日常
今日は天気がよいので、シーツとカバーを洗って布団を干してしまおうと思い立った。
洗い物用の大きな桶と洗濯板、石鹸と洗い物の洋服とシーツを用意すると先に干してしまっていた布団の下のほうで、わしゃわしゃとシーツを洗う。
柔らかな森林の匂いと、小さな花たちの柔らかな香りがシャボンの匂いとともに私の鼻をくすぐる。
重労働ではあるが、洗いきったシーツを物干し竿に干すと冷たい水の感覚を間近に感じて柔らかな気持ちのまま空を眺めた。
「フィリアさん」
呼ばれ振り向くと、そこにはいつもどおり笑っている獣神官の姿が。
私は敵でありながらも幾度なくこの家に訪れ、居ることに慣れてしまった彼の姿に首をかしげた。
「お久しぶりですね、ゼロス。……それは?」
「家事も終わったようなので休憩にしないかと思いまして」
私が首をかしげた原因である、ティーポットとお菓子を見せ付けるように上げ彼は軽い口調で述べた。
ああ、それもいいかもしれないと彼の提案に乗る。
物干し竿よりも奥に置かれていた白いテーブルへと、彼はティーセットをトレイに乗せて運んだ。
四つの椅子が置かれてあるそれの壁側に座ると、ゼロスは流れるような仕草で蒸らしてあったティーポットから香茶をティーカップへ注ぐ。
そうして私と自分用に注いでしまうと、彼は私と向かい合わせの形になるよう座った。
その様子を眺めながら香茶をこくりと飲み、ほうと息を吐く。
「ゼロスに香茶を入れてもらうなんて、初めてじゃないかしら?」
「ああ、そうかもしれませんね。フィリアさんの香茶への思いは並々ならぬものがありましたら、触れさせてももらえませんでしたし」
確かに私の香茶へのこだわりと言うのはただ飲むだけではなく、茶葉からお湯の温度や蒸らし時間、注ぎ方にまで及んだものだったから。
そうして、骨董が好きな関連もあるのだろう、ティーセットにもこだわりがありそのときの気分や茶葉によって注ぐものを変えていたから、他人には触れられないと思わせるものがあったかもしれない。
「それにしてもおいしいわ。中間管理職という立場どおり器用貧乏だからかしら?」
私の言葉に、ゼロスは肩をすくめた。
「単純に貴方の動作を何度も見ていましたから、覚えてしまっただけですよ」
なんてことなしに言うゼロスの様子に、ああ彼はなんて事を言うのだろうと思わず顔に熱が集中した。
だって、彼の言葉は私が香茶を入れる動作を覚えるぐらいには私のことを見ていたという証拠であり、それだけの時間を一緒にすごしたということなのだから。
「フィリアさん?」
彼はまるでその言葉の深さを理解していないように、いぶかしげな様子で私を見ている。
何でも知っているはずの彼のその様子がおかしくなってきて、私はくすくすと笑った。
「年月を重ねると一緒にいることが普通になるのかしら」
それはまるで夫婦みたいだと、青空と緑というまったく似合わないものに囲まれたゼロスを見て思った。
>>20101209 ayakiti様ありがとうございました!
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