十二時に放送されるテレビを俺はのんびりと眺めていた。
 そこに映し出される映像は、繰り返される悲惨な事件や外交問題や時には芸能関係の話題だったりする。
 流行や世相にはさして興味がないのだが、ふとアナウンサーが話している言葉と映像に知っている人が浮き出て、ぼんやり見ていたそれに意識を向けた。

「続いてのニュースは――、佐村井泥派亜星と魅武星において繰り広げられていた紛争をえいりあんばすたー神楽さんが見事解決されたとのことです」

 星間紛争について詳しい国際ジャーナリスト村正氏にスタジオに来てもらっています、とアナウンサーが続ける。
 反応したのは、えいりあんばすたー神楽という言葉だった。
 刹那、脳裏に浮かんだのは不遜に微笑む桜色の髪を持つ成熟する一歩手前、ともいえる美しい女性の姿だった。

「あの連星は以前魅武星が佐村井泥派亜星を支配下においていたのですが、佐村井泥派亜星の指導者虚有が立ち上がり激しい戦いが起き、その戦争は様々な思惑を持つ他星に左右され泥沼化していたのですね」

「そこに、えいりあんばすたー神楽さんが来られた、と」

「ええ。彼女の父はよく星間に発生する戦争をその圧倒的な力で解決していたのですが、神楽さんも父上に負けず劣らずの力を今回全星に見せ付けたわけですね」

 その言葉に以前一度だけ見たことのあった彼女の父親、星海坊主の姿を思い出していた。頭は完全に荒地であったが、その戦闘能力においては戦闘向けに作られていない民族に生まれた俺にとっては羨ましいぐらいに圧倒的だった。
 彼女はまだその域まで至っていないと思えたが――、それでも一般市民から見れば彼女の力は圧倒的なのかもしれない。

「以前政府の要請にて来日した際にはえいりあんばすたーとは思えないぐらい、美しい姿を見せた神楽さん」

 その言葉と共に、ばっとテレビは過去の映像であろうターミナルにて厳重なる警備を受けながらスマートに歩く神楽の姿が映る。
 それとともにファンなのかうちわに神楽! と大きく書かれたものを振っている野郎やらビデオカメラで懸命に神楽を映そうとする野郎やらが目に入る。といっても、彼女見たさに集まった男女の割合は丁度半々でどちらにも人気が高いことが分かったけれど。

「美しいのに飾らない言葉遣いや性格が、同性にもファンを作る要因になっているのですね」

 アナウンサーが発した言葉に俺ははっと鼻で笑っていた。
 あれにとっては、男も女も関係ないだけなのだろう。ただ、そこに居るものを何の偏見もなしに同等として扱うだけで。
 そこには媚びや色気などというものはまったく見受けられない。
 大体にして、一般の男にあのじゃじゃ馬を扱いきれるとは到底思えなかったが。
 それでも、美しい姿を披露している神楽に対し眉を顰めてしまうのは――恋を自覚したばかりの可愛らしい男心に違いない。
 そこまで考えてぶっと笑うと、ふすまが勢いよく開いた。
 無論、そんなことする輩などただ一人しか思い浮かばない。

「沖田ァァァアアアア! テメェ、仕事しろやァァ!」

「俺を呼びに来る暇があるんでしたら仕事したほうがいいんじゃないですかね、土方さん?」

「テメェは! 二十過ぎてんだからいい加減大人しくなりやがれッ!」

「無理でさァ。俺はいつまでもナイフのような少年なんでね」

 そんな俺の返しにいつも先に刀を抜くのは土方さんで。
 そういうアンタこそ、三十手前なんだからいい加減直ぐに刀抜く癖やめたほうがいいと思いつつ、適当にはぐらかすためテレビをつけたまま逃げた。
 神楽の話題は既に終わっている。
 ――それは彼女に対する仄かな感情に目覚めた後も変わらない、俺の日常だった。




             思想




 空色の着物に紺色の袴を履いたこの姿というものは無論、真撰組の制服ではなく。
 けれども、武装警察の特権とばかりに愛刀を差し、騒がしい江戸の町を歩く。
 今日は休日であり、そんな日は大抵家でごろごろごろとエンドレスでだらけるか、もしくは人間観察という名の暇つぶしで街中を歩くのであったが、今日は後者と見せかけて実際はどちらでもなかった。
 というのも、一つ不可解な事件を見つけてしまったからだ。
 俺は決して正義感の溢れる男ではないと自負していたが、職業柄か厄介ごとが無性に好きなのか――恐らくこれが一番なのだろうが近藤さんが見つけ作り上げた真撰組と言う場所が好きな所為か、不可解で普通の警察だったら到底首をつっこまないような、近藤さんや土方さんだったのなら制約が多すぎて動けないような事件に首をつっこむのが半ば性分になっていた。

