いつの間にか一緒に寝ていた貴方。




 日差しが眩しくて、ぱちぱちと数回瞬きをした後俺は目を開けた。
 午前中アズリエルと剣技の訓練をし、午後休を取ってきたというアメリア手作りのサンドイッチとウィンナーや卵焼き、ミートボールなどのおかずを食べたら、腹を満たしたせいか妙に眠気が襲ってきてそのままピクニックシートの上で転寝をしてしまったようである。
 さわさわと揺れる風にあおられ頬に纏わりつく、合成獣の頃とは違う柔らかい鳶色の髪を後ろへ撫でると上半身を起こした。
 ふと隣を見るとすやすやと眠っているアズリエルが居る。
 いつもは精一杯背伸びをするように大人びた行動をし大人びた口調で話すアズは、年相応の寝顔を俺に晒していた。
 それがあまりにも可愛らしくて、彼の黒に見える髪をさらりと撫でる。くすぐったそうに顔をしかめたものの目を覚ました気配はない。
 穏やかに眠る彼を見ながら、アメリアはどうしたのだろうと反対側に目を向けると、彼女もアズと同じように眠っていた。
 すやすやと眠る様は大人になったと思わせた彼女をひどく子供っぽく見せて。
 けれど、彼女の子供っぽく穏やかな表情をしている寝顔を見るのは初めてだった。
 といっても、単純にアメリアの寝顔を見たことがない、というわけではない。
 以前、彼女がまだ成長期で今よりももっと子供っぽい表情を見せ子供っぽい振る舞いをしていた頃、俺は彼女の寝顔を何度か見る機会があった。
 というのも、その頃俺は誘われるままに彼女と幾度となく体を重ねており、体力の消耗の激しい旅の最中だというのに更に体力を使うため体を重ねたベッドで寝入ってしまうことが多々あったためだ。
 もっとも、アメリアは共に朝を迎えることを嫌がっていたのかそれともリナや旦那にばれてしまう事を恐れていたのだろうか、朝にベッドの上で彼女の姿を見たことは一度もなかったけれど。
 それでも時折俺のほうが体力が残っていて、彼女が疲れて眠ってしまうことはあったのでアメリアの寝顔を見ることがあったのだが。
 その時のアメリアは、決まって眉間に皺を寄せどこか苦しい表情をしていた。
 何かに耐えるような、苦悩するような。
 しかし当時、俺は彼女の悩むことなど悪人を撲滅することは出来ないのかとか魔族を改心することは出来ないかなどの正義感に基づいた突拍子もないものだと思っていたので、さほど気にも留めずその寝顔を見ていた。
 今考えてみると、俺よりもアメリアのほうが遥かに物事を深く捉えていただろうし周囲を見渡すことも出来ただろうから、悩むことも多かったのだろう。
 しかし、今のアメリアの寝顔は穏やかで幼い子供のようで。
 彼女の初めて見る表情に思わず頬が緩んだ。
 今、アメリアは幸せなのだろうか?
 本人にどう問いかけたらいいかも分からない言葉を脳内で反芻させると、風がひゅうっと吹いて彼女の黒い髪が頬にかかった。
 鬱陶しかろうと思い、何気なく一緒に旅した頃から見たら成長しこけた頬へ手を伸ばす。
 軽く頬に触れると人の体温を指先に感じた。
 柔らかく温かみのあるそれに、ぴくりと指先が震える。
 それでも、使命を全うしようと黒い髪を払うとアメリアは小さく唸り、俺の手から逃れるように少し体を丸めた。
 彼女の動作に驚き、震えていた手を途端に引っ込めてしまう。
 ……アメリア相手にそうびくびくする必要はないと思うのだけれど。
 ともかく、アメリアが起きる気配はなく俺はほっと息を吐いた。
 そうして見る、彼女の穏やかで満たされているような子供っぽい寝顔は、人に対して揺らすこともなくなった心臓をなぜだか小さく揺らして。
 それがなんなのかまったく理解できなかったけれど、こんな穏やかな空間の中にいていいのだろうかと単純な疑問とほんの少しの不安を抱きながら、彼女の見たことのなかった寝顔を見続けた。



      >>20080119 たまには地文のみの文章も作ってみるべきですね。



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