命令を受け呼応するように動き出した巨人達に対して、植木とパグは身を構え森は及び腰ながらも逃げるそぶりを見せず留まる。
「――行くぞ、植木」
「ああ!」
パグの言葉に呼応した植木は端的に返事し、二人同時に動いた。
「ゴミを木に変える能力! ついでにリバースっ」
植木は早々にリバースを発動させた。
というのも、先ほど植木と森に襲い掛かってきた陶器のような巨人はリバースで消滅したためである。勉強の才は失ったものの野生の勘とも言えるバトルセンスはこういった場面で活用されるようだ。
リバースの効力は"チコの体を乗っ取っているそれ"も理解しているようで、警戒するように顔を歪める。
どしん、と攻撃を仕掛けようと動く巨人よりも先に攻撃の手を打ったのは、やはり植木達だった。
「百鬼夜行」
パグがその手から突きの神器を繰り出す。
しかし巨人の一匹はその動きを予測していたようで、図体からは想像できない素早い動きで百鬼夜行を避けると右腕でそれを掴む。
だが、次の瞬間その巨人は消滅した。
百鬼夜行を足場にし巨人に近づいた植木の手によって。
パグは神の座を巡る争いで見せた植木のような巨大な神器を有しているわけではないのだが、天界力のコントロールに長けている彼は、腕に天界力を集め一時的に腕力をパワーアップさせていたのだった。
巨人を消滅させた植木は、百鬼夜行の上を走りその先にいる巨人たちを操っている彼女に近づこうとする。
植木が両腕に宿しているレベル2の能力――リバースは力を巡回させ元に戻す。"チコの体を乗っ取っているそれ"にリバースをかけることが出来れば、異物である"それ"からチコの体の主導権を剥奪できる確率が高いのだ。
ゆえに、パグは彼女に植木を近づけさせるために補助へと回る。
植木もどこまで理解しているかは定かではないが、戦闘スキルから本能的にレベル2を発動させるために即興の共闘に乗ったわけであった。
がしかし、"チコの体を乗っ取っているそれ"も植木の能力を理解しているのか、単純に自分で戦闘したくないだけなのか自身の前に巨人を並べる。
リバースで消えるとはいえ、行く手を阻まれ拳を振り下ろされるとリバースで瞬時に消していくのもままならない。
「くそっ、こいつらうざいなっ」
悪態をつく植木に対し、彼女は満足げに微笑む。
そうして、彼女は彼女で別なものを目指しまるで羽根でも生えているような軽やかな動きで宙を舞った。
「植木、巨人に構うなっ! あくまでチコを狙えっ」
叫んだパグは、彼女の狙いがなんなのかわかっているかのように電光石火を発動させ動いた。――森の元へ。
宙を舞い森の元へ近づいた彼女は、怯える森に対しにこりと微笑み手を翳した。
「森!」
植木の叫びと共に、手から光が生まれ真っ直ぐ森へ向かう。
彼女は目を見開いたまま、その光景を見ていたがその光が森に当たることはなかった。
パグの放った威風堂々により。
「あら、残念。弱そうな彼女から片付けようと思ったのに」
さもつまらなそうな口調で言う彼女に対し、パグは鋭い目つきで"それ"を睨んだ。
「攻撃力の高い神器は放てないわよね、パグ? だって、この体は貴方の妻であるチコなんだもの」
自身に手を当て微笑む彼女を見て、パグはぎりりと歯を噛み締めた。
しかし、何か決意するようにぐっと腹に力を込めたパグは彼女に向かって鉄をぶつける。
予想していなかった行動に、彼女はとっさにバリアみたいなものを張ったのか手を前に出し鉄の軌道をそらした。
「な、なんてことを! やっぱり、貴方は自分の妻なんてどうでもいい人なんじゃないっ」
その言葉に、パグはふっと口元を緩めた。
「天界人の回復力と頑丈さは並じゃない。それに、チコなら許してくれるさ。だって、こいつらは――」
