01 古い宿




 あの、異界の王との戦いの後、フィリアさんとグラボスさんとジラスさんは骨董屋さんを始めると言い、お別れして、リナさんとガウリィさんはいつもの二人旅をすると言って別れて、私はセイルーンに戻るための岐路に立ったのですが、ちょうどゼルガディスさんもセイルーン方面に用があったらしく、途中まで一緒に旅をすることになりました。

 森の中を歩いている途中、突然の雨に見舞われました。
 びしょびしょのなか、ゼルガディスさんは後ろを走っている私を確認するように時々見やりながら走ってくれます。…その優しさが好きなんですっていったら、私茹蛸になっちゃいますね。
 そうしてたどり着いたのが、森の中にある、辺鄙な古い館。
 軒下で雨宿りだけさせてもらおう、っていう話になって、軒下に行くと、私は思わずふるふるって髪から水分を飛ばすように頭を振ってしまいました。

「お前は犬か」

「てへ」

 そう言って笑うしかないです。
 すると、ゼルガディスさんは表情を変えないまま、白いタオルを一つ差し出しました。

「濡れているままだと風邪を引く」

 自分だってそうなのに、私に貸してくださるゼルガディスさん。…優しいです♪

「有難う御座います」

 私はそう言って、真っ白のタオルで濡れた髪をふき取りました。ううう、びちょびちょです。
 目の前を見ると雨は降り続けて、止む気配もなくって、…どうしましょう?
 と、その時後ろの戸がぎぎぎぎって開いた音がしました。
 ああああ、幽霊の類はやめてくださいぃぃぃっ!苦手なんですぅぅぅっっ!!

「どうしたんだい。早く入りな。ここは宿屋だよ」

「え、や、どや?」

 こんな古い洋館が宿屋なんて…なんだか信じがたいです。
 でも、ゼルガディスさんが入っていっちゃったので、私も入ることにしました。確かに入り口には受付みたいなカウンターがあって、そこにおばあさんが立っていました。

「二部屋、大丈夫か?」

「ああ。ほら、201号室と202号室だよ。階段上って右奥にあるから、自分で行きなさい。シャワー、風呂は部屋に完備してあるから十分だろう?」

「ああ、すまないな、ばあさん」

「こっちも商売なんでね」

 ゼルガディスさんとおばあさんのお話をぼぉっと聞いて、私はつられるままにその角部屋に入りました。掃除もきちんとされていて、ベッドメイキングもきちんとしているみたいです。…おばあさん一人だけみたいだったのに、大丈夫なんでしょうか?
 私はとりあえず濡れた服をお風呂場で脱いで、搾り出すと、水がどぁっと出ました。

「うわー、すごいです」

 それだけ強い雨だったって言うことですよね。
 それをしわにならないように脱衣所に置くと、暖かいシャワーを浴びて、置いてあったパジャマに着替えました。

「ゼルガディスさんからも、タオル借りちゃいましたし…。明日までに乾くでしょうか…」

 私は困ったように呟いてとりあえず、ハンガーにかけておくことにしました。
 とりあえず、私はなにもすることが無かったので、隣の部屋にいるゼルガディスさんのところに行くことにしました。
 こんこん、とノックして、声が聞こえたので入ると、ゼルガディスさんも常備してあったパジャマに着替えてみたいでした。窓の外は雨が降っていて、薄暗い中にいるのにゼルガディスさんの髪が光ってとても綺麗だなぁと思ってみていると、ゼルガディスさんが不審そうな顔をしたので、考えを切り替えることにしました。…恥ずかしいですもんね、こんなこと考えていたのばれたら。
 私はぽんっと、ゼルガディスさんの部屋にセットされているベッドに座りました。

「雨、止まないみたいですね…」

「しかし、こんな辺鄙なところに宿屋なんかあって、儲かるのか?」

 …ゼルガディスさんらしい考えです。
 でも、確かにここは森の中で別に街道沿い、というわけでもありません。おばあさん、こんな場所でちゃんと生活できているんでしょうか…。
 すると、こんこん、とノックがあっておばあさんがいました。

「食事を準備したよ。おいで」

 私たちはそれに従い、おばあさんの後をついていくと、大広間みたいなところに出ました。…大きな屋敷ですものね。こんなの当たり前、でしょうか。
 そこには、ディナーと呼べるような、鶏肉を使った料理がありました。…リナさんとガウリィさんならこの量じゃ足りないと思いますが。
 今日のお客さんは私たちだけみたいで、おばあさんと一緒に夕食をご馳走になりました。
 ゼルガディスさんは、じろり、とおばあさんを見ます。

「こんな辺鄙なところで、宿屋なんかして儲かるのか?」

 率直な意見です。ゼルガディスさんらしいです。
 おばあさんは苦笑していました。

「そうだねぇ。でも、私は迷える人たちを一晩休めさせているだけさ。…儲けなんて端から気にしてないよ」

 おおお、おばあさん素晴らしいです!

「その、お金儲けなんて考えない親切な宿屋生活!リナさんに永遠と聞かせたいですっ」

 まったくです。盗賊キラー、どらまたとまで呼ばれてどうしてあんなにもお金儲けをしたいんでしょうか、リナさんったら。まぁ、そこら辺はガウリィさんののんびりした性格で抑えられていると思いますが。

「それにね、…私には待っている人がいるんだよ。ずぅっと会えない人が、ね」

 …おばあさん、可哀想です。ずっと待つのは辛いことのはずです。それを、こんな大きな屋敷を手入れしながら待っているだなんて…。健気です。

「おばあさん大丈夫です。この世に正義がある限りっ!必ず、その待ち人は来ますよ!」

 そうすると、おばあさんは、ほんわりと、本当に嬉しそうな笑顔を見せてくださいました。

「そうだね」




 一夜があけると、あんなに降っていた雨が綺麗に上がっていました。私の服もゼルガディスさんから借りたタオルも綺麗に乾いています。
 それを着込むとゼルガディスさんのところに行きました。

「行くか」

「はいっ。あ、昨日、タオル有難う御座いましたっ!」

「…ああ」

 照れたように、少しだけほっぺが赤紫になっているゼルガディスさん、可愛いです♪
 1階に下りると、カウンターのところにおばあさんがいました。

「昨日は励ましてくれて、有難うねぇ」

 おばあさんはにっこりと笑って私に言ってくれました。その表情が本当に穏やかで、私はほっとしました。

「いいえ!おばあさんの待ち人は必ず来ますからっ」

 そう言って、ブイサインを作ると、おばあさんは柔和な顔をしてくださいました。
 外に出ると本当に綺麗な青空です。
 おばあさんに手を振ると、一礼をしてくださいました。

「あ、虹です!おばあさん、見ていますかぁ…っ!?」

 後ろを振り向くと、もうそこには大きなお屋敷はありませんでした。私はびっくりしてゼルガディスさんを見ると、ゼルガディスさんはにっこりと笑っていってくれました。

「あのばあさんは、次の迷える人たちのところへ行ったのさ」



      >>20041117 古い宿って感じがまったくしない!



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