日常茶飯事




 それは通常の日常に含まれた、ごくごく一般的な出来事であった――僕らにとっては。
 旅暮らしにおいて、莫大なる財産は必要ないものの一定の財貨を持っていて困るということはない。
 僕の旅の連れでありこの旅で行く先や全ての選択肢において全ての決定権を持っているアキラが選ぶ道というのが酷く財貨の必要のない劣悪な環境であっても、だ。
 故に、たまに賞金首の話を聞くと(腕試しにもならないが)アキラの旅の目的が自身の鍛錬ということも相まって適当にのさばっていた賞金首のアジトを壊滅したり、もしくは彼らを役所にたたき出すことによって必要最小限の金を得るのである。
 今回も、まぁ必要最小限の財貨を手に入れる必要があったため、たまたま耳に入った賞金首のアジトを適当に壊滅させ賞金を戴こうと僕らは奴らが拠点としている城の前に居た。

「しかし、紅虎もなにをしているのでしょうかね。関が原の戦いで家主が居なくなり必要としなくなった城に賞金首が住み着くだなんて、徳川家の失態そのものじゃないですか」

 呆れたように僕の隣で呟くのは、旅の連れであるアキラであった。
 その呟きは僕に向けてしたものではなく、独白に近いものであったようで彼は一人で完結してしまっていた。まぁ、僕に紅虎の日本においての地位についての話をされたところでまったく分からないのでそれはそれでしょうがないとは思うのだが、腹立たしい。
 しかし怒鳴り散らす対象も付け込む要因も言葉も見当たらず、頬を膨らませて態度で不機嫌だと示すしか術がないのでそれを何のためらいもなく実行した。
 それに何を思ったのかアキラは深く深くため息をつきやがった!
 それがほとほとあきれ返ったと言わんばかりのものだったから尚更だっ!

「貴女はもう少し精神的に成長すべきだと思いますよ?」

「っるさいっ! お前に言われる筋合いなんかこれっぽっちもないんだっての! ほらっ、さっさと行くぞ!」

 まるで年上のような諭す口調で言われれば更に腹が立つばかりで。
 けれど、これ以上口論しても今までの経験から勝利の確信がない限り僕が口で彼を負かすことなど出来ないとわかっていたので、目の前の城を攻略するほうに意識を無理やり向けた。
 そっちのほうが本題なわけだし。
 僕とアキラは入り口から堂々とその城へと入っていく。
 作戦を考えるのが面倒だったわけではなく、そこら辺の雑魚相手であったらアキラ一人でも十分対処できること、彼が純粋に剣の腕を上げたいこと、そして僕と死合った後遺症からくる動きのぎこちなさを解消するための実践を兼ねているためである。
 城門には(雑魚のねぐらとはいえ)門番が悪党にしてはご丁寧においてあり、よくある言葉を放つ。

「何者だ!」

「貴方がたにとっては怪しい者でしょうね」

 慣れてるといわんばかりにアキラは酷く冷静に閉じられた瞼を門番に向け、端的に言葉を発した。
 門番は上手いこと乗せられ、アキラ自身の手にかかり屍と化す。もっとも、それは例えに近いものであり実際に門番らは気絶したのみであったのだけれど。
 重く閉められているはずの門は、不便だとでも思ったのか開け放たれていて門の意味を有していない。

「さっさと行くぞ、アキラ」

 息を吐き刀を納めるアキラに言い放ち、僕はさっさとその門の意味を成していない門をくぐる。
 ぐらり、と身体が揺れ自身の身体なの中にいつも存在し感じているそれが脆弱になる。
 後から門を潜り抜けたアキラもそれを感じたらしく不思議そうに手を見つめていた。
 けれど、僕の身体の中で脆弱になっているそれの根本を理解していた僕はなるほど、と納得しアキラに話しかけた。

「どうやら、ここの天辺にはシャーマンが居るようだね」

「体内の何かが封じられたような感覚に対するものですか?」

「勿論。お前は唯人だから分からないだろうけれど、これは特殊能力を封じられたんだろうね」

 そう述べてきゃらきゃらと笑うと、しかしアキラは僕の嘲りにも似た挑発など一切乗らないでなるほど、と納得していた。ここでわざわざ突っかかって口論にでもなったら(腹は立つだろうけれど)幾分すかっとするだろうに、そんなすかした態度は僕を惨めな思いにさせ苛立たせるには十分である。
 ぶぅと口を尖がらせているとアキラはその見えない眼を僕に向ける。

「特殊能力とは、私が氷を生み出すための能力のようなものですか?」

 一瞬教えるのも癪だと思ったけれど、丁寧に問われているのに教えずアキラになんだかんだ言われるのも面倒だと思ったので素直に教えることにした。

「そう。生きとしいけるものの体内にはその差はあるものの少なからず何かを生み出す魔力に似た力を秘めているものさ。お前は唯人だけれど人にしては能力値が高いのだろうね、氷を扱える。僕は戦闘人形の中でも名門の出だから属性を限られることはないし、能力値にしても高い」

 全ての属性を扱えるからといって強いかといえば、有利に事が進めるだけでその道を極めたものに対しては弱いこともある。いい例が目の前の漢に負けたことなのだろう、きっと。
 それでも僕がこうして十四〜五歳程度の姿で居られるのはひとえに能力値が高いゆえだ。姿を変えるのは木に属されるのだろうけれど、僕が普段扱うのは五行に例えれば金に近い。
 そういった意味では全属性を扱えるのは便利だし、能力値が高いのも便利である。

「まぁ、この天辺に居る結界を張ったシャーマンを倒さない限りはアキラ、お前は必殺技を使えないだろうね。初級の技ですら息切れするぐらいには」

 と言っても、この城の中にアキラが灼熱の冷気ヘル・ゴーストを放つ必要があるほど強い敵が居るとは到底思えないけれど。というか、壬生一族でないのに手こずられたらアキラに負けた僕の立場がまるでないじゃないか!
 寧ろ、このくらいのハンデをつけて余裕で勝ってほしいものである。
 そんな心内を読み取ったのか、アキラは僕の解説を静かに聞き入りじゃあ、と呟いた。

「時人、貴女も必殺技を撃てないということですか?」

「撃てなくはないだろうけれど、必殺技を使おうとすればあの醜い姿に戻らなくちゃいけないからやだね」

 僕は能力値が高い故にたかだか人間のシャーマンが用いた結界などで抑えきれないほどの力を所有している。だからこそ、今の姿を保てるのであった。
 北斗七連宿は一見何の能力も使っていないように見えるが、衝撃波という名の能力を加算しているから技の連なりに破壊力が生まれるのである。能力を乗せなくても人を斃すことは容易いが、それなりの侍になってしまえば防げる程度の威力しか所有していない。そんなものは、必殺技でもなんでもない。
 今の姿を保ったままでは必殺技と言える程度の威力を所有した北斗七連宿を撃つほどの余裕は残っていない。
 肩を竦めてそう事実を述べると、アキラは眉間に皺を寄せて不愉快そうに僕を見た。

「貴女はそんなにも――」

 しかし、放たれた言葉が最後まで紡がれることはなく。
 ぐっと奥歯を噛み締め言葉を切ったアキラは冷ややかな表情のまま、城の中に続く道へ身体を向けた。結論を言うこともなく。



      >>20070207 細かい設定を捏造するの本当に好きだなァ、俺。



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