離れない条件に抱擁を一つ。
セイルーン城内の資料室にいた。
アメリアから有事における各国との連携を取るために一番迅速で簡潔なやり方はないかと聞かれ旅の最中に見聞きした情報を思い出していたところ、そういえば今は無きレテディウス公国内で使われていた各重要機関への連絡方法が結構効率の良い方法だった気がし、それをアレンジすればよいのではないだろうか、と思い記憶の確証を得るために資料を探していたのだ。
目に付くタイトルの本を取りぱらぱらと簡単に内容を確認していく方法を繰り返す。
セイルーン城内の資料室は、政を行なうために必要だろうと思われることだけであったが資料が豊富にそろっており、豊富にそろっているからこそ探すのに苦戦していた。
まぁ、俺は所詮ゴーストライター的な存在なため、急ぐ必要もないのだが。
内容を確認すると本を戻し、新たな本を取る。
古めかしい本独特の匂いが俺の鼻を通った。
その行動は、
合成獣
(
キメラ
)
から元の姿に戻ろうと旅していた頃となにも変わらず。
まるで強風が吹くように、突然不安が突き抜けた。
これでいいのだろうか。
前のように何も見えぬまま、行動していないだろうか。
……何一つ、成長していないのではないか。
「ゼルガディスさん!」
まるで厚い雲から光が差すように、声が聞こえた。
朗らかで、穏やかな声が。
そちらを見ると、にこりと笑っているアメリアがいた。
顔を見ると同時に目に入った、成熟期に入り乗った脂が削げ落ち細やかなラインを描く頬は彼女の成長を表しているようにも見える。
「どうです? レテディウス公国の資料、ありましたか?」
彼女の体にはやや大きいのではないかと思える柔らかな素材で出来たピンク色の巫女服の袖をふわりと揺らし、軽やかな動作で俺の隣に来たアメリアはそう問う。
それに対し、俺は分かりやすく首を横に振った。
もう、しゃらんと金属の音は鳴らない。
「まだ、この資料全てを見ているわけではないがな」
「そうですか。本を管理している文部大臣の部下に聞いてみたら、数冊だけれど置いてあるはずだとは言っていたのですが……」
アメリアは首をかしげ、本が押し込まれている棚を見ている。
ざらりと装丁がされている本の表紙を撫でながら、俺は何も考えず声を出していた。
「アメリア。俺は同じことを繰り返していないだろうか」
俺の声に反応したアメリアは、隣に居た俺を見た。漆黒にも見える藍色の目で真っ直ぐに。
彼女の目に映る俺の姿は、あまりにも空ろで。
「前と同じで、誰も見ず誰をも見返さず自己中心的に立ち回っていないだろうか」
この体と共に変わった心は、しかし自分の姿を他者のように傍観できるほど落ち着いてはいない。
だからこそ、俺は同じ過ちを繰り返していないのだろうかと不安になる。
そんな俺を見て、何を思ったのだろうかアメリアは微笑んだ。母が子へ微笑むように、慈愛の笑みを俺に。
そうして少し腕を伸ばすように頭を抱き寄せた。
逆らわぬまま引き寄せられた俺の頭は彼女の肩に乗る。
「大丈夫ですよ」
耳元に彼女の声が聞こえ、体へ浸透していく。
「ゼルガディスさんはちゃんと前に向かって踏み出しています。ただ、踏み出して間もないからちょっと怖いだけ」
そう囁く声は、姿すら思い出せなくなってしまった俺の母親の声を思い出させて。
「大丈夫」
酷く安心した。
>>20071218
あ、巫女服時の髪形考えてない。
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