七日間はただひたすらについていなかったが良いこともあったと思ったのに、やっぱり最悪だった。
>>20091231
はい、親への挨拶終了ですね。
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