星の記憶




奇跡なんてそう何度も起こせるものじゃありません。
でもただこの一度だけ…
それだけで十分です。
私はこの子の母親ではないけれど。
だけれどこの子を生かすことが出来るのは
この世界には私だけしかいないの―
『竜』はこの世界には私一人。
他は全て―
「僕が“狩って”しまいましたから」
冷たい金色の瞳。
ドクン、ドクン―
卵の殻を通して伝わってくる力強い生命の音。
あぁ、きっともうすぐに―
もうすぐに生まれてくる!
「私の命に代えてもこの子は私が守り―」
ぴしり…
殻にヒビが入って
「きゅわ〜!!!」
「…生まれてしまいましたねぇ」
心底イヤそぉな顰め面をした。
「最後の竜が黄金竜の巫女と古代竜の赤ん坊なんて―
神もまた随分と数奇な運命の者同士を生かし続けたもの、
ですがこれで終わりに―」
「させません!!」
「ぎゃわ〜?!」
持てる力の全てを振り絞り別の次元に繋がる口をこじり開け
赤ん坊をそこから逃がして急いでその口を閉じる。
「あーあ、何て強引な力技を…生まれたての赤ん坊に?」
「私は、信じていますから―」
力強く言い放つ。
「神の奇跡を?」
「いいえ、私自身を。そして、未来を」
フワリと笑ってみせた。
「…結局最後の一人は、貴女ですか聖女殿?
良いでしょう、貴女の命を代価にほんの一時あの子を
見逃してあげてもいいですよ。この星の“竜”は全て滅ぶ。
これで僕の任務も一段落です」
感情のこもらない淡々とした声音で
先に見せた不快の表情さえも消し去って―
ぶぅんと一つ杖を振るうと
「?!」
全身を切り裂く鋭い痛みが走る。
見えないいくつもの刃に傷つけられて。
目の前が真っ赤に染まるのは
だらりと流れ続ける血潮のせい。
「…悪、魔」
末期の声が彼に届いたのか、なんて知らない。
届いたところでそれは彼にとっての真実。
聞き飽きているだろう言葉。
彼の中に残るものなど何もない。
「……」
虚ろな瞳に何故か間近に見える彼の姿も赤い。
血に塗れた悪魔というのは存外綺麗なものだと…
壊れて、思う。
触レテミテモ、良イデスカ?
手を伸ばそうと、頭では、思う。
ただしそれを実行するだけの力など、もはや私には皆無。
「僕に触れてみたいですか?貴女を満足させるようなものなんて、僕は何も持ってはいないですよ。
僕の中には何もない。奪って取り込んだものは
本来僕のものじゃない。
この外見さえ母上が与えてくれたものだから」
だけれども…綺麗、って誉め言葉ですよね?
にこりと笑って手を取ってくれた。
頬から顔の輪郭に沿って指先を滑らせさせる。
目、鼻、唇―
あぁ、やっぱり綺麗。
壊れている、としか言いようがないだろう。
神に仕えている者が悪魔に対して思う感情じゃあない。
それでも最後を綺麗と思うものに見取られて逝くのは
そう悪い事ではないのだろう。
私は死んで大地に還る。
そしてこの星もしばらくは夢に微睡むことだろう。
『竜』ではなく『人間』という生物が
愛をつむいで歴史をつくる時まで。

「まさか、あそこでああいう感情を出されるなんて…
思ってもみませんでした。
最後の竜だけあって不味い、とは言いません。
むしろ美味だったのですが…母上の言う通りでしたね、
正の感情というのはどうにも調子を狂わせる」
だから、あんなココロまではいらなかったんですよ、聖女殿?
貴女が壊れているなどとは、僕は思わない。
だって、壊れている、のはきっと僕の方なのだから―
「“神に仕える者”ってやつをやってみましょうか。
それなりに様になるかもしれないって思うんですが
どう思いますか?」
抱いて支えていた巫女の身体を改めてしっかりと横抱きにして
問い掛けてみる。
答えがない事は知りながら。
「いつか、きっと…何処かで出会う、んでしょうね」
どうしてなんだろう?
そんな気がしてなりません。
「“悪魔業”は暫く休業です」
貴女の信じた『未来』というのに付き合ってみようと思います。
いえ、ほんの気紛れ、なのですけれども。
ほんのり触れた『あたたかさ』が思いの外に心地良かった、ので。


むかし、むかし―
わたしというほしに、ぶんめいをきずいたのは
『りゅう』といういきものでした。
かれらは、つよいちからと、たかいちせいをもち
ずいぶんとさかえたものでしたが、しゅのことなるものどうしで
たがいにあらそうようになり、そのかずをへらしていきました。
そしてそれにじょうじるかのように、あるとき『あくま』がやってきて
たったひとりで、あらかたの『りゅう』をかりまくり
のこったさいごの『りゅう』たちは
『おうごんりゅう』のみこと『こだいりゅう』のあかんぼう。
かれらのえにしもすうきなものなら、いきていくのもつらかろうと
わたしも『あくま』とおなじようにおもいましたが…
『おうごんりゅう』のみこは、ちがったようです。
かのじょは『じしん』と『みらい』をしんじていました。
そのりんとしたつよさをわたしはこのましくおもいましたし
『あくま』もきょうみをひかれたのでしょうか。
かれはかのじょのいのちをうばいましたが
『こだいりゅう』のあかんぼうはみのがしてあげたのです。
あまつさえかれに
「“あくまぎょう”をしばらくきゅうぎょうする」といわせしめて。
かのじょのことをしるものはとうじしゃである『あくま』とわたしのみ。
きろくなんてもちろんありません。
ただ、かれとわたしのきおくのなかに。
わたしはかのじょのむくろから
ほしのかたちをしたはなをさかせました。
かのじょのかみのいろににた、みごとなきんいろのはな。
それはのちに『にんげん』たちから『ぺりくむ』とよばれ―
そのはなことばは「きせき」
そして「あくまをせいする」というでんせつさえもつたわらせて。
『にんげん』たちにもなにかかんじさせるものがあったのでしょうか?
わたしもじしんのしごとにまんぞくをしながら、しばしゆめにまどろんでいました。
ぼんやりと、そうぼんやりと。
あのきょうりょくなつきからのよびごえにひかれるまで。
あらがいがたいつきからのよびごえにひかれるまで。
ひかれるままに…わたしのいちぶはくだかれて、かけらになっておちていきました。
『りゅう』のたましいをもつ『にんげん』のおとめのなかに。
めざめのときが、ちかづいてきたのです。
ほろびをよぶ、わたし―『あんこくせい』のめざめのときが。



      >>20060531 いつも有難うございます!



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