建物の外に出ると、五人は天界に来たときのように神補佐の笠に乗ってひゅんと空を飛ぶ。
 目的地に向かうその間、そういえばと思いついたように鈴子が神補佐に聞いた。

「犬丸さんが天界力を植木君に渡したのであれば、植木君は神器を使えるようになったのではないですか?」

「いえ、それはないですよ。神器を使うための天界力というのは天界人が成長すると共に現れるもので、故意に与える天界力とは作用の仕方が違うんです。なにより、植木君の枯渇した天界力を埋めるほどの天界力など、神様であろうとも与えることは出来ませんしね」

「では、レベル2は使えますの?」

「ええ。それは問題ありません。神の座を争うバトル最終地点での能力を与えておりますので」

 それらの質問は全て植木のことだというのに、彼はまるで分かっていないような表情で鈴子達を見ていた。

「くそっ、ここに通販で買った『一秒で百の物事をオボエールバンド』があれば一発で理解できたのに!」

「んなもん信用すんなっ!」

 などと軽い漫才が発生したところで、天界と人間界の間に出来てしまったその異次元の入り口に到着した。
 空の中にいるような空間の中でまるで穴が開いてしまったように中が暗闇で見えないそこは、侵入者を歓迎するようにひゅううと風を吸い込む。
 その風景に、現実主義者とも臆病者とも言えるヒデヨシは怯えたようにぶるぶると体を震わせ、佐野の後ろに隠れようとぐいぐい浴衣を掴んでいた。

「ぶぶぶぶぶっちゃけ、このなかに行くのかっ?」

「はい。異次元の穴はこの中にありますから」

 そんな風に神補佐はなんてことのない風に答えた。
 だが、怯えているのは森とヒデヨシだけで他の三人は別段なんとも思っていないような――植木や佐野に関してはむしろ楽しげにその穴を見ている。

「じゃ、行こうやないか」

 そう言って佐野は浴衣を掴んでいたヒデヨシの腕を引っ張ってそのまま笠からジャンプし、異次元の穴に吸い込まれるように落ちていった。
 ヒデヨシの悲鳴と共に。

「では、先に参りますわね」

 鈴子も、植木と森にそう述べぴょんと笠から降りるように異次元の穴へ落ちていく。
 その様子を見て森は嫌だと言わんばかりに唸っていたが、植木はそんな彼女に手を差し伸べた。

「行こうぜ、森」

「……私、か弱い女の子なんだから守ってよね!」

「もちろんだ」

 しぶしぶながら植木の手を掴みそう述べた森に、植木は当たり前のことだろと言わんばかりに表情を変えず肯定し。
 そうして、二人一緒に笠から飛び降りると異次元の穴へ落ちた。


 穴の中は真っ暗闇ではなかったが、ごつごつした岩ばかりの地面に暗雲が立ち込めており鬱屈した雰囲気をかもし出していた。
 地面に着陸した植木と森は、先に異空間の穴に落ちた三人を見る。
 佐野は楽しげに口元に笑みを作り、ヒデヨシはぶるぶると恐怖に耐えるよう拳を握り締めていた。鈴子は警戒するように空間の奥を見ている。

「うっわー、いかにもって感じね」

 森は嫌そうに呟き、鈴子につられるように空間の奥を見た。
 刹那体内の奥がぐるぐるとかき回されるような感覚に陥り彼女が植木を見ると、植木もまた耐えるように表情を歪ませている。
 しかし、それは自身をも飲み込む程度ではなく静かに数秒ほど耐えると収まり違和感は消えてなくなった。

「ところで、どっちに行ったほうがええと思う?」

 二人が感じていた違和感が収まるのを待っていたように、佐野はそう聞いてきた。

「ぶっちゃけ適当でいいんじゃないか? 方角すらぶっちゃけわかんねーのに、どこに穴があるのかなんてもっとわかんねーだろ」

「そうですわね。私達が知っている世界とは勝手が違うようですから、とりあえず進んだほうがいいでしょう」

 適当であることに一番非難するはずの鈴子がそう肯定したので、一同は適当な方向を歩こうと足を上げ下ろした。
 すると、今まで吹いていなかった風がぼふっと強く吹き荒れ五人の体を宙へ舞い上がらせる。

