Good morning!
朝は朝で旅人は忙しい。
滞在がたとえ3日間の中頃で今日の夜もベッドでぐっすり眠れるとしても、訓練を欠かすわけにはいかない。訓練を怠ってしまえば1日分はツケとして残る。結局のところ、毎回訓練しなければ動作は簡単に出来なくなってしまうのだ。もちろん、今の腕を維持したくないという程度のものであれば特に問題はないのだが。
それだからこそ、各国を旅し厄介ごとに巻き込まれやすい旅人は自分の腕を下げる訳にも行かないので、朝早くにその武器に見合った動きをしておかなければならない。そうしなければ、自分の生命に関わる。
それはシズも同じで、朝日が昇ると共に目を覚ました彼は自分の愛刀を持って外へ出た。
筋力トレーニングを一通りこなすと、刀を抜きゆっくりと精神統一させる。刃先が自分の一部と成りうるように。
そうして近くにある木を乱暴に蹴った。
落ちていく葉のランダムな動きを見ながら、動いた。
それは、武術をしていない人間には一瞬動いただけの動作に見えただろう。
落ちた葉は全て綺麗に二等分されていた。
「……ふぅ、まぁまぁかな」
練習相手がいれば実践的な動きもおこなえるのだろうけれど、それを旅先で求めるというのは過酷なものだ。
それに、下手に弱い人間では過信も生まれてしまう。…もちろんどんな人間と対峙しようが警戒心を怠らない、というのは常に言われていたことで心に刻んでいる事であったが、それでも少し刃を交えれば自分より弱いかどうかぐらいの判別はつく。…無論それはシズほどのレベルであればこそ、であったのだが。
「あれ?シズさんじゃないですか。…姿を見かけないなぁ、と思ったら違う場所で練習なさってたんですね」
振り向くと、そこには10代に入るか入らないかの少年がいた。腰にはパースエイダーのホルダーをしているが起きたばかりで面倒なのか、シャツにズボンと言った非常にラフな格好をしている。
この少年は正真正銘シズの子供だった。と言ってもつい最近シズには知った事実で少年にとってはつい最近初めて会ったばかりの父親だったので、シズ自身にはまだ信じられないといった感じや少年にも戸惑いの色は濃く残っていたのだが。
「そうみたいだね。…シキ君は抜き打ちは済ませたのかな」
「ええ。やはりキノさんのようにはいきませんが、エルメスにはなんとか合格点を貰いました」
ははは、と笑う。
キノ――彼の母親であるのだが――は非常に腕の立つパースエイダー使いである。その領域に達するのは普通では無理なのではと思うぐらいであったが、その相棒であるエルメス――モトラド(注・二輪車。空を飛ばないものをさす)――の合格点をもらえれば結構すごいことなのでは、とシズは思った。
そういえば、とシズは思った。
「君とはまだ手合わせをしたことがなかったな。どうだい、一つ」
そう言って笑うと、少年は焦ったような表情を見せた。
「でも!」
「運動程度のものさ。それに数年前にさかのぼるけれど、俺は何度もキノさんには負けてしまったからね、その息子の君の腕も見てみたい」
それはシズの本心で。目の前の少年がどのように育ってきたのか――見ることが叶わなかったその経過をパースエイダーの扱い方で見たい、というのもあって。
少年は困ったような表情を見せたが、こくり、と頷いた。
「じゃあ、朝食までには済ませちゃいましょう」
そう言って、笑った。
まるで、何かの運動のように互いに見合わせると尊重するように一礼をして、すらりとシズは刀を携え、少年はパースエイダーを取り出した。
弾丸の音が鳴り響き、そしてそれと同時にその弾が外される音。
「すごい…」
少年は弾き返した目の前の人物を見て、呟いていた。
以前、キノに視線や手の動きを見て弾筋を読んでそれを弾き返すのだ、と聞いたことがあったが、やはり目の前で行われるのは違う。迫力の差がある。
キノはその刀を振り下ろす軌道の前にパースエイダーを相手に向けた、と少年は聞いていたが。
自動作動パースエイダーを下ろし、六弾装填型パースエイダーをホルダーから素早く取り出す。弾は入れなおしていたためもちろんある。
少年はじぃっと定めるように目の前の人物を見た。
物陰に隠れるという手もあったが、接近戦型の相手ではチャンスを見出せない。それよりも相手の動きが見えるような位置にいたほうが得策だ。と、少年は判断した。もちろん、それは少年の動きがシズに読まれることを想定してのことだったのだが。
キノならば――と少年は想定してみようと思ったが、あれよりも早く動ける技量は今のところ少年は持ち合わせていなかった。
ともかく、自分の出来ることをやるだけだ。
ゆったりと、そうして素早くシズが動いた。
降りかかってくる刃を潜り抜けるように少年はステップを踏む。
銃声を上げれば避けられており、少年の真正面に刃が振りかぶってくる。
それをすかさず銃身で受け止めた。
ギチッ、ギチッ、とそれなりに強度のあるパースエイダーが悲鳴をあげる。
少年は精一杯の力でなんとかシズの刀を弾き飛ばすと刹那的にホルダーからパースエイダーを抜き取り、打った。
弾かれている刀ではその弾を受けることは出来ず視界はさまよっているはず、と読んだのにシズはその弾を難なく避けてしまい、強く足を押しとどめると右腕のパースエイダーを弾いた。そうして、少年が思考を始める前に左手のパースエイダーも。
「チェックメイト」
そう言ってシズは穏やかな表情に戻った。
少年は降参、とばかりに両手を挙げた。
「シズさんにはまだまだ敵わないみたいです」
シズは少年の頭ぎりぎりに置いていた刀をゆっくりと、鞘にしまった。
少年も弾き飛ばされたパースエイダーを拾い、ホルダーに戻した。
「いやいや。君の腕もたいしたものだ。その年齢でそれだけの技量を持っていれば十分さ。俺もついつい本気を出してしまった」
逆にいえば、本気を出さなければ勝てないほどの腕で。
シズはそこまでの技量に育て上げたキノを感心し、そしてそれについていく目の前の少年の才能と努力に感慨を覚えた。
少年は困ったように頬を掻く。
「でも…、シズさんと模範実技もとても良い経験になりました。キノさんとするのではやはり対処法が違うのですね。まだまだ、状況判断とパースエイダーの腕を上げなければ、と思いましたから」
「そうだね。でも、君なら大丈夫。直ぐにキノさんに追いつくよ」
と、シズは言って微笑んだ。
しかし、並みの盗賊や刀使いではこの少年に勝つことは難しいだろう。それを少年は自覚しているのだろうか、とシズはいぶかしげに思った。
そんな談話をしていると奥のほうから人が歩いてくる気配がある。
「あれ?シキ、まだ此処にいたのかい?もうそろそろ朝食の時間だよ。シズさんも」
「え…ッ?ああああ、シャワー浴びたかったのにぃ!!じゃ、シズさん、僕はこれで!」
少年は慌てた様子でそのまま宿屋の中に入っていく。
シズはそれを穏やかな表情のまま見送って、キノを見た。
「とても強いね、シキ君は」
その言葉に、キノは微笑んだ。
>>20050430
葉っぱの描写は恐らく某ボクシング漫画の最初のほうのあれを意識したようですね、自分。
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