14 セイルーン王宮
俺は珍しくアメリアと別行動を取っていた。普段は暇なのかなんなのか知らないが俺の周りを子犬のようにじゃれまわりつつ笑顔を見せてくれて、実年齢より子供らしい…と話がそれまくったが、いつもなら一緒に居るアメリアはいない。
つまりは一人で行動していた。
別段、アメリアがいないことで困ることはない。結局のところ各地を回り情報を漁るのは俺の問題であるし、アメリアが出来ることは少ない。…もちろん、出来る事があるのならとことん利用させてもらうが。しかし、実際は魔道のことに関するのであれば俺のほうが知識が断然上であるし、世界情勢や噂のことに関しても箱入り娘であるアメリアよりは俺のほうが断然に上なのである。王宮のことに関するのであればそれは逆転するが、王宮の知識が必要になる機会がそうそうに有る訳でもなく、俺の調べ物に関して言うなれば、俺だけのほうが面倒が少なくて済む場合のほうが多々ある。
とまぁアメリアが居る必要はないのだが、行動を別にするのは珍しいのだ。
白いフードをかぶりながら街を闊歩していた。
じろじろ見られるのは慣れたものだ。レゾに作られたその肌をさらすよりは幾分もいい。
と突然、身体に反発するような微少の衝撃を感じた。
「いったぁ〜〜いっっ!!」
甲高い女の声。
この、きんきんいう様な女の声は苦手だ。近くでべらべら喋られるといい気はしない。それ以上に耳がやられる気がする。
「なんなの一体!っていうか、大丈夫の言葉の一つでもかけたらどうなの!?」
「アンタが勝手にぶつかってきただけだ。俺がどうこうしようとアンタには何一つとして関係ないだろう?」
「む〜〜…なんって、男気溢れない奴なわけっっ!?」
目の前の女は長く黒い髪に藍色の瞳やや童顔でどこか、アメリアを髣髴とさせるような女だった。…傍に居ないだけで、黒髪に藍色の瞳の女とくればイコールアメリアだというおかしな構図でも浮かぶようになるのか?俺も何処まで毒されればいい。
思わず、はぁとため息をついていた。
「で、さっさと行ってくれないか?いい加減迷惑なんだが」
「なに、その言い分!……、よし、貴方強そうだしちょっと付き合ってくれない?」
「はっっ?」
女は勝手に言い出して納得すると俺を引きずっていった。
……俺は何一つとして言っていないのだが。
女に引きずられて来た場所はとある廃屋だった。遠い昔なら、ここらあたりの領主が住んでいそうな大きさだ。年月が経てば建物も人も衰退していくものなのだろう、きっと。
「で、アンタはこんな廃屋に何の用なんだ?」
「あたしの人生って結構いい感じでね。まぁ、人が見れば恵まれてる〜って思うようなものでさ。あたしもそれに関してはいいと思うし、元から他人に引かれたレールの上で拘束された人生だったけど、満足してんのよね。でも、一つだけ心残りがあってね」
女はバックの中から一つの箱を取り出した。
ぽいっと俺に投げる。…っていいのか?女にとって大切そうな感じを受けるのだが。
開いてみると、綺麗なルビーの指輪だった。
「それね、あたしの一番大切な人がくれたの。『君に似合う赤いルビー』だって。でもね、あたしと彼じゃ身分が違いすぎて周りにかなりの反対を受けたの。彼は駆け落ちしてでも一緒になるってそれをくれたんだけれども、運命って残酷ね。彼、志半ばであたしを攫ったがために死んじゃった。あたしの家臣があたしのためを思って、炎の矢で一突き。魔道の心得でもあれば別だったんだろうけど、彼は魔力のない根っからの剣士だったし、あたしは魔法を使えたけど気配に全然気付かなかった。それからは家に決められた結婚をしたけれど、どうしても彼を忘れることなんて出来なかったわ」
空を見上げてまるで思い出すかのように呟いた女は、どこか悲しそうだった。
「まぁ、あたしの我侭で下の人たちを無職にさせるわけにもいかなかったし、人生に後悔なんてないのよ」
「でも、アンタはその男のことだけ後悔しているんだろう?」
「ん…まぁね。彼、あたしの所為で自分のしたいこと出来なかったんだし」
「…お前の男は死んで後悔していなかったと思うぞ?お前のことが好きだったからこそ、しがらみがあろうともお前と一緒に逃げ出す覚悟があったんだろうしな」
光り輝いているルビーの指輪は男がどれだけ幸せであったか象徴させるようなもので。
決して後悔などしていないのではないかと。
「そうね…。でも、そう割り切れなかった。あの人を置いて一人国のために尽くしていくあたしは、生きていていいのかとさえ」
「馬鹿か。そっちのほうが男が悲しむに違いない」
俺は呟いた。
好きな女のために庇って死んだのに、その女が後追い自殺する事なんて望む訳がないから。きっと、生きているだけでその男は救われるのだ。
なんとなく、アメリアのことを思い出していた。もちろん、互いにそういう気質でないことは確かなのだが、人生には必ずという言葉は適さないから。
「そうね。そう思ったからこそ、あたしは死ねなかったし道を歩むしかなかった。敷かれたレールの道を」
ゆっくりと、廃屋となったその屋敷の扉を開いた。
扉の先にはシャンデリアが光り輝く、どこかで見たことのある王宮の舞踏会のようだった。…王宮?
