以前、リナ達が結界外へ旅立ったときより遥かに航路が整い安全になった船旅を経て、フィリアは以前拠点としていた火竜王の神殿跡地にたどり着いていた。
 手入れもされなくなったそこは、風化していき薄汚れていたものの崩壊までには至っておらず、リナが設計修復した個性的な外観部分までそのまま残っている。
 フィリアは、それに小さく微笑むとその建物の中に入った。
 建物の中はフィリアが居たころとはまったく違い、土ぼこりやらくもの巣やらで汚れている。部屋をのぞくと物色されたのか乱雑に本や雑貨が転がっていた。
 一度は捨てた場所とはいえ、元々住んでいた神聖なる場所に対しての扱いにフィリアは顔をしかめる。
 だがしかし、それだけだ。
 彼女は荒らされた部屋に目的のものがないと分かるとすぐに踵を返す。
 そんな風に部屋をのぞきながら奥まで進むと、赤の竜神フレア・ドラゴンスィーフィードの偶像が祭られた祭壇へとたどり着いた。
 巫女であるフィリアには馴染み深く、もっとも神聖であった場所。
 しかし、八十年も経てば純白に包まれステンドグラス越しに光差す美しい場所だったそこも、茶色く薄汚れ埃が舞い偶像にはくもの巣がはっていた。
 フィリアは変わらず顔をしかめながらも、何かを探すようにきょろきょろと視線をさ迷わせつつ足を進める。
 ふと、視線が一点に止まった。
 彼女は慌てた様子でそこに駆け寄る。
 赤の竜神の偶像の元に、フィリアの求めているそれは存在した。

「――おじい様」

 それは、フィリアの祖父であった最長老バザード=ウル=コプトの記憶の珠。
 彼だからこそ残しえた――血族へ継ぐための記憶。
 フィリアは、その珠へ手を伸ばす。
 彼女の指先は期待のためか恐怖のためか小刻みに震えていた。
 それでも、伸ばす手を止めることはせず。
 フィリアはついに、珠に触れた。
 触れた瞬間珠は光となって弾け消え、残されたフィリアは青い目を大きく見開き微動だにしない。
 衝撃を逃すように一ミリも動かなかったフィリアの体は、しかし徐々に青い目が通常の色に戻ると同時に動き始めた。
 フィリアは黒いワンピースに付着したほこりを払うようにスカートを叩くと、薄汚れた赤の竜神の偶像に向かって一礼する。
 そうして、偶像に向けた目は何者にも揺らがない強いものだった。

「おじい様、私はそれでも――おじい様が私を思ってこの記憶を残してくださったのだとしても――やっぱり、揺らぐことはありません。そんな、愚かな私を許さないでください。憎み、裁いてください。――復讐が終わったその時に」

 そうして、フィリアは微笑んだ。

「ありがとうございます、おじい様」

 彼女は踵を返し、二度と偶像を見ることはなかった。



      >>20100310 終結に続く。



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