何回目?




 どうしてこうも弱い者を搾取したがるのだろうか?
 俺は絶命した男達を眺めながら思った。
 致命傷はそれぞれ違う。
 ばっさりと切られた後が見受けられるもの、小さな穴が開いてそこから出血しているもの。――それは止めをさしたのが俺かキノさんかの違いだった。
 キノさんは男達の持ち物を軽く確認した後、自分の弾が何発あるのか確認していた。
 弾は所詮消耗品だ。
 どれだけ少ない数で敵を打ち砕いていくかというのもまた、パースエイダー使いの腕の見せ所なのだろう。俺も血をどれだけ刀に付着させないかが腕の見せ所だ。無論、調整や手入れも同様に。
 そんなことを思っていると、自分の精神が麻痺したのかと疑いたくなるときがある。
 必要なことだとわかっているのだ。
 必要なことだとわかっているのに、同じ種族であるはずの人間を殺している。自身の身を守るためといって。
 遠い昔に教えられた道徳観念が罪悪感を生み出す。
 しかし、同じことを繰り返すのはあくまで俺が旅人だからなのだろう。
 弾の補填が終わったのかホルダーに銃を仕舞ったキノさんは俺を見た。

「どうかしたのですか?」

「いや、何回目かと思ってね」

 飛び出した言葉はそんな陳腐なものだった。
 キノさんは不可解だと言わんばかりの表情を俺に向けた。

「なにがですか?」

「こうやって人を殺すことがさ」

 俺の言葉にキノさんは眉を顰めると、さっさと離れようと促したので俺はそれに従い陸の乗っているバギーに乗り込んだ。キノさんはエルメス君に乗り込み同時に発進する。
 ぶろろろと音を立てながら森の中に出来た街道を進んでいく最中、キノさんは真っ直ぐ前を見たまま言葉を発した。

「どうしてあんなことを言ったんですか?」

「あんなこと?」

「さっき言ったことですよ」

 ああ、と直ぐに自分が人を殺すことについて言ったことを思い出した。
 覚悟は変わらず自分の中にあった。彼を――父をこの手で殺そうと決めたときに。その時には例え他人を犠牲にしてでも父を殺すことを誓っていたし、それを果たすためならば他人を殺すことだって厭わないと決めていた。
 もっともそれでも無関係の、俺に殺意を持っていない人を殺すことは出来なかったが。

「ふと、考えるときがあるのさ。俺はどれほどの犠牲の上で成り立っているのだろうか、と」

「教え込まれた道徳ゆえに?」

「教え込まれた道徳ゆえに」

 きっと、それがなければ平気で人を殺していたに違いない。
 道徳観念さえなければ、同族であろうとも殺したところで何の罪悪感も生まれやしないのだ。何故ならそれは生きるためであり、俺達は生きるためという概念の上で他種族を平気で殺しているのだから。それに差はない。
 邪魔になるものは排除しなければいけないのだ、同等に。
 しかし、それは想像のみであり俺にはわからない。道徳観念のない考え方など。
 道徳というのは小さい頃から身近にあったものであり、祖父に母に……そして、父に教えてもらったものだったから。

「貴方は本当に優しい人ですね」

 突然キノさんはそういって微笑んだ。
 その意味が分からず、俺はキノさんをまじまじと見る。

「ボクは、人が死んでいるのを見ながら自分が人を殺したのは何回目だろうなんて思ったことは一度もありません。彼らはボクの旅の邪魔をした。理由はそれだけで十分だったし、そこに道徳を持ってきても無意味だと思っていましたから」

 多少は習ったのですけれどね、とキノさんは微笑んだ。
 日が傾き始め、夕暮れ時になってきた。
 キノさんはこの辺りで野宿しましょうとエルメス君を止めたので、俺もそれに倣ってバギーを止める。がたん、と振動が身体を包み込み其処に止まった。

「ボクはそれで平気だったし、それが普通だと思っていた。――もしかしたら、ボクの生まれた国の環境ゆえかもしれませんが」

 口元に笑みを浮かべたキノさんは何を思っていたのだろうか? 俺にはまったくわからなかった。
 そして、キノさんはどんな国で育ったのだろうかと思う。もしかしたら、一定の規律さえ守っていれば人を殺してもいい国だったのかもしれない、と考えてみるが真実はキノさんの胸の中にしかないのだろう。

「考えてもしょうがないことを考える貴方は酷く間抜けにも見えますがボクは――」

 呟いて、ぐっと俺の緑色のセーターを引っ張ると頬にキスをされた。
 そうして、先の言葉は紡がれず消えてなくなる。

「ボクらがこうして触れ合うのも何回目なのでしょうね」

 にこりと微笑んだキノさんは少女そのままだった。



      >>20070228 キノの場合連番で同じ内容になることが多いですな。



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