魂喰い
セイルーン城に戻ると、突然起き上がり飛び出していったアメリアを心配していたフィリオネルが厚い抱擁で出迎えた。
ぎゅうっと抱きしめられて正義を確認するアメリアと抱きしめて平和を確認するフィリオネルの様子をゼルガディスは非常に冷めた目で見ていた。
そんな周りから見れば非常に暑苦しくてたまらないこの親子独特の挨拶の仕方を終えると、フィリオネルは非常に人の良い笑顔でゼルガディスを見た。
「ゼルガディス殿、解決したのかね?」
「ああ」
それは非常にそっけない返答であったが、フィリオネルにとってはそれで十分だったようであった。
「ならば、警報を解除してしまおう。――わしは今から城下町に行く!」
「し、しかし殿下!」
傍らに待機していたフィリオネルよりも年齢のいった臣下が驚いたように声を荒げた。
そんな臣下に対し、フィリオネルは決しておうぢとは言えないまでもにかっと見ている人が気持ちよくなるような笑顔を向けると言った。
「ゼルガディス殿は信用できる。貴殿だって会議に参加することを了承しているじゃないか」
「それとこれとは!まず、事実関係を確認してから警戒を解いたところで遅くはないはずですっ」
「――現に白魔法に長けている我が国の神官がかけたどの回復呪文でも目覚めなかったアメリアが目覚めた。これを証拠と言わずして何を証拠というのだ?むやみやたらに事実確認を優先して国民の不安が解消されぬよりは、ある程度確認できたのなら安全宣言を発表して国民を安心させるほうを優先すべきだと思うが」
きっぱりと言い切るフィリオネルの言葉に老成した臣下はぐっと歯をかみ締めた。
それは自身が正しいと変化を拒みつつある老人だからこその行動だったのかもしれない。
しかし、臣下はふっと息を吐くと緩やかに微笑んだ。
「そうですね、殿下。私が慎重すぎたようです」
「いや、国民のことを考える気持ちは貴殿も同じだからな」
「しかし、グレイワーズ殿には悪いことをしてしまいました。申し訳ございません」
フィリオネルの斜め後ろにいたゼルガディスに対して老成した臣下は謝るように深々とお辞儀をした。
その様子に謝られるとも思っていなかったゼルガディスは少し困ったように頭をかいた。
「――謝ることはない。フィルさんの言うとおり、アンタは国民のためを思い不正確な情報をきちんと調べたほうがいい、と言ったのだから。俺だってアンタと同じ立場だったのならフィルさんに同じことを言っていただろう」
「有難うございます、グレイワーズ殿」
年月を経て刻まれた皺を深くしてゆったりと微笑む臣下に対して、やはりゼルガディスは困ったような照れたような表情を見せた。
その様子にアメリアは楽しげに微笑んだ。
「父さん、安全宣言をするのなら早く行ったほうが良いのではないですかー?」
「おお、そうだったな!事後処理と現場検証は貴殿に任せるっ」
「で、殿下!もう少し落ち着いてくださいっ」
よろしく頼む、と慌てたままぱたぱたと外に出て行ったフィリオネルを見送る。
一息ついたゼルガディスはさて、とその長い年月を生きた臣下を見た。
「事情聴取、今からするか?」
「いえ、まだゼルガディス殿も姫も帰ってきたばかりですし明日にすることにします。どうぞ、お二人ともごゆっくり体を休めてください」
「すまないな」
「いいえ。私はグレイワーズ殿を認めておりますから」
にこり、と緩やかに微笑んだ臣下はそのままゆったりとした足取りで廊下を歩いていった。
「いい人達でしょう?わたし達の臣下は」
「……ああ、まったくだ」
ゼルガディスはふっと緩やかに微笑んだ。
そうして事件の処理が終わった頃。
ゼルガディスは紫遠から聞いた喰らう書≠ノついてアメリアに説明した。
「へぇ〜、なんだかすごい本だったんですねぇ」
「厄介なことに変わりはないがな」
アメリアは本を確認するようにぱらぱらとページをめくる。
ところどころに詩のような文字は刻まれているものの、そのほとんどが白紙であった。これが全て埋まるにはどれだけの時間がかかるだろうか、とアメリアは思った。
もっとも、アメリア達が生きている間にこの本の全てのページが埋まるのを見れそうもなかったが。
「けれど、この本のおかげで燐音さんは紫遠さんと会って憎しみを消化することが出来たのですから、正義の本ですっ」
びしっと人差し指を天井に向けて突き刺したアメリアの行動をゼルガディスはやや呆れたような目で見ていた。
「しかし、これを作り出したものは何の意図があってこんなものを作ったのか俺にはまったくわからん」
「そりゃあ決まっていますよ!」
アメリアの先の言葉を想像するのはゼルガディスとってたやすかった。
もしくはこの城の人、果ては城下町の人々にさえも先の言葉を読むことが出来るのではないだろうか。そう思えるくらい、アメリアの言葉の先は予想しやすかった。
「人々を救うためです!これすなわち正義っ!」
そして、予想は外れることはなかった。
なのでゼルガディスはそれを一切無視して製作者の感情を想像してみた。
しかし、ゼルガディスにはまったく予想できない。彼には思い出を起こして喰らうことに何の意義も見出せなかった。ので、首をかしげて正面を見ると、うるうると大きな瞳に涙を溜めたアメリアの顔が見えた。
「うう、無視するだなんて正義じゃないですぅ」
「あー分かった。これは正義の本だ。それでいいんだろう?」
「投げやりも正義じゃありませんっ!これは、ゼルガディスさんに正義とは何たるかを説かなければいけないようですねっ」
ぐっと気合を入れているのか手を握り締めて真剣な表情でゼルガディスを見ているアメリアに、正義とは云々かんぬんという講義を逃げるにはどうすればいいだろうか、と自身の首筋を撫でた。
そうして、切々と正義の講義を始めたアメリアを尻目に、ゼルガディスは窓の外に視線を置いた。
混沌へと向かった紫遠と燐音は仲良くやっているのだろうか、と思いながら。
>>20060531
此処のシーンだけ全部書き直しました。
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