何でも持っていたはずだった。
possible
人にはある種望んだことを叶える力があるのだと気が付いたのはあの国を抜けたときだった。
もし、ボクがあそこで大人になっていたのなら全ての可能性を摘み取られてまるで操り人形のように生きていかなくてはいけなかったのだろう。
でも、きっとそれもまた望んだ事のはずで。
確かにボクは何でも持っていたはずだった。
ナイフもパースエイダーもモトラドも携帯食料もジャケットも動かす手も望む意思も。
何でも持っていたはずなのに。
「ストッパーなんて何にでもあるものだね、エルメス」
「なんのことだい?キノ」
エルメスは不思議そうに語尾を上げて聞いた。
ボクはモトラドを運転しながらそれでも話し続けた。
「モトラドにもそうだけれど、人間にも行動や思考に一種壊れないように止める鋼があるものなのだね」
「まぁ、機能以上の力を出したらぼーんでばーんだろうね」
「つまり、人間とモトラドというのはそれほど変わらないということさ」
そう、所詮どこも変わらない。
製作者が違うだけで、生きている時間が違うだけで、種族が違うだけで。
ボクとエルメスは何も変わらない。
「ボクは一種人間の力をどこかで過信していたのかもしれないね」
「どうして?」
まったく考えていなかったことを言われたように、少し驚いたような声でエルメスは呟いた。
「ボクは何でも持っているものだと思っていたのさ」
「なんで?」
「ああ、物質的な意味合いじゃあないよ。精神的なことさ」
体を斜めに倒して緩やかなカーブを横切る。
地図に書かれた通り道は続いていた。
「願って努力すれば、それは叶えられると思っていたのさ。ボクは五体満足で何処にも異常なんてないのだから」
「じゃあ、キノにも叶えられない事があるってことかい?」
「望まないことだったんだよ」
「望まない?」
「ああ。ボクは望んでいなかった。けれど、事態はボクの思考を蝕んだのさ」
ボクはふっと自嘲するような気持ちで鼻で笑った。
エルメスはそれに関しては何も指摘せずに何かを考え込んでいるのか数秒沈黙が続いた。
その間も燃費し続けているエンジンは音を立てながら車輪をそれなりの速さで回転させていたけれど。
聞きなれた音はボクを逆にリラックスさせ、そして精神集中を促していた。
「――つまりは、望まないことを望んだから?」
「思い通りにはいかないものだね」
呟くと。
エルメスは「ふーん」と間延びした声で同意するような納得するような不思議な声音で唸った。
「事態は常に想定していた通りには進まないんじゃないかな。僕がこうやってキノと旅をするようになったのだって、僕は想像すらしていなかったんだよ」
「そうだけれどね。でも、考え方なんてその転機が無ければ早々変わらないものだろう?」
「…そのきっかけだって、何処に転がっているか分からないものさ。だからキノの思い通りに進んでいないのは予想外の転機が転がっていたからだろ?」
「まぁね」
「じゃあ、キノさえ望めばきっとその通りにいけるよ。キノが全部を持っていると思ったとおりに」
道はただ続いていた。
>>20060409
妄想元曲、分かる人には分かるかと思います。
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