指が熱い
その国は、異性でも同性でも手を繋ぐ姿がよく目に付く国だった。
不思議に思って聞いてみると、別になんてことのない話でスキンシップの一環らしく、別にとても仲が良い証拠でもなんでもないらしかった。逆にボクたちが前に訪れた国では手を繋ぐという行為が恋人同士のみに限るというほうに酷く驚いているようだった。
一日目はエルメスと陸君とシズさんと皆でこの国を観光したのだけれど、二日目になってエルメスと陸君は遠慮し始めた。
どうも、シズさんとまた再会してから二人はよく遠慮するようになった。エルメスはボクがこっそり話しちゃった事もあるのでなんとなくわかるけど、陸君はどうしてだろう?と首を捻った。
まぁ、それはともかくとして、ボクとシズさんは消耗品の補充もかねて街に繰り出したのだった。
「はぁ、やっぱり凄いですね」
辺りを見渡すと手を繋いでいる人人人。
寧ろ、手を繋いでいない人のほうが珍しいぐらいに手を繋いでいる。もっとも、それの時間帯が早ければまた違ったのかもしれないけれど。
ボクが感心するように呟くと、シズさんはふむ、と左手を顎に当ててその光景を見ていた。
「確かに。文化の違いというものにはいつも驚かされますね」
ボクもその言葉には同意見だった。各国はほとんど他国に影響される事無く独特の文化を築き上げている。それは、一年間の天候条件だったり、その国の人間性から現れたりするのだが、同じ人という種族なのに多様な考え方があるものなんだな、と思う。
それと同時に、多様な考え方を出来る人の発想というものに驚嘆するばかりだ。
「…ねぇ、キノさん」
「なんでしょうか?」
ボクが背の高いシズさんの顔を見上げると、不意に右手が包み込まれたように温かくなるのを感じて、手を繋がれているのを感じた。しかも、指と指一本一本を絡ませるような密着した手の繋ぎ方だった。
びっくりして、でもその手を離せずにシズさんを見たら、少しだけ眉をひそめて苦笑するような笑顔を浮かべて言った。
「この国に倣って、俺たちも手を繋ぎましょう」
ボクが何にも返事できずにいたら、シズさんはそれを肯定と受け取ったのかそのまま歩き始めてしまった。周りにはボク達と同じように手を繋いで歩いている人達がたくさん居るのに、なんだかとても恥ずかしくて顔が赤くなっているのを感じながら、神経が手の指先まで敏感に行き届いてシズさんの熱をその一部分で感じようと必死になっている。
この指が熱くなるだなんて知らなかった。
そうして、手を繋ぎながらボク達は国を歩いた。
時には買い物をして手を外す事もあったのだけれど、その度にさりげなくシズさんがまた手を繋いで、そのまま歩いていくのだ。
この日3軒目の店で、何故だか店員であるおじさんがニコニコとしているので、疑問をそのままぶつけてみた。
「どうしたんですか?」
「え、ああ。君たちみたいな可愛らしいカップルを見ているとなんだか和んでね」
「ええ?どうして、そんなことを?」
どうしたらそんな風に見えるのだろうか。
ボク達はただ手を繋いでいるだけなのだ。この国では手を繋ぐ事は別段特別なことでないだろうし、友情というもので手を繋ぐのであれば例えば男女の友情だってありえるのだから、今ボクとシズさんがしている事は直ぐに恋人同士である、と判別できるようなものでないだろう。
「知らないのかい?その手の繋ぎ方は俗に恋人つなぎといわれていてね、普通の手の密着よりも密着しているから仲の良いカップルなんかがそういった手の繋ぎ方をして歩いているんだよ。旅人さん達は見なかったのかい?例えば女性同士の友達であれば、普通の手の繋ぎ方をしていただろう?」
つまり、今ボクとシズさんが繋いでいる手の繋ぎ方は恋人同士がする特殊なものだったらしい。
頬に熱が集まるのを感じて、シズさんのほうを見ると若干照れているようで少しだけ頬が赤らいていた。その様にボクは少しだけ嬉しくなる。
「案外、外れてもいないようだけれどね」
くすり、とそのおじさんは笑って買った物をサービスしてくれた。
外に出ると、くつくつとシズさんがとてもおかしそうに笑うので、ボクはどうしたんだろうと視線をあげようとすると、その合わさった手をシズさんは自分の口元に寄せて、ボクの指にキスをした。
只でさえシズさんを感じようと神経過敏になり熱くなっていた指が、さらに熱を増してその熱がボクの全身を駆け巡る。
「さぁ、行きましょう?」
嬉しそうに微笑むシズさんの手とボクの手は繋がったまま。
>>20050903
恋人つなぎで合ってるよね…?
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