リナとアメリアに初めて会ったのは、高校二年の五月のことだった。
クリーンヒット
今日は天気がいいから昼食は中庭で食べよう、と述べたのは俺の友人であるガウリィである。
また能天気に面倒なことを言うなと思いながらその誘いに了承し、四時限目が終わると先に中庭へと来ていた。
というのも、俺とガウリィはクラスが違うのだが、ガウリィのクラスの四時限目の教科が社会でありその受け持ちがシェラー先生だったからである。
彼女は生真面目な授業を行うのだがいまいち要領が悪いのか時間配分が悪いのか、多少時間をオーバーしてしまうのだ。で、いつもグラウシェラー先生に怒られている(俺は実際見たことがないのだが、何人もその姿を目撃しているらしいしその噂が俺の耳に入るぐらいには有名なのだろう)。怒るぐらいならば、上手い時間配分の仕方でも教えたほうがよほど建設的だと思うが。
というわけで、学生の間ではシェラー先生の時間オーバーは(グラウシェラー先生に怒られるという)同情すべき点もあるので、暗黙の了解なのだ。
そんなに時間がオーバーしないといいな、と思いながらのんびりとベンチに座ってぼんやりと風景を眺めていたら、少し遠い位置にある木が不自然にがさごそ揺らいでいる。
その不自然さに興味がわいて、弁当をおいて木に近づくと枝からジャージを履いた人の足がぶらんと伸びているのが見えた。
「おい、なにやってるんだ」
「ふぇ?」
俺の問いかけに間抜けな声を出したそれはひょいと顔をこちらへと向けた。
黒髪をぴょんぴょんはねさせている童顔な少女は、さも不思議そうな顔をしている。
その様が逆に不思議なんだが。
「えっと、小鳥さんが木から落ちちゃったみたいなんで拾って元の巣に戻してあげてたんですよ。困った動物を助けるのも正義です!」
ぐっとこぶしを握り締める様に、ああこの娘はガウリィと似た系統の不思議ちゃんなんだなー、と理解した。
まぁ、奴は正義が云々かんぬんとは言わないが。ただ能天気にアホなだけである。
「とりあえず降りてこい。危ないだろうが」
「あ、そうですね。もう小鳥さんは戻しちゃいましたし」
危ないという単語を見事に無視して、彼女は降りるという部分にだけ反応する。
納得するように言葉を述べると、彼女は無造作にその体を宙に投げた。
「おい!」
俺はあわてて、彼女を受け止めようとするのだが――。
「ぐふっ」
膝から投げ出された体は、見事膝蹴りという形で俺の体にクリーンヒットした。
鈍い腹部の痛みとともに、体が後ろに倒され草の上に背中からダイビングする。
そして、彼女の全体重が俺の腹部へと乗った。……体育会系の部活で多少鍛えているとはいえ、ダメージは深い。
「わわっ、大丈夫ですかっ?」
少女はあわてて俺の体から退くと、心配そうに顔を覗き込んできた。
が、しゃべれない。
二段構えで襲ってきたダメージは深刻に体の奥へと響いたわけである。
彼女は心配そうにおろおろと俺の様子を眺めているが、――そっとしておいてくれ。
そんな風に思っていると、二重の声が聞こえてきた。
「おー、ゼル。寝そべって気持ちよさそうだなぁ」
「……それ、あたしには悶絶しているようにしか見えないんだけど」
「リナぁ!」
俺を見ていた少女は、赤髪の少女を泣きそうな声で呼んだ。
どうでもいいがリナとか言う赤髪の少女が正しいぞ、ガウリィ。
「アンタ、なにやらかしたの? まぁ、なにやらかしても大して驚かないけど。目つきが悪いから正義のためにどつき倒したとか?」
「わたし、そんなリナみたいなことしないわっ!」
……この二人組は、どちらとも要注意危険人物のようだ。
それだけを認識しながら、俺は頭上で繰り広げられる会話を無視し痛みと戦っていたのである。
>>20101209 匿名様ありがとうございました!
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