透明もしくは鮮明




「――つまりは、ガウリィの性質と透明人間が本能に従いおこっていた言わば生殖活動が、巧い具合に反応してガウリィを透過させていたという事か」

 少女と別れた後、アメリアとゼルガディスに事の顛末を説明して出てきた言葉がそれだった。

「んー、それ自体は生殖活動なんだろーけど、あれはどちらかと言えば単純に悪戯半分だったんじゃないかしら? だって、彼女は自分と同じものが出来ることに対してそれほど執着を持っていなさそうだったもの。どちらかといえば、初めて現れた自分の透過特性に反応するガウリィが物珍しくて接触を図ってきたわけだし」

 確かに、もし俺を自分と同じものにしたかったのなら、少女は質問するのではなく彼女の特性である透過を使ってリナを消すべきだった。
 ……いや、もしそんなことをしたのなら俺は色を混ぜて失敗した黒のように不気味な黒に成り果てて透明なものとは正反対の道を進んだのかもしれない。けれど、復讐対象がなくなった時点でやはり透明になっているような気もする。
 どちらにしろ、最終的に透明になる可能性が高いのならば全てのものを瞬時に透過してしまう彼女の力をそのままリナに適用すれば、俺は最終的に彼女の仲間になっただろう。――彼女が生きているかはともかくとして。
 それをしなかったということは、やはり彼女には生殖活動という概念はほぼないのかもしれない。
 ほんの少しのチャンスも逃してしまうのだから。

「でだ。その場所に案内してくれ」

「へ? アンタの欲しい合成獣の情報はないわよ」

「しかし、単細胞を人間に変えてしまうほどの遺伝子の知識と魔法の知識はその家に存在するのだろう? それは、俺の役に立つはずだ」

「ま、あの子のいっていることが本当ならね」

 リナはさほど興味なさそうに肩をすくめた。
 それでもゼルガディスが解析を始めたのなら、嬉々として手伝うのだろう。それほどにはリナは魔法のことが好きなようだった。

「でもー、結局ガウリィさんが透明になる根本的な治癒方法は分からなかったんですよね?」

 生殖活動に治癒方法が存在するはずもなかった。
 それなりの人数が被害にあっているのならばともかく、症状を表したのが俺ただ一人だったというのならばその治療法が確立されていないのは当たり前のことなんじゃないのだろうか。知らないものを研究することはできない。

「でもまぁ、ガウリィが透明という概念を心に持たなければ済む問題なのだから、大丈夫なんじゃないかしら? 事態が進行するような部類でもないし、逆にたまに透明にでもなったほうがこっちとしては面白いし便利だから万々歳よ」

「それもそうだな。別に切羽詰っているようでもないし、心に反応するわけだから透明人間の言う透明の概念に心をおかなければ済む問題だしな」

「むむー。なんだか釈然としませんけど、何の問題もなければ正義的にもおっけーですっ」

 いいのかよ、をい。
 ぐっと親指を突き立てるアメリアにそんな突込みを入れたくもなったが、またいろいろ言われるのも面倒だったので放置しておくことにした。
 そうして、運び込まれる食事にきらきらと目を輝かせたリナは、ナイフとフォークを持ち戦闘体勢に入る。俺も戦場へ旅立つためにナイフとフォークという剣と盾を持った。
 それは、ごく普通の生活で俺の海の底に眠る根本意識など何一つ思い出させない、鮮やかで豊かな日々なのだろう。
 リナという鮮やかな色体がもたらす、透明な俺に色を覚えこませるような。



      >>20061004 解決しない話もたまにはいいんじゃないだろーか。



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