※ゼロフィリ小説「偽装する愚者」のゼロス視点。
彼女は長い年月を生きる黄金竜にしては、ひどく個性的な存在だと思った。
長い年月を生きるものは往々にして一種の悟りを開く傾向にある。まぁ、長い時間を過ごせば自分の立ち位置や力具合を把握し諦念を覚えるものなのだろう。
そして、僕がまともに話したことのある黄金竜というのはそういった人たちばかりだった。
なのに、彼女は初めて出会ったときから黄金竜らしからぬ幼さで僕を毛嫌いし、実力の差は明確だと言うのにそれを前面に押し出して喚いていたのである。
本気で罵倒し、ころころと表情を変える様は他の知っている黄金竜と違ったので面白く感じたのだ。
――よくよく考えれば、他の幼い黄金竜だって同じ対応をしたかもしれないのでやはり初めて出会うということに意義があるのだと思う。
破壊する愚者
そうして、今僕は彼女の傍にいる。
それは転生した唯一の古代竜にして異界の王を取り入れた魔竜王様の配下だったヴァル=ガーヴ……いや、今はヴァル=コプトになるのだろうか、彼の卵を監視するために。
彼女は変わらずに僕を罵倒し毛嫌いしていたが、慣れが生じたのか(というか黄金竜の娘がそうそうに魔族を慣れるというのはいかがなものかと思うのだが)家の中にいる事を無言で了承するようになった。
その対応の変化が、僕の琴線に触れる。
彼女のその変化はまるで自分達の立場が不安定なものだと思わせるから。
赤の竜神のように世界を守るために感情を揺らすことのない存在になれない、黄金竜の娘。
赤眼の魔王様のように世界を滅ぼすための行動を食欲と履き違える――、魔族の僕。
例えば、この娘に僕という存在を異性として刻み付けて別の感情を植え付けたらどうなるのだろうか。
そんなことを思って、僕は笑った。
それは、もの知らぬ子供が音の鳴るおもちゃを目の前にして、興味本位で動かしてみるようなものなのだ。
きっと単純で純粋で無垢に面白いのだろう。
僕は面白い事を思いついたので即座に実行したくなる子供のように、瞬時に動いた。
彼女の存在を精神世界面から見つけると、ふわりと実世界を揺らして現れる。
刹那、大切な壺を磨いていた彼女の表情は、不愉快なものを見たかのように歪んだ。……いつものことだが、失礼である。
「なんのようですか、生ゴミ魔族!」
「いつもいつもひどい言いようですねぇ、フィリアさん」
僕は表情を変えぬまま、おちゃらけた声でそう述べると、フィリアさんは眉間に皺を寄せて声を荒げた。
「貴方に何の目的があるというのですか!? 私にはなんの力もありませんし、ヴァルもまだ卵から孵っていないのですから放っておいてもよいでしょうっ?」
本当は来る理由を察しているはずの彼女に、僕は笑みを作った。
「ヴァルさんが卵から孵っていなくとも経過観察は僕の定期任務ですし、――それに僕は貴方を気に入っているんですよ」
前者は分かっていたのか表情を動かすこともしなかったのに、最後に一言述べただけで彼女は驚いたような表情を見せた。
そんなにも、僕がフィリアさんを気にいったと言うことがおかしいのだろうか。
僕はそんな彼女に更なる揺さぶりをかけるために、言葉を続ける。
「神魔融合魔法って不思議に思いませんでしたか?」
彼女は言葉が理解できないと言いたげに、眉を顰める。
「相反する存在の力を媒体を介すとはいえ融合させる魔法――、それは本来存在するべきものではありません。赤眼の魔王様の力を導く魔族と、赤の竜神の力を導く神族が協力することなど、ありえないはずなのですから」
けれど、その原型は封印された形で残っていた――続けるようにそう述べると、彼女はじっと僕を見ていた。真意を知ろうとするかのように。
「だとすれば、神族に溺れた魔族がいたか魔族に溺れた神族がいたか――、いいえ両方なのかもしれませんね、彼らがなんらかしらの理由で神魔融合魔法を作り出した――そうは思えませんか?」
結論まで述べると、間髪いれずに彼女は叫んだ。
「何を言っているのですか、ゼロス! 私達は相容れぬと決まっているんですっ」
それは、正論である。
この世界を作り上げ、赤眼の魔王様や赤の竜神を創造した"あのお方"が定めた基盤の一つだ。
けれど、彼女は正論を述べながら揺らぐ。やんわりと、不安定な負の感情が僕に纏わりついた。
思い通りにおもちゃが反応していると感じながら、続ける。
体を蝕む痛みを持つであろう、言葉を。
