うららかな、ある小春日和の午後。

ひと休みに、と立ち寄ったある街道沿いの茶店で、アキラは茶をすすりながらぼーっと行き交う人々を眺めていた。
のどかだ。茶が熱い。

 「……ぶち壊したくなる」

ブッ、とアキラは茶を噴き出した。
平和というものは容易く壊れるものだが、まさかこう瞬時にして、このような破滅的危険思想を聞かされるとは。
条件反射に近く、アキラは隣の少女を凝視する。
最近は時人の物騒残虐無用心な物言いが減ってきたと思っていたのだが。

 「ああいうのってさ、すげーウザイ」

お茶を一気に飲み欲して、時人は道のところをぐっと睨みつけた。
一体何がそんなに彼女の気に障ったのかと、アキラは時人の視線を追ってみる。
その瞬間彼はまた、ブッと吹き出しかけてしまった。

 「このくらい自分で歩けるわ!!」
 「ダメだっ!こっから先は辛い道のりなんだ。大事な嫁さんが捻挫でもしたらどうすんだ!」
 「だからってあなた…!」

―そこにいたのは、祝言を挙げたばかりのような、男女。仲睦まじさを(本人達は無自覚だが)見せつけている。
しかも極めつけは……女が男の両の腕で抱き抱えられていたことである。

話に聞く西洋の騎士が姫を助け出すなどというときは、あのような抱え方をするのかとアキラは思った。

 「ああもう!ムカツクッ!お茶もう一杯頂戴!!」

その時人の仕草に、アキラは笑いを抑えられなくなった。
危険な形容はさすが時人だが、その内容は案じていた破壊事態からは程遠い。
所詮、これも平和でのどかな風景の1場面であったのだ。
言葉は己が闘った時と変わらないが、その仕草、怒る対象にその怒り方は、どこからどうみても娘のそれとしか見えやしない。

 「………何おまえ、何がおかしいんだよ」

むっと、時人がこちらをにらむ。
内心の笑いを抑えて、あえてアキラはいつものようにクスリとしてみせた。
 
 「わかりやすすぎるんですよ、貴女は。」
 「はあ!?」
 
 「羨ましいんでしょう?あれ」

その一言に時人は口をあんぐり開けて、それからぼんっと音が出そうな勢いで顔を赤くした。
 
 「はっ、なっ、おまっ…!!」

やはり図星のようだ。その顕著な反応を愉快に思う。
しかしそこは時人で、全力で否定して見せた。

 「ふざっけんなっ!あるわけないだろそんな!曲解すんじゃねえっ!!
  そんな考え方するお前がバカなんじゃないのっ!?むしろ羨ましいのはお前だろッ」

…まったく、このような言い方では今までの娘らしさが台無しだ。
ふんっ、と偉そうな顔までしてみせて、可愛げの欠片も無い。しかもアキラを挑発するような台詞も忘れない。

はあ、とひとつ、アキラがため息ついて立ち上がった。

 「わっ!?」

そしてひょい、と時人を己の肩の上に担ぎ上げる。
 
 「どうです?これなら良いでしょう?」
 「はぁっ!?ちょ、お前っっ、降ろせっっ!!」
 「さて、もう行きますか。あ、茶代は先払いなので心配ありませんから」
 「そんなのどーでもいいっ!!いいからおーろーせーっ!!」

時人の抵抗を無視して、アキラはそのまま歩きはじめた。
背中を叩く時人の拳に、思わず笑みが零れる。
……全然、叩き方に抵抗する気が無い。


天邪鬼な彼女のこと、内心嬉しいのだろうと思って、アキラは小春日和の午後ののどかさに浸っていた。



      >>20070106 絵のみはこちら



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