対峙
私の名前は陸。以下略。
ともかく、何故か、シズ様とキノさんが対峙している。
私はシズ様の僕ではあるが、二人の見合っている間合いなどに不用意に入ろうとすれば、シズ様を不利にすることしか出来ないだろう。だから、ポンコツと見守っている。
「大体、二人とも素直になればこんなことしなくてよかったわけじゃないか」
ポンコツがため息を吐いた。
……不本意ながら、私もポンコツと同意見だった。
「バカ犬はどっちが勝つと思う?」
「分からない、が、私はシズ様が勝つことを祈っている」
「盲目的な尽くしッぷりだね、これだから群れたがるバカ犬は」
「お前には言われたくない、言語変換機能すらもままならないポンコツが」
「なんだとー」
ともかく、私とポンコツが言い合いになりそうになった瞬間、二人は動いた。
というのも、キノさんの持っているパースエイダーが鳴りはじめたのが分かったからだった。
ぱんぱんぱんぱん
軽快音と共にシズ様が見事な手さばきで弾を弾いていく音も聞こえる。
かんかんかんかん
ふ、とシズ様が踏み出した。
自動作動型パースエイダーもあるとはいえ、キノさんにとってはなるべくなら接近戦は避けたいところであろう。刀はもともとパースエイダー使いのために出来ているのではなく、接近戦のために出来ているのだから。
「ひゅー、さっすがどっちも人間離れしたわっざー」
隣で×××××なモトラドがバカっぽい声を出していた。
私は、シズ様の邪魔にならないように声を出さぬまま、その姿を見ていた。
かきんッ
シズ様の刃をキノさんはパースエイダーの銃身で捕らえる。
じわり、と睨んだ二人の表情はどのようなものなのか、私の位置からでは捕らえることが出来なかった。
わざと弾いて、距離を取ると、キノさんは「カノン」と呼ばれる6発弾のパースエイダーを取り出した。広い視野では同じ条件ではあるが、キノさんはパースエイダーで奇襲をかけられる。そのためか、森のほうへ逃げた。
「……キノのバカ。勝負の行方がわからないじゃないか」
残念ながら私も同意見だった。
銃声が遠くで聞こえる。
もちろん、私の耳ではそれはたやすく捕らえられたが、それは勝負の行方を決めることではない。
…。
……。
ようやく、二人がひょっこりと出てきた。
どちらも、対峙していたときのような殺気はなく、キノさんはハンドパースエイダーをホルダーにしまっていたし、シズ様は刀を鞘に入れて、左手に持っていた。
「どっちが勝ったの!?」
ポンコツは楽しげに勝敗を問いただした。
と、不意にシズ様が参ったように肩をすくめた。
「私の負けだよ、エルメス君。キノさんには敵わない」
それでも、何処かシズ様は嬉しそうな表情をしていると思った。
「というわけで、エルメス。しばらくシズさんたちと同行することになったよ」
「ええええーー!?なにがどう転んだらキノが勝ったのにシズさんたちと旅しなきゃいけないのさ!いや、シズさんはいいさ、なんでこのバカ犬と!!」
むか。
私だって×××××なモトラドなんかと一緒に旅をしたくない。
けれど、シズ様の幸せそうな表情を見たら、…ポンコツのことはなんとか我慢してやろうと思う。まぁ、私はポンコツとは違って、そんなことで取り乱したりなどしないからな。
「決まったことだよ、エルメス」
「むぅ…。まぁ、キノがそれで幸せってんならぼくも妥協するさ」
ふむ、ポンコツにも遠慮とかいう気持ちはあったようだ。
シズ様はにっこりと笑って私の頭を撫でながら仰った。
「エルメス君と仲良くするんだよ」
…それは100歩譲っても無理です、シズ様…。
あっちはあっちで、キノさんに蹴られているようだった。…一言多いんだよ、×××××が。
「さて、行きましょうか、シズさん」
「ええ、と言っても、直ぐに野宿の準備もしなければならないようですが。ところで、晩御飯は如何しましょうか?バギーなので、それなりのものは乗せていますよ」
「へー、ほんとですか」
「キノ、よだれよだれ。びんぼーしょー」
がん、と小気味いい音が聞こえた。
その様子に、シズ様はとても嬉しそうな表情を見せておられた。
私とシズ様は近くに乗せてあったバギーに乗り込んで、エンジンを掛けられた。
「一つ、お伺いしてもよろしいですか?」
「なんだい?」
シズ様はいつも通りに優しげに私に微笑んでくださったので、私は素朴な疑問をした。
「一体、シズ様とキノさんは何故対峙なされたのですか?これが、キノさんの条件ならば戦うこともなかったような気がしますが…?」
「それは、男の意地ってものさ」
やはり、シズ様は笑っておられるばかりだった。
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