追想




 くるくると回る真っ赤な傘は日の光を変色させる。
 いつも通り江戸を巡回ついでに散歩していた私は傘をくるくる回しながら気配を探る。
 えいりあん独特の気配を、そして殺気を。
 と、江戸界隈を歩いていたとき突然膨れ上がった殺気に私は駆け出していた。
 その殺気は確かに追っていたものだったから。
 大通りから殺気に促されるまま路地裏に入る。
 目を凝らさなければよく見えない湿っぽいその場所に、人はいた。
 真っ黒な服は風景と同化していたが、確かに真撰組の隊服を着ていた。……そうして、その人の近くには多少の血痕が。
 私は咄嗟に視線を上げて路地裏の出口を見た。
 見えたのは猫らしき長い尻尾だけだった。

「喰われたかッ! オマエ、真撰組に連絡しろッ」

「ッ……!」

 私の言葉にようやく反応した男は懐から携帯電話を取り出してどこかにかけている。
 その様子を眺めながら付着している少しの血痕を見た。私は鑑識ではないのでそれがどのような血痕なのか判別することは出来なかったが、喰われた(恐らく)真撰組隊員であるだろう男に目を瞑り軽く黙祷をささげた。
 そして、電話を掛けていた男に視線を戻す。
 丁度掛け終わったところらしく電話を懐に仕舞っていた。

「落ち着いたか?」

「あ、ああ……」

 私の問いかけにどこか呆然としながらも男はこくりと頷いた。
 そうしながら息を吐いて、どこか戸惑うように私を見ていたがそれよりも聞きたいことのほうが彼の中で上回ったのだろう。口を開いた。

「アンタは」

 しかし、その問いかけが最後まで紡がれることはなかった。

「黒金! ――と、チャイナ?」

 沖田の声に遮られたからだ。
 どうやら近くを巡回していたらしい。男が電話を掛けた相手が沖田だとしたら直ぐ近くにいて来たとしても別におかしくはないので。寧ろ、他の条件であったほうがこんなにも早く来る理由としてはおかしい。

「遅かったな、腹黒星人。オマエの部下か?」

「ああ。真撰組内では俺の部下が食われる割合が異様に高いもんでねィ」

 はっと自嘲するように笑った沖田はがんっと壁に手を叩きつけた。
 商売道具である手を。
 その行動に思わず私は眉を顰めていた。

「オマエ馬鹿か? 奴をやる為の手を傷つけてどうするアルよ。そんなんじゃあ、私はおろか奴と戦っても負けるアル」

 些細な苛立ちごときで相手を倒す機会を逃す奴はただのバカだ。
 だから冷ややかな目で沖田を見ると、沖田ははっとしたように目を見開いて壁にぶつけたままになっていた手を下ろした。

「そうだねィ。アンタをやらなきゃいけねぇってのに、俺って奴はえいりあんなんてちっちぇ奴に苛立ってしまったぜィ」

 そうして肩を竦めた沖田に、私はふんと笑ってやった。

「オマエもまだまだだな」

「ま、アンタを殺る力は残ってるがねィ」

 いつもの通り憎まれ口を叩く沖田の目には光をもつ鳶色が映っていた。
 それでこそ、沖田なのだろう。
 悲しむわけでもなく怒るわけでもなく飄々としているのが。

「そこまで憎まれ口叩ければ十分ヨ。現場検証は真撰組に任せるアル。私は町を回ってくるネ」

「確かに面倒なことは土方さんに任せるのが一番でィ」

 にやりと土方に全てを押し付ける発言をした沖田はやはりいつもの沖田だったので、私は思わず顔を緩めていた。
 奴には怒りも悲しみも似合わないから。



      >>20060915 新宿表記したかったのだけれど、銀魂内でどういう表記されているのか不明。



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