04 あの日
「ゼルガディスさ〜ん、大きい町ですね♪」
アメリアに言われて前を向く。人の行き来の激しい、町。いつも当然のようにかぶっていた白いフードは取り外し、笑顔満面であたりをきょろきょろしているアメリアを見た。
しゃらしゃらと銀色の針金の髪が揺れる。忌まわしいこの身体。
「どうしたんですか?ゼルガディスさん??」
不思議そうに、いつの間にか俺の近くに寄ってきたアメリアは俺の顔を覗き込み、不安そうにそう言った。変な顔をしていたのだろうか。
「なんでもない。早く宿を取ろう」
俺は歩いた。
アメリアはその後をちょこまかと子犬のように追いかけてきた。
あの日、リナがレゾを殺していなかったら、俺は鎖につながれた狂剣士のままだったのかもしれない。いつか、歯向かい首輪を外そうとする、非力な狂剣士。
復讐はどうしようもない形で終わり、俺は、ずっと歩き続けた。醜い身体を隠すようにフードをかぶり、皮膚を隠して。鎖ははがれても、首輪ははがれないまま。
「ゼルガディスさんの髪っていつもキラキラしていて綺麗ですよね」
「…それはこれが針金で出来ているだけだからだ」
「でも、綺麗です」
にっこりと笑うアメリアに会った。
昔、俺を信じてくれていた、ゾルフ、ロディマス…彼らは仲間、というより部下だった。何故、あの頃の俺についてきてくれたのかも、俺には分からない。
アメリアは、俺の容姿など、気にしなかった。その存在が不思議だった。リナは、警戒していた。ガウリィの旦那は…あの通りだから何を考えているのかわからない。ただ、かっこいい、といって、俺がいい人だと勘違いしていた。…本当は前科もある悪党だというのに。
初めて会ったときから、信用してくれていた。
初めて会ったときから、仲間だった。
あの日。
あの時、アメリアに会わなければ、今の俺は孤独なままだったのかも知れない。
宿屋は空いていて、二部屋取ることが出来た。
結構活気のある街なものだから、もしかしたら、野宿も覚悟していたのだが…。
「ゼルガディスさん」
「なんだ?」
俺は、俺のあてられた部屋に荷物を置いたときに丁度アメリアがきて、そのまま、アメリアは机についている席に座って、アメリアを無視しまくっていたのだが、問いかけがあったからには反応はしておくべきだと判断し、顔を上げないで、それだけ言葉を発した。
「…なーんでもないですぅ。ただ、ずぅっと無視されていたんで言ったみただけですよ」
頬を膨らませて、アメリアはにっこりと笑った。
「…あのなぁ」
俺は声を出して、冗談は止めろ、と言おうとした口を止めた。
そういうことじゃない。これが、あいつらしいのかもしれない。アメリアがアメリアでいる所以なのかも知れない。
あの日。
こいつに会わなければ。
俺は、レゾの亡霊を追いかけるだけの、生きた屍だったのかも知れない。
微笑むことも知らずに、付けられた首輪をただ外そうともがくだけの狂犬だったのかもしれない。
アメリアがアメリアであることで。
首輪を見ずに俺を見たことで。
俺は、俺自身に成れたのかも知れない。
「…下行くぞ。夕食、まだだろう?」
「あ、そうでしたね。いっきましょ♪」
ぴょこぴょことついて来るアメリアはそのまま。あの日と変わらず。
あの日と、少しだけ大人になって。
あの日が無ければ、俺は俺でなかったのかも知れない。
>>20041204
よくあるテーマ設定で御座いますです(汗)
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