世界の終わりに
幾歳もの月日が流れ、赤眼の魔王様が復活成されました。
魔族など昔の話だと過信していた人間たちはリナさん達などと比べては申し訳ないほど弱く簡単に滅亡していきまして、人間が出す異物により身体を蝕まれた力のあった黄金竜やエルフももう、600年ほど前に完全に消えてなくなっていました。
魔族の中には人間の中で何度も輪廻を繰り返し、あのお方の体内へ帰るということも忘れて自分を生きさせろ、などとほざく者も現れましたが、それすらも復活成された赤眼の魔王様が全て破壊し尽くしてくださりました。
そしてその行為は、生き物の叫びや苦痛や痛みやさげりや絶望を生み出し…それら全てがおいしいご飯で、毎日お腹一杯になってしまうほどでした。
周りには謳歌を極めていた人間たちが作ったコンクリートというもので出来上がった無機質なものが破壊し尽くされて存在していまして、ビルとかいう異様に縦長い建物は真っ二つに折れ。
もう、人間の気配は全て消えてなくなりました。
あとやる事は、この星を消してしまうこと。
「ゼロス」
「は、なんでしょう?我等が主よ」
僕は頭を垂れて言いました。
目の前には赤眼の魔王様が居られました。
「これから、私は部下である覇王、獣王、海王やその他の全ての生き物を滅びへと導こう。そして、我自身も。…そこでだ。ゼロス、貴様にこれをやろう」
そう言って僕の手に差し出されたものは真っ赤な球体。
「それは私の魔力が溜まっている。…この世界を吹き飛ばすには簡単すぎるぐらいのな…」
「我等が主よ。私には貴方様の意図がいまいち読めませんが」
僕は頂いた球体を如何すること出来ずに、直接触れることもなく微妙に浮いている球体を見ていました。
「お前には、最後の役目…。この世界を滅ぼす役目をやってもらう」
「そ、そんな重要なこと!私めではなく、貴方様の腹心であるいずれの方々にやっていただいたほうが適切なのではないですか?」
不意に目の前のほうにいた男の身体が突かれていた。覇王様でした。
突いたのは、紛れも無く我等が主、赤眼の魔王様で。
「私は主が一番適切だと思うのだ」
次には海王様が。…とても、とても幸せそうに果てられる。我等が願いはもう叶ったも同然なのですから。
しかし、世界の終わりを導くには僕が一番不適格だろうと自分で思うのです。
なぜなら……、今ですら僕より先に逝ってしまったフィリアさんの笑っている姿が鮮やかに目に浮かぶのですから。
楽しそうに、
怒ってモーニングスターを振り回して、
どこまでも楽しく、
愛しかった存在。
「罰なのだよ。最後に自分が愛してしまった者たちが住んでいたこの星を壊せるのか」
そう言って笑うお姿は、きっと僕が混乱し絶望にも似たものを吐き出しているそれを食べているからでしょう。
なにがうまいというのでしょう。
…そして、獣王様も灰になって胎内へと戻られました。
「私も滅びよう…。如何するかはお前しだいだ。魔族の」
「…分かっています」
我等が王も消えていなくなりました。
生きているのは、もはや僕だけになっていました。
それと、世界。
僕は折れ曲がったビルという建物の上に、赤眼の魔王様が残された赤い球を持って座りました。
世界はやけに静かになっていました。
おぼろげに覚えている記憶では、リナさんとガウリィさんは幸せだったと仰っていました。
生粋の魔道士であるリナさんならば寿命を延ばすことも簡単なはずなのに、敢えてそれをしなかったのは自分の流れを知っていたのでしょう。
どこまでたっても自分勝手で、どうしようもない。…あんな人、後にも先にも貴方だけでした。
アメリアさんとゼルガディスさんも。
王宮という場は活発なアメリアさんには少し窮屈そうでしたが、暴れるアメリアさんを抑えるのには丁度良い場だったようで…。そして、ゼルガディスさんは聖王都の仕組みを作った方でした。後々まで使われていただなんて思ってもいなかったでしょうね、きっと。
とても仲が良く、逝ってしまう時も二人仲良くでしたね。
僕の娘――ゼフィと、ヴァルガーヴさんも幸せだと。
二人は竜の属性を持っていますし魔族の属性も半分受け継がれていたので、リナさん達よりは長生きしてくれました。
大きくなっていく我が子を見る親の気分を味わったのはこれが最初で最後の経験でした。
ゼフィもヴァルガーヴさんも葛藤ばかりの人生だったでしょうが、静かに眠りに逝ったのが何よりでした。
そして、…フィリアさんも幸せだったと。
この戦争が始まる少し前に寿命を迎えてしまいましたね。
手を握る僕に、
「魔族が神族の手を心配そうに握るだなんて、誤解されますよ?」
なんて、慣れない口調で言って。
「愛しているわ、ゼロス。愛していたわ、ゼロス。…今の貴方ならば、どちらが重くない?どちらが魔族として生きていけるかしら?」
微笑んでくれました。
ああ、これこそ神ってやつの笑顔だと、そう思いました。
「愛しているわ、のほうでよろしくお願いします」
いつものおちゃらけた口調で言いました。だけれどもフィリアさんは少しだけ泣いてしまって、僕はびっくりしました。
「……愛しているわ、ゼロ…ス」
簡単に事切れて。
でも、最後まで微笑んでいましたね。
それからの神族との攻防は意地とかより、生きなくてもいいという軽い気持ちがそのまま勝利に繋がっていったようなものでした。傷を受けることなど気にせずに相手の懐に入って、ぶすり、と刺してしまえば終わりでしたから。
恐れなど無い、といった戦い方にゼラス様は少し呆れていらっしゃったけど。
そうして、今、この世界の命運は僕に任されてしまいました。
竜もエルフも人間のせいで土地を追われて人間たちの作り出した毒素にやられていき、人間どものミサイルといったものの攻撃はリナさんなんかよりまったく格下で殺すのもめんどくさい位で。
赤眼の魔王様もいなければ、赤竜の神の腹心も消えてなくなっており。
もうこの世界には僕と、この星の鼓動だけが響いていました。
「愛しているわ、か」
以前は魔族の業というのもあり、言いませんでしたが。
今、あるのは、自分と、星の鼓動だけ。
「フィリア、愛している―――」
手の中の真っ赤な球体が破裂して、世界を破壊しました。
>>20050309
微弱修正。
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