02 疚しい気持ち




 目の前が真っ赤になるのを見た。
 過去など、消してしまいたかった。

「ゼルガディスさ〜ん、こんなに天気良いんですから、たまにはお外に行きましょう!」

 宿屋で香茶を飲んでいるときに突然宣言されて、俺の予定は見事に狂ってしまった。本来ならば図書館に行って、自分の身体を元に戻す方法の手がかりでもないかと探しているところなのだが、このお姫さんにかかっては自分の決めていた予定すらも覆す能力があるらしい。

「めんどくさい」

「そう言わないで!」

 めげずに言うのは、俺の性格を知っているからだろう。何を勘違いしているのか、俺をいい人だと言うアメリア。
 この手は、レゾの狂剣士になった時点で赤黒く汚れているというのに。


 結局、アメリアに付き合うことになった。
 なだらかな道が続く。空は、旦那の瞳の色のように晴れわたっていた。

「いい気持ちですねぇ〜、ゼルガディスさん!」

 アメリアはゆったりと微笑む。
 そんなときの彼女の表情は、色気もなにもないけれど、その無邪気な、純潔な笑顔は俺の衝動を引き起こす。…そんな気持ち、アメリアに見せたくないけれど。

「沈丁花、ですね」

 目の前の咲ききった花を見てアメリアは呟いた。
 花言葉は確か…永遠。
 何が永遠だというのだろうか。レゾに言われるまま、殺人を犯してきた俺の罪が永遠だとでも言いたいのだろうか。
 沈丁花を見つめる。
 花は何も言わない。

「永遠、…もし、ゼルガディスさんが残ってしまっても、私は永遠にゼルガディスさんの隣にいます」

 その言葉の重みをお前は知っているのだろうか。
 俺の隣に、血にまみれ罪を犯し続けた俺の傍に、お前は永遠にいるというのか?
 アメリアは微笑んでいた。慈愛の表情。
 本当に見たいのはそんな表情じゃなくて。

「ゼルガディスさんは永遠に私の傍にいますか?」

 保障も出来ないことを言う。
 俺は思わず苦笑した。

「いる、と言ったら、お前はどうゆう反応をする?」

 その言葉にアメリアは目をぱちぱちさせた。
 そして、突然真っ赤になる。表情のころころ変わる少女だ。皇女だということすら忘れさせる。

「そんなの、嬉しいに決まっているじゃないですか!」

 叫ぶアメリアに抱きしめたくなった。
 俺は合成獣で。
 俺はいくつもの犯罪を犯して。
 それでも、いいと、ゼルガディスさんはいい人だと、主張し続ける少女。
 俺は、本能に押されるままにアメリアを抱きしめた。
 腕の中にすっぽりとおさまるアメリアはとても小さく、少女だった。

「ゼル、ガディス、さん?」

 真っ赤な表情をして見上げる。
 その、濡れた赤い唇が俺の目に入る。
 ああ、今、こんな気持ちを抱いている、とアメリアが知ったらどうゆう行動をとるのだろうか。
 ゼルガディスさんのエッチぐらいは言いそうだな。

 俺は、アメリアを解放して、沈丁花を見た。

「永遠なんて、存在しない」

 人は強くて弱くて儚いから。
 けれど、俺がアメリアに抱いた疚しい気持ちは、一生続くのだろう。それこそ、永遠に。

「あ、あっちに市場がありますよ!行きましょう!!」

「…俺が人ごみが嫌いなの分かっていっているのか?」

「もちろんです!ですから、慣れないと!」

 アメリアは俺を引っ張る。
 俺の胸の内なんて知らずに。疚しい気持ちを抱いているなんて知らずに。

 そのほうが、いいのかもしれない。
 彼女は王宮に縛られる身だから。
 俺とは違うから。

 手にこびりついた赤い血は消えないから。



 >>20041124 友のプロフの好きな花に沈丁花と書いてあり、お前実物見たことあるんかいッ!と突っ込みたくなった。



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