「いい天気だねィ」

 空を眺め、スモッグで鮮やかな青とはいえない空に呟く。
 例えその青が清浄の青と言えなくとも、それはこの土地に来たときから俺が知る晴れなのだから。

「こんな日は血なまぐさい事件なんてないのが一番だけどなァ」

 しかし、俺の問いかける声は聞こえず腰に差した刀がかちゃかちゃと否定の音を漏らした。

 大通りから一本外れた、人気の少ない裏道を行く。
 城下町であるここはターミナルという多種族を召喚する施設もある所為か、犯罪率が異様に高く一般庶民が路地裏に間違って入ろうものなら最低追いはぎにあう。下手したら輪姦やヤのつく奴らに捕まって全身切り刻まれ臓器売買など悪いことならばエンドレスで浮かぶ。
 まぁ、実際はそれほどひどいことはない。
 ヤのつく奴らは大抵自分たちのネットワークを有しており、目を付けた人間を右から左へ売りさばく術を十分有しているからだ。原材料を探すためにわざわざ路地裏に探すよりも地獄を間近で見た人間を売りさばくほうが、遥かに楽なのだろう。
 せいぜい路地裏にたむろするのは暴走族か青臭いガキってところなんだろうが、大きなネットワークを有していない粋がったガキに一般市民が怯えるような殺傷事件は無論、臓器売買なんて出来るわけがない。
 つまり、一般市民が怯えなければいけないのは理不尽な暴力か金銭的な揺さぶりってところなんだろう、所詮。
 というわけで、ぎらりとたむろしているガキに睨まれたりするが適当な暴力で追い払いつつ、目的の場所へと向かう。
 その目指す場所というのは、真撰組において情報を扱う密偵部――監察方という役職が手に入れた攘夷浪士が頻繁に通るといわれる場所だった。
 攘夷浪士といっても大から小まで居る。
 今回、手に入れた情報に記載されていた攘夷浪士というのは桂小太郎や高杉晋助が率いるような大きなものではなく、無名なものが天辺に居るような比較的小さなものだった。
 しかし、それを捕まえにきたわけではない。
 捕まえるだけならば、業務中で十分事足りるからだ。
 その場所へ近づくたびに不必要な音を立てずそろりそろりと動く。
 そんなものは性分でないが、必要上から技術を取得していた。どうも殺しに関する技術の習得は天才的に良いらしく、この技術も単体で見るならば近藤さんや土方さんよりも上手い。
 ――やっぱり、中間管理職よりも下っ端のほうが向いてらァ。
 心の中でそんなことを吐き出しながら、どんな音も逃さぬようにと集中させていた耳には人の動く様が聞こえることはなく、気配すらも感じない。
 今日は、はずれだったのだろうか。
 溜息を吐き、一気に警戒を解除する。

「――ん?」

 ふと、匂いを感じた。
 それは生ぬるい戦場に居るとき身近に感じていた不可解な――。
 咄嗟に走り出す。
 表に続く丁度折り返し地点という位置に達したとき、それはあった。
 既に、物体になってしまった"人"だったものが。

「ヤなもんを見ちまったなァ」

 吐き出された声音は一般人からすれば至って淡白なものに聞こえただろうが、斬ったはったが多い職業についていれば死体を見るのは勿論自ら死体を作ることも多く、いちいち一体一体戦慄でもしていたのならばキリがない。
 こんな職業についていれば神経は図太くなるか麻痺するか狂ってしまうか、そんな微妙な選択のどれかしかない。ろくなもんじゃないな。
 死体は仰向けに倒れており、周囲一m程度血によって囲まれている。踏むと面倒なので血を踏まぬようにぎりぎりで立つと、死体が肩から腹にかけてざっくり一刀両断した様がよく分かる。切れ味の良さから恐らく日本刀だろう。
 刀廃止により、役職上の帯刀を除けば普通の一般市民はいいところ木刀ぐらいしか持っていないのだが、闇には闇のルートがあり日本刀を得る手段などどこにでもある。
 目の前の死体もその手には刀があった。――俺が探していた集団の中にいた攘夷浪士だったのである。切られたことによる痛みにであろうか見るに耐えない表情になっていたが、うっすらと書類上で見たことのある顔であった。
 本当はもっと手に触ったりして死体の状況を見たかったのだが、ここに居たことを土方さんにばれると煩いのでさっさと去ることにする。善良な市民はこんな場所に来ないだろうが、ここに死体があっちゃあ面倒な奴らが警察に通報するだろう、と電話すらもせずに。



      >>20070623 久しぶりの沖楽更新開始。



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