出発の朝
朝の光がぼくを照らして、朝が訪れたことに気付いた。
がちゃがちゃ、とキノが抜き打ちの練習をしているのに気付いて、ぼくはまだ眠い眼をゆっくりと開けた。まぁ、ぼくが起きたところでどうなるってわけでもないんだけど。あの、白い犬はいない。シズさんは少しはなれたところで練習しているのだろうか?それとも、朝ごはんの準備でもしているのだろうか。
それは、いつも朝のこの時間帯は眠っているぼくにはどうなのかわからなかったわけだけど。
と、そのうちに抜き打ちの練習は終わったみたいで、キノはふぅと息を吐いた。
そうして、ぼくの前のほうで焚き火を始めた。
「キノさん、朝の訓練のほうは終わりましたか?」
シズさんが手に兎を持って、草の陰からがさごそと出てきた。
げ、バカ犬も一緒だ。そりゃそうだけど。
「ええ、火も起こしておきましたから、兎鍋にしましょう」
「そうですね」
シズさんがバギーのほうへ行って鍋を取り出している間に、キノが兎の皮を剥いで、骨と肉に捌いていく。
水を入れた鍋を火の上に置いて、さっさっさ、と兎を入れていく。その後に、茸とかを食べれる大きさに切っていって、ばっば、と中に入れていった。
バカ犬は…げ、ぼくの前のほうにいるし。
邪魔にならないようにっていう配慮だろうけれど、ぼくにとっては非常に迷惑だ。
まぁ、いつも寝ている所為だろうけど。
っていうか、シズさんたちと一緒に旅をするようになってからなんだよね。ぼくが朝ごはん前に起きなくて済むようになったのは。前は作っている間も良く話したものだけれど。
寝起きが悪いぼくにとっちゃらっきーって感じだけど、なんだか、寂しいような気もするなぁ。
「なんだ、ポンコツモトラド。起きていたのか」
あ、バカ犬にバレた。
全然喋ってないのになんでばれるのさー?不思議すぎるんだけど。
「……ぼくが起きてちゃ悪いのか?」
「いいや。ただ、いつもキノさんに起こされる前まで寝ているポンコツモトラドが起きているだなんて、天変地異の前触れか、と思っただけだ」
「きー!!お前なんて朝起きるのは、犬の守勢ってだけだろ!失礼な!」
「習性だろ?誤植変換モトラドめ」
ずぅっとバカ犬と言い合っている間にどうやら朝食は出来上がったようだった。
「陸、お止め。ほら、朝ごはんだよ」
カップに兎鍋の具を入れるとそう言って、バカ犬の前に置いた。
シズさん、ちょっとは離してくれてもいいじゃんかー。
バカ犬はそのまま、犬食いを始めた。犬だけどさ。
「そういえば、珍しいね。エルメスが起きている」
「あー、キノ、それはちょっと失礼じゃない?ぼくだってたまには起きるよ」
「……たまには、だろ?いつもはボクが起こすまで起きないくせに」
「いいじゃんかー。どうせ、やることなんて無いんだしさ」
ぼくは走ることが仕事だし、そうゆう風に作られているからね。本当は喋れなくても問題ないんだけれど、キノが一人旅のときはやっぱり喋れていることがいいことなんだなぁって思っていた。
もちろん、今でもそう思うけど。
「いや、もう少しで君の出番さ。今日も一日中走らないと次の国に辿り付けないよ」
「そーだね。まぁ、やっぱり走ることがぼくの生きがいだったりするからそれは、嬉しいかな。近頃はキノも無謀な運転しないし。まぁ、バカ犬よりは充分役に立ってるって訳さ」
げ、飯くって無視した。
ひっどいなー。いや、バカ犬だからそれはしょうがないかも知んないけどさ。
けれど、やっぱりバギーと並行で走る所為か100q/s出さないしね。壊れる速度は出して欲しくないね。国に着く前に壊れたらどうしようもないんだからさ。
そうこうする内に皆食事を終わらせて、後片付けをしている。
あーあ、キノとシズさん、笑ってるよ。
ラブラブな会話でもしているのかな?まぁ、でばがめする気はまったく無いけどね。
「…シズ様が幸せそうに笑っていてくださると、ほっとするよ」
ああ、バカ犬も思っているわけね。
ぼくもキノに対してはそんなことを思っているから、大した差はないけれどね。
やっぱり、人間としての幸せは、人間しか与えられないものだとぼくは思うんだ。
だって、生殖活動は種別が違えば出来ないしね。愛とか恋とかの原型というか、根本的な部分ってのはそうゆう、本能的な望みから発生しているから。
幸せって、様々な形があるけれど、シズさんと笑って穏やかに過ごすようなものも、きっといいと思うんだ。
もちろん、ぼくとずぅっといろんな場所を旅するのも、いいと思うけどね。
「どんな形であれ、キノが笑ってくれていれば、ぼくは満足だよ」
友人としてね。
モトラドと人間という互いに助けるような仲だけどさ。
「さぁ、エルメス行くよ。今日はずっと走り詰めだ」
「わー、モトラド冥利に尽きるね」
そうやって、ぼく達は出発する。
また、シエノウスのバギーと並列に。
それが、いつもと同じで昨日とは違う出発の朝。
>>20041210
種別を超えられるものと超えられないものって確かに存在すると想う。
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