16 大嫌い




「大っ嫌いです」

 テーブルから身を乗り出して何を言うかと思えば、そんな言葉だった。
 それに反応するようにじゅくり、と心臓の奥の部分が軋んでいくのを感じた。
 何故突然そんなことを言ったのか理解できず、俺はアメリアを見た。しかし、非常に真面目な表情だった。

「ゼルガディスさん、大っ嫌いです」

 言葉が出なかった。
 目の前が真っ白になっていく。そのことが妙におかしく感じた。
 俺は、目の前の少女にこんなに嫌われる事をおそれているのか、と。
 この容姿故に人と関わる事を極力避け人に関して何の感慨も持っていなかった俺が、アメリアの言葉一つで、感情一つで、奥の奥からじゅくじゅくと膿みが出てくるように心臓から全身へと痛みだしていく。
 それが、奇妙だった。

「…どうしたんですか?ゼルガディスさん」

 にっこりと微笑むそれすらも、俺を嫌っているというのだろうか。
 嫌っている人間にすらも、お前はそうやって微笑むのだろうか。

「突然、だな」

 俺は無表情を作りながら、そうアメリアに言った。
 すると眉を寄せて困ったような表情をした。

「う〜〜〜〜ん、やっぱり嘘はよくないですね!」

「………………………………は?」

 とたんに心臓の奥の痛みがなくなるのを感じた。
 なんだか、アメリアの言葉一つに動かされる心に笑いたくなったが、ここで笑うのはおかしいだろうと思い、それは抑えておいた。

「あのですね、昼に美味しいケーキが食べられるっていう喫茶店に行ったんですけど、そこでお話したミューナさんが今度結婚するっていう話を聞いて、どんな出会いだったんですか?って聞いたら、『犬猿の仲っていうぐらい大っ嫌いな相手だったんだけど、何時の間にか好きになっていたのよ。それをね、彼と話していたら好きからは嫌いにもなるけれど、大嫌いからだったらもうこれ以上嫌いになれないから好きになるしかないじゃないか、って言われたのよ』ってとても嬉しそうに話していたので、私もゼルガディスさんを大っ嫌いになってみようかなぁって思ったんです!」

 考える事が安直過ぎるぞ、をい。
 俺は眉間に皺がよるのを感じた。

「ぶぅぅぅぅぅぅっっ!絶対呆れてるでしょ!?」

「そう思うなら、呆れさせることをしないでくれ」

 はぁ、とため息すらも出てきてしまった。
 なんというか、奇抜な発想っていうよりももうちょっと思慮してくれ、と言いたくなるような行動だぞ、それは。

「というか、お前は大嫌いからじゃないと好きになれないと思っているのか?」

「そうゆうわけじゃないんですけど…。だって、好きになってから嫌われたらとってもとっても悲しいじゃないですか。だったら、大っ嫌いからでもいいかなぁ、って思ったんです!」

「あのなぁ」

 アメリアの気持ちはある程度は理解できる。
 人を好きになるって言う事は、確かに怖い事かも知れんけどな。

「確かにその結婚する人は相手の嫌なところをたくさん見ているだろうけれど、最初嫌い合っていたってことは、確実にその人間に対して嫌悪する部分があるってことだぞ?好きになっても、また嫌いになる確立だって高い」

 するとアメリアは椅子に座ってうーん、と唸っている。
 まぁ、もちろん一概にそうとも言えんがな。恋は盲目というぐらいだし、付き合ってから嫌なところが見えるよりも最初からわかっているほうが、諦める事も改善しようとすることも、もちろん行動に対して「あの人はこんな性格だから……」と納得する事だって出来る。そういう意味では初めから恋愛感情をもつよりも、嫌いから始まったほうがうまくいくのかもしれん。

「結局は、その人の本質を見て妥協する点と自分で治していく点を見つめて、その人間と上手くやっていく事が大切なんだろう?」

「なるほど!」

 アメリアの顔がぱぁっと明るくなった。
 …単純だな。

「やっぱり自分に嘘つくよりも、同じく正義を叫ぶようにゼルガディスさんに正義を教えていくほうが、いいですよね!それこそ、正義ってものです!!」

 そこは大いに妥協して欲しい…。
 と言うか俺は叫ばんぞ、んなこと。

「納得したんなら、もう心臓に悪い事は言わんでくれ」

「はい♪……って、え?」

 少し驚いているようなアメリアの表情に、にやりと笑った。
 もう二度と俺の事を大嫌いなんて言わないでくれ。



      >>20050907 似たような話を書くのは考えに対して固執しているからなのかなぁ。



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