神の左手、悪魔の右手




「あのぉ、そんな困ります、ここは副知事の私的な別荘で一般の方は勿論その筋の方も…事前に面会の約束を―」
「息子が母親に会うのに面会の約束も何もないでしょう?」
僕はニコリと微笑んで少し気の弱そうな新入り(っぽい)お手伝いさんに答えると
「え、息子さん?!え、こんなに大きな息子さんがいらしたんですか?!しかも極道の!!」
口をパクパクさせながらそのまま固まってしまったので、サッサと玄関を開け
「ただ今帰りました、母上―えっ?!」
一歩踏み入れるとそこは―
極彩色なジャポネズリの異空間だった。
「おやまぁ、久しぶりねゼロス…ってお前、こんな猛暑の中黒ずくめのスーツに黒いサングラスって…いつ神父からヤクザに転職したのよ?」
豪奢な金髪を結い上げ蒔絵の櫛を挿し、紺の浴衣を着て「祭」と描かれた団扇を手に持つ艶っぽい美女。
「あのぉ、ヤクザには転職していないのですけど。ちょっとささくれだった気分ってヤツでして…周りに人を寄せ付けない防御策、ですかね。便利ですよ、この格好。おおよその人間は避けて通ってくれます。母上は…涼しそうですね、よくお似合いです」
サングラスを外して金色のままの瞳を見せる。
「…それにしても、そんな瞳でいきなり帰ってくるなんて一体何があったの?」
紫水晶の輝きにも似た双眸は興味を湛えてじっと僕を見つめている。
本当のところは…母上にはこれから僕が報告しようとしている内容などとうにご存知なはずだろうに…
つまり―僕の瞳が金色のままな理由と、僕が母上の元へ帰ってきた理由。
「“ペリクムの聖女”に会いました。といってもまだまだひよっこなのですけれどもね。油断したらこのザマで…」
はめていた手袋を外し左手の平をひらひらと振ってみせる。
赤い十字の烙印がくっきりと残る手の平。
「あらあら、これは…痛かっただろうに、今すぐ消してあげようか?にしても…お前が油断なんて珍しいわね?」
クスクスと楽しそうである。
「あ、いえ、コレはこのままで…野良猫も3日も飼えば情が移る。まぁ、ヒトの世の暮らしが長かったせいか少し馴染みすぎたみたいで。…僕が拾った子供でした。13年前に」
「ふーん、それでお前はその聖女をどうしたいの?“花嫁”にでも迎えたいわけ?」
「まさか、ぞっとするようなこと言わないで下さいよ。彼女の血は確かに甘そうですが飲んだら消化不良を起こしてしまいそうですからね。“花嫁”に迎える気なんて更々ありませんが…このまま放ってもおけないでしょう。彼女は僕達の生命を脅かす存在なのだから」
淡々と答えると
「ひよっこにも手加減ナシで相手になる、と?」
探るような瞳で見つめられていた。
僕は一度目を閉じてから再び母上の強い視線と向き直り
「狩られる前に狩るために―どうか僕の持つ力の全てを解放して下さい!」
真摯な面持ちで懇願する。
「力の解放、か。その願いがために母の元に戻ったか、ゼロスよ。…良いだろう、お前の願い叶えてやる。右手をお出し」
身に纏う空気が変わる。
その口調や声の質も―厳かな凛としたものに。
金色に輝く悪魔の瞳、見つめるものの魂を縛り付ける―
これぞ本家本物の邪眼。
夜の一族の始祖ゼラス・メタリオム。
それが、母上の本性。
声に、惹かれるように―
僕は右手を差し伸べる。
差し伸べられた右手の平に母上の右手の平が重なる。
「新月に祝福されし愛し子―汝が内の常闇に眠りしいと貴き夜の一族の血よ、目覚めよ。我が解放の言霊に…汝、闇と共に在れ!」
重ねられた手の平が熱を持つ。
先にフィリアさんから十字架を押しつけられた時のように―
焼ける音こそしなかったが感覚的にはあの時と同じように。
思わず手を引きそうになった時
「逃げるな!大いなる力を得る時にはそれなりの“痛み”を伴うものよ」
金色の瞳が睨め付ける。
じわじわと焼かれる痛みに血が逆流するような感覚。
「―っ!」
汝、闇ト共ニ在レ!
今の僕がこの世界に在るがため―
この世界の理に則った僕であるために。
封じられていた力と、その記憶を目覚めさせる魂に刻まれた解放の呪文。
“痛み”を伴って本来の僕自身を取り戻す。
「あぁ、僕は、僕達は…そうでしたね、ゼラス様」
瞳には紫紺の輝きが戻り、熱を持った手の平には逆五芒星の悪魔の刻印。
しげしげと眺める。
左手の平の十字の烙印と見比べつつ―
「神の左手、悪魔の右手―」
僕がこの手に掴み取る未来は一体どちらのものなのだろう?



      >>20050921 かっこよいゼラス様にメロリンラブです。九音様毎度有難う御座います★



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