20 閉鎖
丘に来ていた。
眼下にはセイルーンの独特の町の形がはっきりと映し出されていて、俺はその姿を見ながら安堵と共に寂しさを感じていた。
「うわー久しぶりですぅ!」
アメリアは嬉しそうに頬を緩めてセイルーンの姿をじぃっと見ていた。
それは恐らく、あの厄災を運んできた火竜王に仕える黄金竜の巫女が来てから一度も戻れずにこんなにも時間が経ってしまったからだろう。連絡が取れる範囲に戻ってきたときにあのおうぢとはどうしても呼べないフィルさんに手紙は出しただろうけれど。
「ゼルガディスさん!是非うちに寄っていってくださいよ」
にっこりと天真爛漫なアメリアらしい微笑みを俺に向けて、心が動かされるような誘いをするけれど俺はどうにか首を横に振って否定した。
鍵をかけなくてはいけない、と思う。
ここで別れれば、俺は定住地を持っていないから自ら連絡を取ろうと思わなければきっと自然消滅して、アメリアは何処かの王子とでも結婚してセイルーンを支えていくのだろう。
だから、きっとここで鍵をかけるべきなのだ。
俺の心の中に、かちゃりと鍵をかけてしまえば全ては済む問題なんだ。
「そう…ですか」
「ああ。もう、行かなくてはいけない」
そう告げるとアメリアはとても悲惨そうに顔を歪めて俺を見た。
「もうですか!?」
「ああ。俺は早くに元の身体に戻りたいし、時間を無駄にする事は出来ないから」
しゅん、と首を下げてまるで小さく丸まってしまいそうな雰囲気すらも醸し出していたけれど、俺は抱き締めたい衝動を抑えてぎゅうっと己の手を握り締めた。
アメリアは直ぐに顔を上げてにっこりと笑った。
「元に身体に戻ったら、一番に私に見せに来てください!」
言われて、かけようとした心の鍵がかかる前に落ちていくのを感じた。
かけなくちゃいけないのにその笑顔が言葉が心に浸透して、全てを閉鎖させて締め出そうとしていたのにそれを許さないようにアメリアが入ってこようとするから、身体を固めた。
此処で肯定してしまえば、二度と鍵をかけることは出来なくなる。
「お願いします、ゼルガディスさん」
「駄目だ。そんな不確定な約束は出来ない」
そう言うと、アメリアは頬を膨らませて怒ったような表情を見せてびしぃっと人差し指で俺を指した。
「そんなこと言っちゃうんでしたら、ゼルガディスさんの旅について行っちゃいますからね!」
そう言われて、俺は少し困ってしまった。
アメリアはセイルーン国民や仕える人たちを蔑ろにして俺についてくるような自分勝手なタイプではないのだが、だからといってそれを必ずしないとは言い切れない。何故なら、彼女も旦那と同じで猪突猛進型だからだ。
「ゼルガディスさん。私、いつまでも待っています」
「……」
「絶対、私に笑ってくれるの、待っていますから…っ」
少し泣きそうな顔で、でも泣かないでアメリアはそれだけを呟いた。
俺は突き放していいものか分からずに、でも突き放せずについに言ってしまった。
「…約束する」
すると、アメリアはこくりと頷いて嬉しそうに笑うとぱたぱたとセイルーンに向けて俺のほうを振り向きながらも、帰っていった。
俺はそれを何時までも見ていた。
>>20051005
それは開かれたまま。
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