「森っ!」

 植木はとっさに森の名前を呼び、手を彼女に向かって差し伸べる。
 森はぐっと歯を食いしばり差し出された手を強く掴んだ。
 そして、植木は森を自身の元へ引き寄せると風から守るように強く抱きしめ、他の仲間へ呼びかけようと植木が口を開こうとした瞬間、横風が五人を分断させた。
 どれぐらい風が二人の体を吹き飛ばしたのか吹き止むのを待つ二人には分からなかったがそのうちに風は止み、
森を抱きかかえた植木の体はむき出しになっている地面の上にたたきつけられた。

「いって〜」

 衝動に耐えた植木は呻く。
 その言葉に風が収まったと感じた森は植木の腕の中でほっと息を吐いたが、我に返ったのか真っ赤な顔をしてぐいぐい胸板を押しながら叫んだ。

「植木、離れなさいよっ」

 その言葉に腕の力を抜いた植木は哀れ、森の手により少なからず負傷した体を地面にたたきつけられた。

「いって〜」

 再度、衝撃に耐える声を出した植木は背中を摩りながら起き上がり、まだ赤みの残る顔をした森を見る。
 彼女はまるで怒りをこらえているような顔で言った。

「さっさと鈴子ちゃんたち探しに行きましょ!」

 そうして視線を植木から遠くへ向けると、なぜだか彼女は目を見開き固まった。

「ううううう植木!」

 植木の肩より向こう側を指差しながら、森は震える声で彼を呼ぶ。
 彼はそんな森の行動に首をかしげながら後ろを振り向く。
 途端、植木の目に映ったのは二足歩行で歩く、ゆうに五メートルはあるんじゃないかと思うような巨大な物体だった。
 手足らしきものと頭らしい場所以外つるりと陶器のように滑らかな凹凸は、まるで誰かが作ったかのようである。

「逃げるわよ、植木!」

「え?」

 植木がまともな返答を返すよりも先に、むんずと彼の手を掴んだ森は走り出した。
 そんな二人に気がついたのか巨大な物体は、彼らの後を追う。

「なんで、追いかけてくるのよ〜っ」

「森」

 一人慌てて息を切らしながら走る森に、つられて走っていた植木が何の感情も見せないまま呼びかけた。
 森はそれどころじゃないと言いたげに掴んでいる植木を見る。
 植木はいつの間に拾ったのか、小さな石を彼女が握っている手とは反対の左手に持っていた。
 そうして、以前使いこなしていた能力を発動させる。

「――ゴミを木に変える能力」

 石は巨大な大木となり、彼女が掴んでいる手を無理やり引き離すと両手に巨大な木を持ち巨大な物体の足らしき部分めがけてぶんっと振り回す。
 巨大な物体はその巨大な図体その通りに動きが遅く、植木が振り回した木は見事命中した。
 刹那、彼は自身の能力に付加されたもう一つの能力を発動させる。

「リバース」

 それは、回帰させることによって相手が発動させた能力を打ち消す能力。
 無論、この物体が能力で出来たものじゃなければ消えることもないのだが――、しかし巨大な物体は霧散した。

「どういうこと?」

 その光景を見ていた森は呆然と疑問を口にした。

「さぁ?」

 しかし、現象を分析する能力に長けている佐野や鈴子がいないので二人はなぜリバースで巨大な物体が消えたのか、そもそもなぜ巨大な物体は逃げる植木達を追ってきたのかも分からなかった。
 首を傾げつつも、とりあえずこの状況を打破するためには次元の穴を閉じなければいけないので、それを探すために再度二人はどこにいくかも分からない道を歩き出そうとするが――。
 事態は急に展開し始める。



      >>20100714 もっと植森感を出したいですな。



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