追想




 また抹茶パフェを掬おうとあんこからぐいっとスプーンを入れる。
 とがん、ばたばたばたとうるさい音が店内に鳴り響いて、止まったかと思い上を向くと真撰組の服を着た見たことのない男がいた。
 私の記憶にないと言うことは恐らく下っ端のほうなのだろう。
 その表情には焦りのようなものが見えて、ちらりと沖田のほうを見ると不機嫌そうに顔を歪めていた。

「どうしたんでィ」

「沖田隊長、大変です!皆木が……ッ」

 沖田の顔にさっと緊張と焦りの色がともる。
 私もぐっと傘を握り締めた。次にすべき行動に備えて。

「どこでさァ」

「かぶき町3丁目、クラブ千年の横にある路地裏です!」

「此処の会計払っといてくれィ」

 がたっと椅子を蹴るように立ち上がった沖田は店内の迷惑など顧みず足音を立てて走る。
 私もそれについていくように走った。
 走っている間は二人とも無口だった。
 空はとても青く、少し走るぐらいならば私も沖田も喋っても平気なのだがそんなことなど許さない状況であり雰囲気であった。
 斜め横を走る沖田の表情を覗き込むと、見たことがないくらいの真剣な表情が見えた。今までのどこか人を舐めきったような表情やだらけた態度が全て作り物だったのではないのかと思えるぐらいには。
 甘味処からクラブ千年は近かった。
 路地裏に入ると、まだ誰も駆けつけていないようでがくりと肩を落とした真撰組の隊服を着ている男が見えた。
 沖田はようやく走るのを止めるとふぅと息を吐いて、男の肩を叩いた。

「なにがあったんでィ」

 沖田は安心させるように柔らかく微笑んだ。
 その表情に男は何を思ったのか、空ろな目の焦点をようやく合わせると自身に言い聞かせるように報告するように声を震わせながら話した。

「お、俺と皆木は巡回のために繁華街を歩いていたんです。
 すると、クラブ勤めをしていそうな少し化粧の濃い女が一人で歩いていたんです。一人では危ないから、と注意してクラブまで送ろうと思って俺達は女の後を追いかけました。
 けれど、少し離れていたせいもあって中々追いつけなかったんです。すると、女はこの路地裏に入っていったので俺達も何の疑いもなく入っていきました。
 女はいつの間にか立ち止まって俺達を見ているので、皆木が声をかけようとしたんです。そうしたら……ッ!」

 男は何かに耐えるように息をつめた。
 涙を流しそうであるのに、沖田の前だからか気丈に彼を見て。

「女は瞬時に化け物になって、皆木を頭から……!」

 決定的な言葉が吐き出された瞬間、沖田は分かるほど極端に顔を歪めた。
 それは悲しみなのか怒りなのか私には分からなかったけれど。
 自身を落ち着かせるためか、ふぅと息を吐いた沖田は私を見た。恐らく私の追っているえいりあんなのか確認するためだろう。
 ガラスのような鳶色の瞳の中に存在する悲しみや怒りを見つけた私は、沖田がどれだけ真撰組という場所を其処に存在する人たちを愛していたのか、今更ながら実感したような気がした。
 だからこそ敢えて私は表情を顔に出さないように努めた。

「私が追っているえいりあんネ。喰ったものに成りすますため、成り代わられたと疑われそうな血痕を出さないように全身を包み込むように食べるのがあいつらの特徴ヨ。ま、今回はバレているだろうからその皆木って奴には成り代わらないけどな」

 肩をすくめた私に沖田は、思いを張り巡らせるように視線を少しだけさ迷わせて、いつも通りどこか人を舐めきった伸びた口調で言葉を発した。

「なら、救いは末端までアンタの正体が行き届いていないってことかィ」

「だろうな。アイツにとっての天敵は私だろうから」

 もっとも、私がこの星に来ていることなど既にばれていてもおかしくないだろうが。
 私は毎日のように江戸中を歩き回っていたし、えいりあんも私の姿を見たことがあるだろうから。
 と、恐らく沖田に連絡した真撰組の隊員が呼んだのだろうか、サイレンの音が響き渡りだんだん大きくなっていく。

「どうやら到着したようだなァ」

 沖田は路地入り口に視線をやった。
 それにつられるように私も入り口のほうに視線をやると、近藤と土方が車から降りてこちらのほうに向かってくるのが見えた。

「総悟、状況はッ?」

「……全て終わった後でァ。後のことはまかせやす」

 問う近藤の横をすり抜け、沖田はさっさと路地裏を抜ける。
 私も状況が理解できたのでその場は近藤と土方に任せることにして沖田の後を追った。
 太陽が照らし出す光の中、ひよこ色の髪はふわふわと遊ばれるように揺らめく。なのに、下を向いたままの沖田はまるで雨が降りそうな厚い雲が空を覆いつくしたような鈍色の空の下にいるようだった。

「……オマエも人の情ってモノが存在していたんだな」

 当たり前のことを憎まれ口を叩くように言った。
 あまりにも沖田が沖田らしくなかったせいで。
 確かに人を舐めきった喧嘩っ早い沖田は好きでも嫌いでもなかったが、それでも此処まで落ち込んでいるとどうにか前の状態に戻って欲しいと思うのが人の情であろう。多分。
 私の心情を察したのか沖田はふっと笑うと私を見た。
 それでも、瞳の奥の悲しみの色がが消えることはなく。

「俺ァ、真撰組が好きだからねィ。それに奴は俺の直属の部下だったんでさァ。悲しみに差なんてねェがやっぱり手にかけてやった分つれェもんだ」

 それは常に人を陥れることとからかう事しか考えていないような沖田の口調とは思えないぐらい、酷く沈んでいた。
 思わずぐっと唇をかみ締めていた。

「……不甲斐ない私を恨むか?」

 漏れた言葉は、未熟な自分を叱って欲しかったのか、それとも沖田の怒りを受け止めるつもりで発したのか自分でもよく分からなかった。
 ただ分かったのは、夜兎という血に依存して自身の力を奢っていた自分の傲慢さだけだ。
 そんな私に沖田は何を思ったのか、ふっと息を吐くように笑って私の目を見た。

「無意味でさァ。確かに全滅しきれなかったアンタの腕の甘さもあるだろうが、この星に着てから奴を逃し続けたのは俺達の責任だ。アンタに全てを押し付けたところでそれはただの責任転嫁だろィ」

 吐き捨てるように言った沖田は直ぐに私から目をそらして先へと歩いた。
 感情を昇華するために放っておいて欲しいと言われているような気がして、今度は追いかけなかった。



      >>20060819 便宜上名前だけオリキャラ。名前ないと面倒だ。



back next top
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送