最後まで言葉を述べず、彼は足に天界力を集中させるとジャンプした。
その高さは宙を飛んでいた彼女に届くもので、同じ視線までたどり着いたパグは彼女の手を掴むと引き摺り下ろすため、手に天界力を集中させぐっと下方向へ力を乗せる。
引っ張られ、自分の体が落ちていくことに焦った"それ"はとっさに地面へ自分の力を集中させた。
その時、森の目のピントが一点にそろい、大きく目を見開く。
"それ"が地面にたたきつけられることを防いだと同時に、森が走り出した。
「森っ、なにしてんだっ!」
巨人に対しリバースをぶつけられず苦戦している植木は、彼女が戦いの中へ走ってくる様を見つけて叫ぶ。
森はぐっと口を噛み締め、彼女を倒そうと襲い掛かる巨人達の手を逃れながらそれでも植木に言った。
「見つけたのよっ」
何をだ、と植木は聞き返そうとするもののそれを遮るように巨人の左手が植木に向かって放たれる。
植木は逆にその手に触れリバースを発動させた。
また一体巨人は消滅する。
その様子にぎりっと歯を噛み締めた"チコの体を乗っ取ったもの"は、醜い表情で指先を動かした。
「もう少し、巨人を増やしたほうがいいわね」
ぼこぼこ、と土から姿を形成した巨人達は森の前に立ち塞がり、その小さな体を潰そうと拳を振るう。
植木もパグも反応しきれず、森は目を瞑るが。
「ビーズを爆弾に変える能力」
軽やかな女性の声が響き、爆発音と共に巨大な図体はその原料である土の上に倒れた。
「まぁ、あいちゃんをいじめるものは潰さないといけないですわね」
特別設計の手袋をはめた鈴子は森の前に立ち、にこりと微笑んだ。
「鈴子ちゃんっ」
「鈴子だけやないでぇ」
声が聞こえそちらを向くと、しかしなにもない。
同じく反応した巨人が見たものは佐野の似顔絵であった。
「手ぬぐいを鉄に変える能力」
別方向から、同じイントネーションの声が響き彼の得意技である鉄槍が巨人を倒す。
今度こそ森が声のした方向を見ると、そこには仁王立ちする佐野とびくびくと怯え佐野の後ろに隠れるヒデヨシがいた。
「ぶぶぶぶぶっちゃけ状況がよく分からないんだが、敵はあの女と巨人でいいのかっ?」
怯えながらも、敵を確認する言葉を発したヒデヨシに対し、植木は返事した。
「ああ!」
そう、簡潔な肯定を。
突如戦闘に乱入した人物達に対し、彼女ははぁと小さくため息をついた。
「一度に何人も相手するのが面倒だからわざわざ引き離したのに。……まぁ、同じことだけどね」
彼女はふわりと微笑み、指を振るうと巨人を生み出す。
そうして、目の前にいる敵であるパグに向かってとんと足を踏み出したと同時に巨人達は一斉に植木達を襲い始めた。
「あいちゃん、私の後ろへ!」
「待って、鈴子ちゃんっ。それよりも私のフォローをして!」
ビーズを撃ち巨人へ威嚇しながら森への指示を出す鈴子に対し、森は何か考えがあるような力強い目で彼女を見た。
鈴子はじっと森の目を見たが、にこりと彼女らしい上品な笑顔を浮かべる。
「あいちゃんのことですから、何か考えがあるのですね。わかりました、私はあいちゃんの道を塞ぐ不逞な輩を排除しますわ」
「ありがとう、鈴子ちゃん!」
ぱぁっと顔を明るくし、元気よく礼を述べた森に対し鈴子は優しく微笑んだ。
では行きましょう、と鈴子が述べると森はこくりと頷き一直線に駆け出す。
それに対し、機械的に反応した巨人は森を潰そうとその大きな図体を動かすが、鈴子の平手打ちにより撃沈させられる。
巨人は襲い掛かってくるが、森は怯え前かがみになりながらも一直線にある場所を目指した。
そして、森がその場所を目指す意味を一番最初に気がついたのは"チコの体を乗っ取ったそれ"だった。