「しょせん、僕達は中途半端なのですよ。魔族はこの世界を滅ぼすことが宿命であるはずなのに、負の感情を食べ満足を得ることにより、目的が滅びから食事へとすり替わる」
それは真理のはずなのにぎりぎりと自身を否定されたかのように体が締め付けられるように痛んだ。
予測していたこととはいえ、さすがに辛いものがある。
けれど、痛みを覚悟してまでもこの娘を揺さぶりたかった。
「黄金竜の巫女だった貴方もそうでしょう? 神族であるはずの貴方も今や赤の竜神に仕え世界を守ることだけが目的ではなく、こうして小さな場所でのんびり暮らすことが目的となっている」
彼女は縋るような目で僕を見つめ、浅く息を吐く。
自分の常識が覆されていく恐怖に。
僕は、更に彼女を追い詰めていく。
「それに、貴方は世界を確実に守ろうとしていた長老達に反抗していたじゃないですか」
「それは……! 長老の意見が世界を救うとは思わなかったからですっ」
「けれど、貴方は他の世界をも救おうと考え、自らの世界を危機に追いやっていたではないですか」
否定の言葉まで事実に押しつぶされ、フィリアさんはぐっと押し黙り視線を下に向けた。
「結果が全て、なんて言わせませんよ」
彼女が自身への言い訳に使う言葉すらも封じ込める。
すると、フィリアさんはぼんやりと僕を見た。
負の感情が纏わりつく。恐怖、不安――。
それは全て美味しいご馳走だ。
「感情が揺らいでいますよ、フィリアさん」
そう述べ、僕は笑った。
「僕達は中途半端なのです。人間よりは偏りがあるかもしれませんが、しょせんは中途半端なのですよ。……だから、僕はフィリアさんがお気に入りなのです」
不完全。
自己中心的にしか物事を考えられず、それが自身の立場を揺らがせているとも思わず、いかにも自分は普通の黄金竜なのだと言わんばかりに僕を罵倒する。
年月を経た黄金竜に見られるはずの達観した傲慢さではなく、その不完全で自己中心的な彼女を潰してしまいたい。
全てを叩き潰し、今の彼女たる所以を塗りつぶしたら彼女は一体どうなるのだろうか。
僕は彼女の腕を掴み引き寄せる。
驚いた表情で見つめるフィリアさんに、作りこんだ笑顔ではない表情を見せ彼女の上に乗った。
かしゃりと、なにかが割れた音が響く。
「ゼロス、なにを……っ!」
声を飲み込むように、フィリアさんの唇を塞いだ。
ぎゅっと固く結んだ唇をぺろりと舐めてキスを繰り返してみれば、くすぐったかったのか少しだけ唇を開ける。その隙に舌を侵入させて絡み取ると、フィリアさんは苦しそうに頬を上気させた。
「んぁ……っ」
手袋をつけたままの手で彼女の服の中に侵入し素肌に触れると、彼女は小さく体を震わせ。
他の女性と同じような反応を見せる――しかし、塗り替えられ変っていく彼女を静かに見続けた。
「どうして、こんなことをしたのですか?」
彼女はぎこちなく体を動かし衣服をより集めると、恥ずかしがるように素肌を隠した。すでに、細部まで見たというのに。
僕は変わらずの笑顔を浮かべると、変わらぬ口調で述べた。
「言ったでしょう、貴方がお気に入りだって。だから、僕の知らない女としてのフィリアさんを見てみたかったのです。……まぁ、あんな馬鹿でかい竜とあんな事をやったと思うと笑えますが」
僕が冗談交じりでそう述べると、フィリアさんは間髪いれず声を発した。
「それを言うのならば私もです。あんな黒い錐とあんなことをしただなんて思うと、笑えるどころかあほくさいです」
それは、以前と変わらぬ皮肉で。ああ、けれど怒鳴る体力もないのか比較的刺々しいだけに収まっているが。
彼女の種としての確立された常識を叩き潰して不安定なはずなのに、フィリアさんはそれでも僕へ憎まれ口を叩く。
ああ、だから彼女は面白いのだ。
宿敵に女性としてのプライドをズタズタにされたのに、不安と怒り以外の感情を織り交ぜるのだから。
「やっぱり貴方は面白いし、お気に入りです。そんな絶妙な感情を出してくれる人も初めてですしね」
そう述べると、彼女は苦々しい表情で僕を睨みつける。
それを笑顔で返すと間抜けな格好の彼女へ更に言葉を述べた。
「では、僕は獣王様のご命令があるのでこれにて失礼します。あ、またこんなことをしに来ますので」
「来なくていいです!」
怒鳴り声を聞きながら、僕は精神世界面へと身を浸らせたのだった。
面白い変化を期待している。
>>20101116 匿名様ありがとうございました!
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