世界のどこかに




 一台のモトラドが其処に止まっていた。
 モトラドが見渡すその風景は大きく空が広がり、緑がさわさわと、モトラドたちを歓迎していた。
 そして、モトラドの前には真っ白くてふわふわの毛並みを持った犬がちょこん、ととても背筋を伸ばして座っていて、そのもっと奥のほうには、ライダージャケットを着て、その上に大きめのトレンチコートを羽織っている肩ぐらいまでの髪の長さの少女と、その隣には、緑色のセーターを着た青年が立っていた。

「どうなるんだろうね」

 モトラドは、呟くように言った。
 その言葉に、白い犬が二人を見つめたまま言った。

「それは、お二人が決める事。私や、お前に口出しできる事じゃない」

「バカ犬に言われなくても分かってるよ。ただ、幸せなのかなってさ」

 風は上に舞い上がり、切れて命を無くしてしまった草がまるで竜巻に乗ったかのように上に舞っては落ちていく。
 その風にくすぐったそうに少女は少し伸びた髪を手を添えて抑えた。
 それに、青年は横を向いて何かを言っている。

「……それも、またお二人が決める事だよ。けれど、私は恐らくは今までよりは幸せなんじゃないかと思っているけれどね」

「幸せの定義が何処にあるかぼくは知らないけどさ」

 モトラドは呟いた。
 一度は違う形で命があり、それが終わって、また、一つとして出来上がったそのモトラドは遠い過去を思う。
 近い過去を。
 そして、永遠に続く未来を。

「幸せってやつは酷く難しいな」

 風は、強くなびいている。
 少しだけ、遠くから聞こえる二人の笑い声は、幸せそうに感じたけれど。
 モトラドは、上を見た。

「お二人は、きっとこれからは、その幸せという形のないものを探しに行くのだろう。――世界のどこかにある、それを」

 ぽつり、とモトラドに聞こえる声で呟いた、白い犬はそれでも、モトラドを見ようとはしなかった。
 モトラドは、表情も変えられないままに、淡々とした眼で、風景を捉えていた。
 地平線が真っ直ぐに見える草原。
 真っ白な犬と。
 笑いあう二人の姿。
 表情を変えられないモトラドは、それでも微笑んでいた。
 決して万人には分からない微笑を。

「世界のどこか、ね。酷く曖昧じゃないか、バカ犬」

 曖昧だけれども。

「故に、歩き続けるのさ」

 世界を。
 何処までも続く地平線の彼方を歩き続けて。

「ぼくは、それが宿命みたいなものだから全然平気だけど。バカ犬は寿命が短いだけに大変だな」

 モトラドは揶揄するように白い犬に言ったけれど。
 白い犬は一体、どう思ったのか。
 一切モトラドのほうを振り向かなかった白い犬の思っていることは、モトラドには分からなかったけれど。

「それが、私の使命さ。――助けられたときから。仕えようと、決意したときから」

 決して嘆いてはいないと。
 モトラドには理解できた。

「忠犬でも目指している訳?バカ犬には到底無理だね」

 皮肉るように言ったけれど、モトラドはほっとしていた。
 と、青年と少女が振り向き、こっちに歩いてくるのを見た。
 モトラドは、一回空を見上げて、そして、前を向いた。

「さて、世界のどこかにある"幸せ"を見つけに行かなきゃね」



      >>20050130 …オチになっちゃいないなぁ。



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