この城の主代行であるフィルさんからの了承はすぐに得ることが出来た。
 盗賊の親分のような風貌に笑みを乗せて豪快に頷くという、彼の性格をそのまま反映したような動作一つで。
 それでも、やはり思うことがあったのか少しばかり複雑そうな表情を俺に向けて、「アメリアをよろしく頼む」とまったく意図を理解できないような言葉を発してはいたが。
 ともかく、臣下の了承や書類上の問題はさておいて、俺はセイルーン城に滞在することを許可されたのであった。




      二人以上いれば大丈夫。




 人間の姿に戻れた翌日、俺はアメリアたちと共に朝食の席に着いていた。
 テーブルの上座にはフィルさんが座り、向かい合わせに右から俺、アメリアの息子であるアズリエル、アメリアの順で椅子を並べていた。
 机の両端で人口密度が違ったものの、王家の食卓が手狭になるはずがなくゆったりと座ることが出来た。
 この家族の長であるフィルさんが箸をつけるのを見届けた後、俺達も箸をつける。
 朝食ということでこってりしたものはなかったものの、それでも豪勢な料理が所狭しとばかりにテーブルの上に乗っていた。
 リナ達とセイルーン城に滞在していた時は、この大量の料理は台風が通り過ぎるかのように消えてなくなったが、今回は流石にその時とは違いいたって静かに(それが普通なのだが)食事が進む。
 食事を取りながら、話題に上がったのはやはり俺のことだった。
 放浪した時の話題はもちろんのこと、昨日のことにも話が及んだ。

「そうか、あの教会を使ってゼルガディス殿は元の姿に戻ったのだね」

 簡潔に昨日の出来事を話すと、フィルさんは納得がいったとばかりに頷いた。

「ああ。あの教会は一体なんなんだ? 一目見た時には魔力の一欠けらすらも感じなかったのに」

「あの教会こそがセイルーン王家の発祥であるのだよ。もともと、わしらの祖先はあの教会で牧師をしていた」

 かちゃかちゃと響いていた食器の鳴る音がぴたりと止まる。
 目の端で捕らえたのは、興味津々とばかりに目を輝かせじぃっと祖父を見るアズリエルの姿と、笑みを浮かべながら自身の息子と俺を見ているアメリアの表情だった。

「この土地は六芒星の魔法陣が作られるよりも前から魔力が備わっていたのだよ。普段は魔力が働くことはないのだが、その中心地である教会には四方から光が差し込む一瞬だけ強い魔力が働き、人々を幸福へと導いていてね。教会のおかげで幸福になった人々は教会の周りに居を構え、そして噂を聞いた幸福になりたい人々も住み着くようになった。コミュニティが出来てくれば、必然として長が必要となる。人々は教会を管理していた牧師にそれを求め、牧師もそれを引き受けた。――それがセイルーン王家の始まりだったのだよ」

 近頃はあの教会に集まる魔力も衰えてきたのだがね、とフィルさんは少し寂しげに付け加えた。
 けれど、そんな雰囲気を破るようにかんっと食器を鳴らしたのは隣に座っていたアズリエルだった。

「へぇ、僕そんな話初めて聞いたよっ」

「こら、アズリエル! 行儀が悪いわよ」

 楽しげに声を発したアズリエルをアメリアは咎めた。
 声を発するというよりも、食器を無駄に鳴らしたほうに怒ったのだろう。

「それぐらい見逃してやれ、アメリア。そんなことを咎めていたらリナや旦那はどうなるんだ」

 ぶうと不貞腐れたような顔をしたアズリエルを見て、何の気なしに言うとアメリアは不愉快そうに眉を顰めた。

「アズは王家の人間としてマナーを身に付けなきゃいけないんです。それを教えるのは親としての義務でしょう?」

「だが、食事は楽しくあるべきだろう。マナーなんぞは王家の子供なのだから、仕事の一環として学ぶんだろう?」

 王家としての義務を持ち出したアメリアに、リナたちの食事風景を思い出し一般論を述べた。
 すると、アメリアは唇を尖らせた。反論しないところを見ると、アメリアも俺の言葉に思うところがあるのだろう。
 そんな俺達の間に挟まれたアズリエルは、少し困った表情をして俺とアメリアを交互に見た。

「まぁまぁ、ゼルガディス殿もアメリアも」

 少しばかり険悪な雰囲気になってしまった俺達を諌めたのは、やはりフィルさんだった。

「朝食を険悪な雰囲気にすることもなかろう。アズのことで二人が喧嘩すればアズは身の狭い思いをするだろう?」

 そう言われて、アメリアはしゅんと身を縮めた。
 なるほど、そういう考えもあるのかと思った俺はアズリエルの髪をくしゅっと撫でた。

「すまんな」

 すると、アズリエルはぷるぷると首を振った。

「気にすることないですよ。僕のことを考えてくれたんでしょう? それよりも、楽しく朝食を食べましょう!」

 そう言い、彼はアメリアのほうを見るとにこりと笑ったようだった。
 アメリアの表情が、悲しげなものからとても優しげな笑みに変わったので。
 その様子を見て、フィルさんが微笑みながらナイフとフォークを持ち食事を再開した。
 俺達もまたそれを見習い、食事を再度始める。
 そうして繰り広げられる会話をしながら食事を取る朗らかな風景は、まるで俺がこの家族の一員になったような気持ちにさせるものだった。



      >>20071123 オリキャラ苦手な人には申し訳ないです。



back top
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送