身長差




 一台のバギーに乗って、隣には白い長い毛並みをして、いつも笑っているような顔をした(本人曰く楽しくて笑っているわけではないそうだ)犬、陸を乗せ、その隣には一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものを指す)エルメス君と、黒いジャケットに白いシャツ、その上にはどこかの国で見かけたことのあるようなコートを羽織り、腰にはベルトをして、腿にかかるようにハンドパースエイダーが見える10代半ばの少年、キノさんが並行するように走行していた。
 俺の名前はシズ。緑色のセーターに顔に色のついたゴーグルをつけ、真っ直ぐと前を見ていた。
 元々、俺と陸は目的もない…ともすれば、目的を探すために、あてのない旅をしていたのだが、ひょんなことから、キノさんたちと旅をすることになった。

「次の国までは後どれくらいかな?」

「前の国の話ではもうそろそろつく頃だと思いますが」

 ちらり、と横目を向けるとやはり前を見たままモトラドを走行させている。
 エルメス君曰く、「モトラドは自転車ほどではないけど、運動のようなもの」らしい。だが、俺は長期に渡ってモトラドに乗る機会に恵まれていなかったので、その真意は掴みかねる。
 と、周りを覆っていた木々がゆっくりと視界から消えていって、奥のほうから城壁が見えてきた。

「国だ!」

 エルメス君の声が聞こえた。



 入国審査は一枚の紙に書かれた質問に答えるだけだった。これといった、特質したものもなく、すらすらと書いてしまう。

「滞在日数は」

「3日間です」

 それは、キノさんのルールらしい。3日でその国を知ることが出来るし、それ以上とどまっては他の国を見ることが出来ない。実に、旅人らしい考えだな、と思った。
 ついでに、なるべくシャワーがあってそれなりの料金でふかふかのベッドがあるところも聞いた。これも、キノさんの意見だった。妙に豪華なのは俺にはあわないので、特に口出しもせずにそれを聞いていた。
 宿屋は丁度良く空いており、そこの車庫のような場所にバギーを止めてしまうと、早速観光に行こう、とキノさんたちを誘った。

「…そうですね、特質したところはなさそうでしたが、見ておきたいですしね」

「ボクはここで待っているよ」

「エルメス君?」

 俺は、エルメス君の言葉に疑問を抱いて、そう聞いた。

「だって、モトラドの意義はエンジンをつけて走ることだし。シズさんとバカ犬が一緒じゃボクはキノに押されていくしかないだろ?だったら、待っていても変わらない」

 それに、と付け加えるように。

「寝たいしね」

 モトラドには表情を作る機能はないから俺にはそれはどんな気持ちで言ったのか察することは出来なかったけど、キノさんは笑っていた。

「…ポンコツと同じ意見というのは気に食わないですけれど、私も待っています。是非、お二人で楽しんできてください」

 陸もエルメス君と同じことを言って、俺は困ってキノさんを見た。
 もちろん、4人で観光するつもりだったから。

「…強制する訳にもいきませんし。シズさんはそれでよろしいですか?」

「ああ、構わないが…」

「じゃ、いってらっしゃーい」

「お気をつけて」

 見送られるような形で俺とキノさんは国の中を見て回ることになった。



 国は広すぎず、だからといって徒歩で周るには大変そうだったので、街の人に観光名所を聞き、のんびりとそこを目指して歩いていた。
 右側を見ると、キノさんの頭がふわりふわりと揺れているのが見えて、なんだか、ひどく力もないような華奢な女性に見えた。……もちろん、そんなわけはないのだが。
 ふ、とキノさんの頭が大きく動いて、目が合った。

「どうか、したんですか?」

 キノさんは俺の顔を見て不思議そうにしていた。なんとなく、頭を掻いて

「いや…キノさんは俺より小さいんだなってなんとなく、思ったんだ」

 思ったことをそのまま口に出したらふてくされたような表情を見せた。

「それ、嫌味ですか?」

「あ、いや…そんなつもりはなかったんだが…」

 キノさんは背の事を気にしていたんだろうか。俺は焦って言い訳のように声を口から出していた。
 すると、キノさんはじぃっと俺を見ていたから、俺はなんて言葉に出したらいいのか分からずに、適当な言葉を捜していたら、「ぷ」と面白そうに吹き出してキノさんは笑った。

「気にしていませんよ。シズさん、おかしいです」

 そう言って笑うから、そこでやっと俺の反応を見ていたことに気がついたんだけれど、楽しそうにするキノさんの表情は、とても、最初会ったときのような少年の色の濃いものではなく、少女のようだったから、見惚れてしまいそうになる。
 キノさんは丁度上がろうとしていた階段をたんたんたん、とリズム良く数段上がった。
 距離は少し離れてしまったけれど、視線は同じものになって。

「こうすれば一緒でしょう?」

「ああ、そうだね」

 二人で笑った。



      >>20041113 もうちょっと身長差を特質した か っ た !



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