追想
被害は拡大するばかりだ。
朝礼ではえいりあんによってもたされたらしき被害件数を述べる。
その数があればあるほど落ち込み、またこれ以上の被害を出さぬようにと一念発起する。
特に真撰組にとって大きかったのは仲間の犠牲だろう。
武装組織である真撰組は荒事を解決できるよう剣術の訓練をみっちりしている。それにも拘らず、最初に真撰組一番隊の隊員皆木が殺害されてから一週間たった今、真撰組内でえいりあんの被害にあった人数は八人を突破した。
そして、そのなかでも一番の被害にあっているのは――沖田総悟率いる一番隊。四人と半数が一番隊に所属している人間だった。
しかし、廊下ですれ違うたび街ですれ違うたび憎まれ口で喧嘩を吹っかけ、時には互いの得手での実力行使になるという行動パターンは何一つ変わることがなかった。
それは強がりなのか本当に強いのか私に判別することは出来なかったけれど。
朝礼が終わり、私は既に恒例となっている江戸巡回へと繰り出した。
雨を落としそうな曇りは日に弱い夜兎族である私にとっては動きやすい天気であるが、私自身はこの天気が好きではなかった。
泣き出しそうな天気は幼い頃遊び相手もいなくて一人ぼっちで外にいた、雨ばかり降る星を思い出すから。
それよりも私は、お日様がさんさんと照りつけるからっとはれた天気のほうが好きだった。
私にとっては天敵なのだけれども、思わずわくわくしてしまうから。
「あ、チャイナさんこんにちは」
声をかけられてそちらを見るとジミーこと真撰組監察方山崎退だった。
「おう、ジミー。調子はどうアル?」
「ジミーって止めてくれません? 地味だからジミーって安直過ぎますから」
「うるさいネ、ジミー。聞かれたことにはさっさと答えるヨロシ」
山崎は私が呼んでいるあだ名を改めさせることが出来ないと思ったのか、疲れたようにため息を吐いた。
「駄目ですね。手のひらに星型なんて人これっぽっちも見つかりませんよ」
「……もっときりきり働けやァッ! 国民の税金使ってなにさらしてるヨ!」
傘を折りたたむとがしっと頭を叩いてやった。
山崎は地面とめり込むように頭からの正面衝突を果たしている。うん、見事なストレス発散法だ。
「うう……理不尽ですよォ、チャイナさん。土方さんのマヨネーズ狂故にパシリにされているぐらい理不尽ですよォ」
「煩いネ。元ストーカーとマヨラーと腹黒がそろえば真撰組という団体が理不尽にならないことがおかしいアルよ」
まったく無意味に個性ばかり発揮されている団体である。
大体あれで人望があるというゴリラが一番理解できない。人望というものはもっと尊敬できる人につけるべきである。
「チャイナさん、有難うございます」
そんなことを考えていると、突然感謝されて私は思わず山崎を見ていた。
山崎は深々と礼をして、顔を上げると私ににっこりと笑った。
その表情が理解できず、私の眉間に皺がよって訝しげな表情を作り上げているのが自分でも分かった。
「気持ち悪いネ。オマエに感謝される謂れがどこにもないアル」
「いいえ。沖田さんが普通にしていられるのは貴方のおかげですから」
沖田、という言葉にピクリと肩が動いた。
眉間の皺は更に深くなる。
私には山崎が言っている意味がまったく理解できなかったから。
「……意味わかんねーよ。私がいてもいなくてもアイツは普通アル」
「そんなことありませんよ。あの人は近藤さんや土方さんと違って人を舐めきってだらけきってどうでもいいというスタンスを保っている人ですけれど、真撰組を大切に思う気持ちは二人と大差ありません」
それはそうだろうな、と山崎の言葉に納得した。
奴が真撰組を大切に思っているのは私がこの星で暮らしていたときから知っていた。奴にとっての真撰組は、私にとっての万事屋のように大切な場所であるから。
だから、私はアイツが嫌いじゃあない。激しくむかつきはするものの。
「だから、真撰組の仲間が……特に自分の部下が殺されたことに人一倍怒りや悲しみを持っています。いつもなら、土方さんばりに瞳孔開ききって血なまこでえいりあんを探して二人の制止も聞かずに虐殺のひとつでもしていたでしょう」
「ぶっそうな奴だな」
「それが沖田さんですから」
ジミーはなんてことのない様に言い切った。
きっと、彼は沖田のそういった場面を何度も見たのだろう。仲間が殺されたことに対して怒り狂い、笑いながら最大限の苦しみを与えて殺していくさまを。
「けれど、今回は違いました。チャイナさん、貴方と喧嘩していることで沖田さんは自身の精神を保っているように見えます。沖田さんにとって最大限の力を出せる貴方との喧嘩は精神安定剤のようなものなのでしょう。あんなに安定した沖田さんを見たのは、貴方がまだこの星にいた頃以来でした」
私は柔らかく笑う山崎に対して反撃の言葉を出せないでいた。
「だから、有難うございます。俺は危なっかしい沖田さんを見たくなどありませんから」
けれど、山崎の言葉を聞いたって私が感謝されるべきところがよく分からなかった。
確かに沖田の精神安定に私は一役買っているようだけれど、精神を安定させようとしているのは沖田の意思だ。それに使われるのはとても気に喰わないが、あくまで私は沖田の意志の手助けを私の知らぬところでしていただけである。
だから、山崎に感謝されるようなところは何一つない。
と、言い返そうとしたとき真撰組の制服を着た男が山崎を呼んでいる声が聞こえて、慌てたように山崎は私に言った。
「それだけですからッ!では、チャイナさん失礼しますッ」
言うだけ言ってさっさと行ってしまった山崎の後姿を私は見届けることなく歩き出した。
本当に山崎は沖田のことが好きなんだなと思い、真撰組隊員の絆の深さに笑みを浮かべながら。
>>20060902
こんなこと書いてますが本来の沖田は精神強いと思いますよ。
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