07 真夜中
私は、窓を開けて浮遊を唱えた。隣りの部屋ではゼルガディスさんがまた遅くまでなんかしているみたいで、光が漏れている。
…もぅ、いつか身体壊しますよ!
私は少しそう呟いて、空をくるくると回る。
今日は猫の目のような銀色の三日月が私に微笑んでくれます。
冷たい風に当たると、私は宿屋の屋根にふわりと降り立って、空を見た。
父さんも見ていますか?この三日月を。
姉さんも見ていますか?この三日月を。
「…お前は、屋根の上が好きなのか?」
後ろから、低くて綺麗な声が響きます。
少し呆れ返った様な…でも、とってもとっても大好きな声。
「好きですよ?空が綺麗に見えるじゃないですか」
私はそう言う。
高いところは好き。この手に月が届きそうだから。取って、独り占めしたいから。
ふっと、隣りに座ったみたいで、ゼルガディスさんを見ると、銀色の髪が光で跳ね返って綺麗で、緩やかな微笑みが、とてもとても綺麗に見えました。
「しかし、お前、こんな真夜中までよく起きていられたな。九時にはいつも寝ているのに」
ニヒルな笑みで嫌味を言うんです。うぅ、確かにいつも九時には寝ていますが…。それは言わないで欲しいです…。
「目が覚めたんです」
不意に。
笑っている私が居て、笑っている母さんが居て、笑っている姉さんが居て、笑っている父さんが居て。
中庭で昼食を取るんです。とってもいい天気で、母さんは笑って、サンドイッチを父さんに勧めて、父さんは照れたようにそれをとって、その後にそのサンドイッチを姉さんが取っちゃうんです。
すっごいしょげている父さんを私と母さんで笑って。
月が見えたんです。
不意に。
真っ赤な満月で。
母さんから出ているのは異質な鋼で。
黒髪の長い髪が揺れたんです。
言葉にならない言葉が口から漏れて、真っ赤な血液も口から漏れて。
微笑んで。
「明日はやりでも降ってくるんじゃないか?」
くすくすとゼルガディスさんは笑いました。
ひっどいです。確かに私、こんな真夜中まで起きていませんでしたけれど。
絶対絶対嫌味じゃないですか!
「…真っ暗な闇は嫌いです」
嫌いです。消してしまおうとするから。
けれども、闇が明けないことはないと知りました。光がない闇がないように、闇がない光がないことも知りました。
「ゼルガディスさん」
ねぇ、ゼルガディスさん。
この真夜中が目覚めた後には笑っていることを願います。
遠い空の地で父さんが微笑んでくれることを願い、姉さんが微笑んでくれることを願うように。
私は、あの月に祈るのです。
「夜が明けたのなら」
夜が明けたのなら歩き出しましょう。
それが何処へ行くのかは見えないけれど。
「サンドイッチを食べましょう!」
同じ月を見ていることを願うのです。
同じ空の下で。
リナさんも見ていますか?この月を。
ガウリィさんも見ていますか?この月を。
フィリアさんも見ていますか?この月を。
ゼロスさんも見ていますか?この月を。
そして、私の知っている全ての人も見ていますか?この月を。
真夜中が明けない朝などないのです。
>>20041222
けれど、朝は闇夜を連れ戻す。
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