手をのばして
がぢっ、と音がして、パースエイダーが鳴く。
それを、目で確認することもなくキノは前を見ていた。
隣には、緑色のセーターをトレードマークのようにいつも着て、右手には刀を無造作に持っている青年――シズ。
エルメスはさらに後方のほうでちょこん、と存在しており、そのとなりには陸が座って状況を傍観していた。エルメスはともかく、忠誠心高い陸はシズの援護を出来ればしたかったのだろうが、その身ではそれすらも叶わず、犬猿の仲、ともいえるエルメスの隣にいるしかなかった。
それはもちろん、キノとシズが知った所ではなかったのだが。
「10人」
「ぐらいでしょうね。ボクもそう思います」
頷いて、動き出した賊たちに対応した。
以外に即席だった割には互いの役割がよく分かっているのか、シズが前方を攻めて、それを補助するような役割で、捌ききれなかった分をキノがパースエイダーで倒していく。
と、その時男のかすれた声が森の中で響いた。
「目の前の人間の力量も見れねぇのかよぅぅぅぅぅぅッッ!!」
間抜けなぐらいかすれた声であった。
それは賊の首領だったのか、それはキノにもシズにも判別は出来なかったが、ぐしゃ、という擬音とともに叫んだ男の前にいた男が倒れた。
ナイフで後ろを刺され、急所を外していた所為か、ぴくぴくと苦しそうにもがく。
「次はてめぇだぁぁぁ!」
血に濡れたナイフをひっきりなしに抜こうとする男に、過去の父と呼んだ男の姿が妙にフラッシュバックした。
キノは、頭痛を覚えつつ、パースエイダーをその男に向けた。
パースエイダーの先が震えていたことに、キノは気付かなかったが、シズは気がついた。
もちろん、それの意図するところは知らなかったのだが。
ばぁん。
弾丸は真っ直ぐに突き抜けて、ナイフを抜こうとした男の脳天を突き抜けた。
本来ならば、脳天を狙うよりも身体を狙ったほうが命中率の関係上効率がいいのだが、人一倍腕のいいキノはほぼ動かずにひたすらにナイフを抜こうと血で手を濡らしていた男の脳天を狙うことなどたやすいことだった。
他の人はシズが一通りその刃で黙らせ、ナイフを刺されたまま、死ぬに死ねなかった男の止めを刺した。助からないのだから、苦しみの少ないうちにやってしまったほうが早かっただろう。
「……キノ、さん?」
シズは不思議そうな顔をした。
キノはぺたり、とそのまま座り込んでしまっていたのだった。
「はは、どうしたんでしょうか」
あくまで無関心のようにほぼ表情を変えずにキノは呟いた。
血で濡れたその刀を振り、ともかく軽く血を取ると鞘にしまってしまう。そうして、キノの傍に近づいた。
「何処か、怪我でもしましたか?」
少し、不安そうにシズは言った。
無論、そのようなへまをした記憶もないし、それを許すようなキノでもないことは百も承知していたのだが、やはり、不安だった。
「いえ、そのようなことはないです。…が、どうしたんでしょう?」
自問自答するような、疑問視する声に、シズは首を捻った。
キノに分からないのならば、シズに分かるはずもなく。
「立てますか?」
「たぶん…手を貸してもらっても?」
「ええ。かまいませんよ」
手をのばすと、キノはその手を捜すようにてをのばし、捕まった。
刹那、キノのことをキノは思い出した。
自分のことではなく、自分が×××××だった頃に出会った、旅人のキノ。
彼は、国に干渉できないことを知っていながらも、殺されそうになった自分を助けてくれた。――もちろん、手をのばした訳でもないのだが、そのときに見せた和らげな微笑みが、今、手をのばしたときに見た、シズの表情とあまりにも酷似していて。
「ボクはあのときよりも強くなったのだろうか」
何故か、声に出していて。
でも、それはシズには聞こえていないようだった。
「キノさん?」
手をのばしてくれているシズをじぃっと見て。
ゆっくりと自分から手をのばす。
願わくば、この人がいなくならないように、と。
差し出された手は優しく暖かかった。
>>20041127
キノは両親の事をどう思っているのだろう。
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