"それ"はそこで初めて焦ったように巨人達へ命令を下す。
「あの子をとめなさいっ!」
巨人達は命令に動かされ一斉に森を見る。
そうして、無機質なそれらは森の行く手を阻むように手を振り下した。
「ビーズキャノン!」
「鉄槍!」
「ゴミを木に変える能力!」
三人の声が同時に響き、森の行く手を遮ろうと振り下ろす巨人達に各々の能力で生まれた爆弾が鉄の槍が、巨木が当たる。
その瞬間、森の目指していたそこが彼女の目の前に開けた。――次元の穴が。
森は犬丸から貰っていた時限の穴を修復するための粉が入った袋をスカートのポケットから取り出すと、それを振りかけた。
ばんっと次元の穴に当たったその粉はしゅうっとまるで物が溶ける様を逆再生で見るような展開を見せ、ものの数分もしないうちに穴は閉じられる。
「これでどーよっ」
森がVサインを見せると同時にがくりとまるで地震が来たかのように地面が揺れる。
苦々しく顔を歪めた"チコの体を乗っ取ったそれ"は、ぐっと地面を踏みしめ対峙していたパグを見ながらチコの体をかき抱いた。
「せめて、せめて彼女だけでも道連れに!」
「させねぇっ」
叫ぶと同時に、パグは至近距離から鉄を放つ。
ぐらぐらと揺れる地面の中、"それ"は揺れなどないような動きで鉄を弾いた。
と、同時にパグは別の神器を発動させる。
「波花!」
鞭のようにしなやかな神器は彼女を大きく外し、後ろへ飛んでいく。
しかし、波花の特徴をチコの知識から知っていたのだろう、警戒を解くことなくパグを見ていた。
波花はその特徴どおり何かを支点として、ぐにゃりと曲がりスピードをつけ彼女へ当たろうとする。
が、彼女はその身体の機能である結界で波花を防御した――はずだった。
波花の先端に植木がくっついてこなければ。
「リバースっ!」
指先に巻きついた木がゴミを木にする能力のレベル2を発動させ、巡回ゆえに元へ戻るその能力は天界人であるチコの体にある天界力を正常な流れに戻し、天界力と次元の空気が似ていたからこそ歪んだその隙にチコの体を乗っ取った"それ"は出て行かざる得なかった。
"それ"は歪んで生まれた次元そのものであり、天界力と似た次元の空気であった"それ"は異物なのだから。
一瞬にして主導権を取り戻したチコはぐらりと倒れそうになるが、対峙していたパグがその体をとっさに抱きかかえた。
『おのれ……おのれぇえええっ!』
崩れ落ちる空間全体から声が響く。
恨めしく叫ぶその声は、どろりと濁って醜かった。
『渡せ、パグ! その娘の体を渡せぇええ!』
その言葉に、パグはふんっと鼻で笑った。
「お前なんぞにチコを渡すつもりはない。大人しく閉鎖された空間に独りで居ればいい」
冷えた口調でそう言ったパグは、視線を子供達へ戻し彼らへ呼びかけた。
呼びかけに、震える大地の上を歩き五人はパグの元へ寄る。
「なんですの、オジサマ? なにかこの状態から脱出する方法でも」
「ああ。それだ。ここ一年ほど紛争解決係として異空間の穴を埋めてきたからな。ちゃんと、対応策がある」
そう言ったパグは皆手を繋ぐように、と指示しチコを荷物をもつように肩で抱くと六人全員が繋がったのを確認する。するとパグは空いていた右手を宙にかざした。
ぶおん、と空気が振動する音と共にそこから青い世界が見える。
それは、人間界と天界の間の青。
パグの手からまるで掃除機でゴミを吸い取るかのように植木達の世界へ強烈な力で引き寄せ、吸い込む。
吸い込まれる刹那、彼らは異空間の断末魔を聞いた。
>>20100911
同じような説明が二つ入ってる。orz
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