※会社の企画や設定に関しては妄想だけで作っておりますので、相当おかしい点があるかと思います。




 私はとある菓子メーカーの企画営業部に所属しているのだが、今春発売になる新商品の売り出し方を企画するリーダーとなり、もうひとつの案とどちらが良いか重役の前でプレゼンテーションすることになった。
 その仕事が飛び込んできたときに浮かんだ私の戦略イメージとしては、既存のシリーズから発売されるそのお菓子をスタイリッシュで前衛的なイメージで売り出し興味をひきつけつつ、かつ既存のお菓子にも興味を再度持ってもらうというものである。――コンセプトとして名づけるのならば"新たなる発見"だ。
 そこでプレゼンテーションのために資料を作成するためもらった部下二人をフル稼働させ、パッケージをカラフルな色を使う外部の新鋭デザイナーに頼みお菓子のパッケージを作り上げる。
 アンケートをとりパッケージのイメージやお菓子についての評価をもらいつつ、プレゼンテーション用の資料を作成しその日がやってきた。



      居酒屋で




 結果的には負けた。
 私は、もう一人の企画リーダーであるゼロスが淡々と資料の解説とプレゼンテーションをしていく様子や重役たちの反応を眺めながら敗北感につつまれていく。
 彼は私とは真逆のコンセプトを打ち出してきた。
 そう、定番化されたイメージそのままで行くことにより固定客をつかんでいく方法だ。
 既存のものに沿うためコストが低い。なおかつ、そのお菓子の特色をカラーで表していくので新しい物好きのOLや女の子をつかんでいく。
 ……奇抜さはない古くから使われている方法であるが、経済状況が厳しい今はそちらのほうがいいのかもしれない。
 私は今回プレゼンテーションを行ったみんなで慰安会を行うために居酒屋へ来ていた。
 負けた悔しさにカクテルを飲みながら、にこにこと表情を変えないゼロスを見る。
 というのも、プレゼンテーションでは敵であったがもともとは同じ企画営業部に所属する仲間であるのだ。コンセプトが決まったあとは戦略についての会議やら他の部門への連携、営業の業務をともに行う。
 なので、いつもプレゼンテーションが終わったあとは戦いを繰り広げた仲間とも居酒屋で飲み嫌なことをすかーっと忘れ、明日へ向かって連携を強化するのであった。
 ゼロスはにらみつける私の視線に気がついたようで、いつものように何を考えているのか読みにくい昼行灯な顔を向ける。

「大丈夫ですか、フィリアさん?」

「大丈夫よっ。あー、同期で入ってからどうしていっつもゼロスに負けるのかしら!」

 くやしくて、だんとカクテルが入ったコップをテーブルにたたきつける。

「フィリアさん、危ないですよ……」

 後輩で今回部下として手伝ってくれたアメリアが心配そうな表情で私を見ていた。
 私はへーきへーきとぱたぱた手を振りながらごくごくとカクテルを飲み干し、口を尖らせゼロスを見る。

「この男ったら戦いなんて嫌いですみたいなのほほん顔で、あっさり私の上に立つからほんとむかつくわ!」

「そんなことないですよ。現に、何度かフィリアさんの企画に負けたじゃないですか」

「それでも貴方のほうが勝ち数は上でしょ!」

 フォローに入ろうとするゼロスにそう吐き捨てると、私は軟骨のから揚げをぼりぼりと食べた。
 そんな私の様子を、がつがつと物を食べていたはずのリナがジト目で見て呟く。

「フィリア、本当にゼロスが嫌いなのねぇ」

「腹が立つのよ! そのまま要領よく勝ち進んでいって中間管理職とか身動き取れないような立場になればいいのに!」

「フィリアさん、言い草がひどいですぅ」

 吐き捨てるような私の言葉に、ゼロスはのの字を書いてひどく落ち込んだ様子を見せる。
 プロジェクトに負けて落ち込んでいるのは私のほうだというのに、これではまるでゼロスのほうが落ち込んでいるようだ。本当に腹が立つ。
 私はお替りで頼んでいたカシスオレンジをぐいっと一気飲みする。
 そうして、据わった目でゼロスを見ようとしたのだが――。
 急に視点がぐらりと歪んだ。

「フィリアさん!」

 遠くでアメリアが叫ぶ声が聞こえる。
 頭ぶつけるかしら――?
 そんな風に思った次の瞬間、しかし私の頭は地面にたたきつけられることはなくふわりと深い森の中にいるような匂いに包まれた。
 ぼやけた視点で見てみると、そこには心配そうな目で私を見るゼロスがいて。

「飲みすぎですよ、フィリアさん。僕への罵倒ならいくらでも聞きますから帰りましょう」

 いやだ、と小さく述べるが見事に無視された。
 頭の上で、後はお願いしますという言葉や頼んでいいのねと問いただすような声が聞こえたのだが、それが一通り止むとゼロスはふわりと私を抱き上げる。
 私はふわふわと穏やかな匂いに抱かれながら彼の首根っこを捕まえた。

「ゼロスのバカー、生ごみー……」

 私の小さな罵倒にはいはい、と答えながら彼は確かな足取りで居酒屋の外へと出た。

「僕は頑張るフィリアさんが好きですよ」

 揺れる世界の中で、そんな穏やかな声を聞いたような気がした。



      >>20101116 ゼニアオイ様ありがとうございました!



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