自分が保護者でOK?




 良く言えば今までの旅に対する休暇、悪く言えばアメリアのヒモになった俺は、セイルーン王都の中心にありながらも王宮の中ゆえひたすらに広い中庭にある一際大きな木の下に座り込み、書物を読んでいた。
 その本は、有名な少年向けのファンタジーである。
 旅の中では、合成獣に関する本やそれ以外にも学術書ばかりを読んでいた。
 なぜなら、俺にとって伝承でもなんでもないただの作り話なそれらは不必要なものでしかなかったからだ。
 そして、今も必要ないといえばその通りである。
 が、俺がすべての感情を見逃し必要であった遊びの部分さえも削ってしまっていたことに気がついた今、それらを不必要だと切り捨てるつもりはなかった。
 こうして有名な少年向けのファンタジー小説を読むのも、本の中とはいえ不必要だと思っていたものを拾い上げ視野を広くするためである。
 だがしかし、アメリアの百分の一ほども感情豊かではない俺は、有名な著者の本だというのに空想の中に浸ることも出来ず欠伸をして本の中から意識を浮上させた。
 すると、ちゅんちゅんと鳥が鳴く音が聞こえる。
 俺はそれの発生元を見るため顔を上げるが、青々と枝を伸ばし俺など容易く包み込む木の中に鳥を見つけることが出来ず、小さくため息をついた。

「つまらなそうですね、ゼルガディスさん」

 声が聞こえて視線を平行線へ向けると、淡いピンク色が主体のAラインドレスを身に纏ったアメリアが優雅に歩行し近づき、俺の前で微笑んだ。
 以前共に旅したときはまったく王女には見えなかったというのに、ドレスを身に纏った途端立ち振る舞いが変わり見事それを着こなしており、生粋の王女に見えるのだから不思議である。
 そんな他愛もないことが脳裏を掠めながら、俺は彼女にああ、と軽く返事をした。

「生活が一変したからな。慣れるまではそれなりにつまらないんじゃないか?」

 肩を竦めて呟いた俺に、アメリアはなるほどと同意したように相槌を打ち隣に座る。
 ドレスが汚れてもいいのだろうか、と一瞬思ったがアメリアの本質が共に旅したときのものであれば、気にする性質ではないか、と一人で納得した。

「ゼルガディスさんは、これからなにしようとか考えていますか?」

 世間話の一環としてか、さらりと聞いてきたアメリアの言葉に俺は首をひねる。
 元々強くなりたいという漠然とした願望が存在し、それに付随する形で合成獣から人間の姿へ戻るという目標が生まれた。
 その目標があまりにも強すぎて他の何も見れなかった俺は、目標が達成されたとき自身の人間的な成長が何一つされていなかったことに気がつき、俺の一番の望みを叶えるためにも精神的に強く――そう例えばアメリアのように強くなろうと目標の一つを定めたのだけれど。
 けれど、それは具体的にどうすればいいのか見当もつかない。
 要はまだ一番の望みの中に含まれる目標の一つを達成するための手段をどう確立するか思案している最中という状態で、結局アメリアに答える言葉は一つしかなかった。

「いいや、ないな」

 すると、アメリアは既に予測済みだったのか動じることもなく、優しく微笑んだ。

「じゃあ、少しわたしのお手伝いをしてくれませんか? もちろん、お仕事になりますので給料は出します」

 突然何を言い出すのだろうかと彼女を見る。
 それを見て、俺の疑問に気がついたのかアメリアは更に言葉を重ねた。

「もちろん、友人だからって贔屓するような真似はしませんよ。お給料はそうですね、文官の平均給与より技術給も含まるので若干高めの値段にしますね。まだまだのんびりしたいというのであれば時間でお給料を割って、働いた分と仕事内容によってはボーナス給、という形で渡しますし、うちの家賃が気になるのであればその分も差し引きます」

 細かい契約は決まってから父さんとか財務のほうに話さないといけないので、今断言することは出来ないですけど、とアメリアは続けた。
 家賃まで言われ、城の一室の一ヶ月の値段とはどのぐらいなのだろうかと空恐ろしくなったが、確かにただいるわけにもいかないと思う。知り合いという立場でも線引かなければトラブルだって起こりやすくなるだろうし、居づらく感じてくるだろうから。

「しかし、俺の出来ることなどたかが知れているぞ? 俺なんぞに頼らなくとも、セイルーン城には有能なのがいっぱい居るんじゃないのか」

「もちろん、うちの臣下はよくやってくれていますし、そっちの人事権は父にあるのでどうこうする気はありません。でも、ゼルガディスさんって世界各国を旅して、その気はなかったとしても様々な国の様々な様子を見てきたと思うんですよ。それに頭の回転も速いですし、新たなアイディアを出してくれるような優秀な人材じゃないですか。それを放っておくなんて損ですよ、損! ですので、言うなればわたしのゴーストライター的な感じで雇いたいんです」

 をいをい、ゴーストライターはないだろう。ゴーストライターは。と思ったが、その程度が適当かもしれない。
 アメリアも言うとおり、有能な人材を左遷させて雇う必要などないのだから表立った立場はないのだし、なにより表には立ちたくない。
 のんびりとした生活をしたいというのもあるのだが、なにより俺は犯罪者なのである。
 レゾが生存していた頃、合成獣となった俺はレゾの望みを叶えるために窃盗から殺しまで平気で行なってきた。それこそ、レゾの狂剣士といわれるほどに。
 姿が変わり、印象は違えど犯罪者であったことは変わりがない。
 そんな俺が表に立ってしまい悪党だとばれてしまえば、セイルーン王家にひいては国家に悪評が立ってしまうことはたやすく想像できることだ。
 アメリアやフィルさんには世話になっているのに、わざわざ迷惑をかけるような真似などしたくない。

「……それに、今は何も見つからなくてもいざ目的を見つけた時に先立つものがあるほうがいいでしょう? お金はあって邪魔になるものではありません。こういった何もないときから徐々に何かを始めることも大切なことだと思うんです」

 彼女は微笑んだ。
 慈悲深き母のような穏やかな笑みで。
 それは年を重ねたせいなのだろうか、それとも子供を生んだせいなのだろうか。共に旅をしていたとき、俺と二人きりのベッドの中でも穏やかな笑みをよく浮かべていたがそれにはどこか憂いが含んでいて、ただ穏やかさと優しさだけが見えるような笑みを見せたことがなかった。
 だから、きっと年を重ねたからこその笑顔なのだと思う。
 俺は彼女以上に年を重ねたはずなのに、未だにこんな穏やかな笑みを浮かべることなど出来ない。ああ、俺とアメリアについていた差は更に広がったのだろうな。
 だったら、アメリアの傍で仕事ぶりやその行動を少しでも見ていれば、彼女を理解することが出来るのだろうか。そうして、彼女と同じような笑みを浮かべることが出来るのだろうか。

「わかった、引き受けよう」

 そう思ったら、すんなりと承諾の言葉が出てきた。
 すぐに了承するとは思っていなかったようで、アメリアは一瞬きょとんとして俺を見たがにこりと微笑んだ。

「ありがとうございます」

 俺は何かを見つけることが出来るのだろうか。



      >>20071203 ゼルガディスが犯罪者って所は小説版設定かなぁ?



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