18 二人組
セイルーンに着くまで残りわずかとなっている。
此処で俺とアメリアの道は完全に分岐するのだろう。
ふとそう思ったら何故だかリナとガウリィの旦那を思い出していた。
「うわー!綺麗な花ですねぇ」
アメリアが一際大きな声で俺の隣から離れ走っていくので、なんだろうと視線をやるとそこには見事なブーゲンビリアの花が一面に存在していた。
嬉しそうに走っていくアメリアに俺も走って追いかけるだなんて面倒な事はしたくなかったので、ゆっくりとそのブーゲンビリアの蔦が覆い茂っている場所に向かった。
長い歳月を重ねて一面に咲き誇るブーゲンビリアにちくりと何故だか胸が痛む気がして立ち止まると、ふと気配を感じて右斜めの方向を向く。するとブーゲンビリアのように赤く長い髪を持った女が居た。
女に興味などなかったがふと気になってその女の元に行くと、女は静かに泣いていた。
「時は残酷ね」
呟く声はまるで小鳥が鳴くように高く綺麗な声だった。
その言葉に俺はじぃっとその女を見た。
女は涙を流しながら俺に薄い微笑を向けた。
それはまるで直ぐに消えてしまいそうな儚げなものだった。
「彼とは幼馴染だったわ。私と彼はよくこのブーゲンビリアが一面に広がるこの場所に遊びに来ては手を取りあって心を繋いでいったわ」
女は思い出すように空を眺めて微笑んだ。
きっと、その情景は女にとって美しく幸せなときだったのだろうと、簡単に想像がついた。
「でも、私はそれに甘えていたの」
女はその言葉を発すると嘲笑するようにくすり、と鼻で笑った。
俺はなんとなくその先が読めた。
よくある話だ。
陳腐なまでに王道で人の心変わりを人の心の繋ぎの弱さを露呈するような、きっとそんなよくある話。
「彼は別の女性と恋に落ちて、結婚したわ。私だけがこのブーゲンビリアの花と共に置いてきぼりにされたのよ」
そう呟いた女の言葉と同時に俺はブーゲンビリアを見た。
ブーゲンビリアのその蔦の前にはアメリアがとても楽しそうにはしゃいで、それはまるで踊っているような動作だった。
くすり、と笑い声が聞こえて俺は女を見た。
女は涙を流しながらも俺を見て少し悲しそうに呟いた。
「幾ら歳月を重ねても、小鳥は飛び立ってしまうものよ。…私たちの関係は結局幼馴染でしかいられなかったように」
女はもう一度空を眺めると、そのゆるやかなシルクで覆われた白いスカートを翻して俺の横を通り過ぎた。
それはまるで、諦めるように。
長い歳月を重ねた愛情を、一瞬の燃え上がる炎を焼き尽くされたことに嘆くことを諦めるように。
「貴方達二人の関係はどうなのかしら」
すれ違う瞬間に呟かれて、俺はずきりと胸が痛くなるのを感じた。
俺たち二人の関係は…空く時を超えられるのだろうか。
それとも、別の形へと変化するのだろうか。
いつか一緒に旅をしたあの二人組のように一種の確固たる絆もないような俺達は一体どうなってしまうのだろうか。胸だけが痛んで。
俺は振り向いた。
女は涙を流しながら赤い炎のような空気に変化し、遂には透明にグラデーションを奏でながらゆっくりと空気の中に無音のまま消えていった。
驚いた俺の耳にぱさりと何かが落ちる音が聞こえて地面を見ると、そこには真っ白なはずの魔道書が開かれていて黒いインクで言葉が刻まれていた。
「置いていかれた情熱は行き先もないまま空に消えた」
俺はそれを確認すると、魔道書ともいえない真っ白な本を拾い上げ鞄の中に仕舞い、ブーゲンビリアの前でまるで踊っているようにはしゃいでいるアメリアの元に行った。
アメリアは楽しそうににっこりと微笑むと、ブーゲンビリアの花を俺に差し出した。
「悪いなぁ、と思いましたけど一つ頂いちゃいました!どうぞ、ゼルガディスさん」
俺はその花を受け取ると空を見た。
アメリアと俺は、時を経て果たしてどのような二人の関係を築いていくのだろうか。
>>20050921
花の環境とか時期とか総無視的な話。
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