その言葉に思考をめぐらす。
と、セイルーン王宮の広間を思い出した。あそこはそう、こんな感じだった。
「だから、ゼルガディス。あたしを守って頂戴。国に縛られ、運命を…あの人と共に歩むはずだった運命を分けたあの日から」
女は一瞬にして純白のドレスへと衣装を変えた。化粧もして、まるでよそ行き。
俺の服を見ると正装であるタキシード。
「なっ…?何で俺の名前を……っっ!?」
ひっぱられて走る。
驚いたかのように周りのものは叫び、口々に警備兵を呼ぶ声があがる。
「姫!」
「姫様に何をする、貴様!」
「姫?」
口々に叫ばれるその言葉に、俺は不思議に思った。
…この女が姫だと言うのか?
「おい、アンタの所為で、なんかあらぬ誤解を受けているようなんだが。というか、ここは別世界なのか?」
その言葉に女は微笑むばかりで。
そのうちに剣を持った兵士達が俺めがけて走ってきた。
「…一体目的はなんなんだ?」
いつもの白のゼルガディスと言われる由縁となっているその服装とは打って変わって、正装の服だったのだから剣などもちろん持っていなかったのに、兵士達が出現してから剣がその手の中にあった。
「そうね。依頼だと思ってくれたほうがいいわね。…目的はあたしを無事このセイルーン王宮から脱出させること。そうすれば、運命を分けたあの日からあたしは解放される」
女はにっこりと笑った。
そうまるで、アメリアのように。
「お前は一体」
「ほらっっ!ゼルガディス、火の矢!」
「ち、」
とっさに呪文を唱え、防御結界で火の矢を防ぐ。
「さっすが♪あたしの目に狂いはなかったわね」
「その目の所為で厄介ごとに巻き込まれている俺はひっじょうに迷惑なんだが?」
「まぁまぁ、それはそれ、これはこれ、でしょ?」
「いいや、絶対に違うと思うぞ」
どうも追われているのに軽い口調なのはどうしてなんだろうか、と思う。
人の気配は消えないし、人は増えていくばかりで道もふさがれる。
「地撃衝雷」
力ある言葉を唱えとっさに地面に触れる。
地面がせり上がり、俺の意思に従うものになり追いかけてくるものたちを壁になり防いだ。
「ああああ、ちょっと壊すようなことはしないでよね!」
「関係ないだろう?それにアンタに従わないとどうやら俺は抜け出せないようだし、まぁ手伝ってやるよ」
「あ、それは有難う!」
「もっとも、アンタを突き出してもいいような気もするがな」
「あ、ひっどーい!そんなんばっかりだと彼女に嫌われちゃうぞ!!」
思わず俺はこけそうになった。
女が案内するとおりに俺は走る。
見れば見るほど、案内される通路を突き進むほど感じるセイルーン王宮を髣髴とさせるそれは、俺が先頭を行っても良かったのだがセイルーンだと思うには確証がもてずに女に案内されるままに走っていく。人が来るので、必然的に強制的に道を作らねばならなくなっているのだが、その辺は殺さず生かさず(?)うまいこと精霊魔法で折り合いをつけさせていく。こうゆう場合にド派手な黒魔術より役に立つ。…まぁ、リナでもうまいことやっていくのだろうが。
「さっすが、ゼルガディス♪便利便利」
「…便利な道具扱いするのは止めてくれ…」
散々リナにいわれてきた便利なアイテム扱いが俺の心をつつく。俺は人間以下か!
そのうちに、出口が見えてきた。
光り輝く其処に、女は走っていく。
「有難う、ゼルガディス。あたしもようやく、彼と同じ処へいけそうだわ」
そう、外が見えない光り輝くその場所へ。立ち止まった女は微笑んでいた。
純白のドレスに合うような、ほっとしたような柔らかく優しい笑みを。どこか、アメリアに似た女のその表情に俺は何故だかほっとしていた。
「そのルビーの指輪は貴方にあげるわ」
「しかし、それは大切な…」
「彼にもらえるから大丈夫♪へんてこなイベントにつき合わせてごめんね。有難う」
女はもう一度礼を言う。
と、追ってきた兵士の声が聞こえた。
「ちっ…、早く行け!」
その言葉に、女は涙を浮かべているような…そんな気がした。
暗転
気が付くと、いつものフードをかぶっていた。
目の前にあるのは、女に連れてこられた廃屋。
足元には白い魔道書が転がっていた。…開いたページには漆黒の文字が書かれていた。
『決められたレールの上でもその先にあるものは決まっていたのに、見捨てることすらもままらなかったのは貴方を愛していたから』
そして、ルビーの指輪が。
「あれ?ゼルガディスさんじゃないですか、何でこんな処に居るんですか?」
聞き馴染んでいる柔らかな声につられて顔を上げると其処にはアメリアが居た。
俺はともかく、なぜ此処にアメリアがいるのかわからなかった。
「それは俺が聞きたい」
「えっと…ここはですねぇ、私のご先祖様が眠っている場所なんです。その方は、王家代々のお墓に入ることを拒んでこの場所に自分の骨を入れてくれって言って、息子さんが死後は自由だと言って実現して差し上げた場所なんです。せっかく、此処に来たのですから水でもあげようかと来たのですが…」
なるほど、と俺は納得がいった。
王宮という大きいものは炎で焼かれない限りそうそう改築したりしないものだ。ならば、幾年も前のセイルーン王宮であろうとも間取りは変わらないだろう?
ならば、彼女はようやく解放されたのだろう。
その、苦しめていた思いから。
「俺も、水をやることにしよう」
願うは。
本当に愛した男との安らぎを。
>>20050824
なんだか長め。
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