宇宙船に乗っていた。
 というのもひどく簡単な話で、えいりあんばすたーとして邪ッ苦内不星にてえいりあん狩りを行なった後、同じくえいりあんばすたーとなった娘と合流し久しぶりの休暇を過ごすために、娘と待ち合わせした星に向かっているからである。
 宇宙の旅はあまり快適ではない。
 感覚としては地球で地べたを走る新幹線に似ているだろうか。
 目的地に向かうため、途中で別な新幹線と連結させるように宇宙船同士も目的地が一緒の場合他の星から来た宇宙船と連結させる。
 その理由は簡単で、宇宙船を着陸させる場所が限られているからだ。
 場所が限られているため、より多くの観光客を運搬したい宇宙船会社としては連結させ一台にし着陸数を少なくすることにより多くの人を運ぶことが出来る。
 というわけで、途中で地球から来た宇宙船と連結したこの宇宙船は着実に娘と待ち合わせをした星へ向かっていたのだが――。
 がごん、と大きな音がし機体が揺れる。
 不可抗力で受けた振動に歯を食いしばり耐えていると、耳に放送が入ってきた。

『乗客の皆様! この宇宙船は流星群と衝突し運行不能となっておりますッ。近くの星に不時着の体制に入っておりますので衝撃に耐えてください!』

 放送の入った直後、更に大きな揺れが来る。
 それに耐えながらも状況を見守るため、目を見開き続けた。




             遭難 一日目




 振動がやむ。
 辺りを見渡すと、ぼろぼろになった機内が目に入り窓の外を見ると太陽の光が目を射した。
 夜兎である俺にはひどく明るい。
 それでも、この船内に居るのは得策ではないだろう。他の乗客もそう思ったのか皆一様に外を目指す。
 俺も、手に携えていた愛用の傘を持ち船外へ出た。
 比較的後に出たのか、外には人が群がっている。
 俺が出てから数人が出てくると全員外に出たのか、この宇宙船の船長からの話が始まった。
 曰く、不時着したのは空港がある星だったのだが、不毛の土地であるがため中継地として利用されている星であること。そして、不時着地点が砂漠のど真ん中で空港から遠いため、避難信号を発信して待つしかないこと。
 皆で砂漠を強行突破するという案も出されたが、砂漠であるがゆえに温暖の差が激しいことと不毛の土地で生きるえいりあんがひどく凶暴で遭遇した場合一般人では太刀打ちできないため、体力を温存し今ある水と食料で耐え忍んだほうが生存率が上がるという説明に乗客は納得されていた。
 が、待っているのは性に合わない。

「俺はいくぜ」

 声を発し、前へ出た。
 すると乗客たちはざわざわと騒ぐ。

「お客さん、命を捨てることになりますよ!」

「こちとら困難は慣れっこなんだよ。えいりあんの群れ相手に一人で戦ったこともあるし、水も食料もろくに手の入らない状況下で耐え忍んだことも数え切れないほどあるんでな。大体なァ、可愛い娘を待たせられねェ!」

 殺気を膨らませ、船長を怒鳴りつけると彼は俺の殺気に怖気づいたのかびくりと体を震わせ押し黙った。
 つられるように乗客たちも静かになる。
 だが、それを破ったのはいたってのんきな声だった。

「それ、俺もついてくぜィ」

 振り向くと、俺と同じように人の波を掻き分け男が現れた。
 地球の江戸で着られているような空色の着物に紺色の袴を吐いたその男は、腰に刀を差している。
 顔は優男。整っており好青年だと若い女性からちやほや言われそうである。そういった点においては俺の馬鹿息子に似ているかもしれない。裏の顔があるかどうかは別として。
 それよりも、印象的だったのは太陽の光に照らされ煌く黄色の髪、だろうか。
 太陽を見れない夜兎にとって、その色は憧れに近いものだ。まぁ、そんなことを言って許されるのはうちの娘ぐらいなもんだろうが。
 なぜか、この男を見たことがあるような気がした。

「あぶねーぞ」

 一言忠告すると、男はすぅっと目を細めた。
 それはまるで、男が腰に差している刀のように鋭い殺気。

「アンタの足手まといにはなりませんぜィ」

 その言葉に、俺はにぃっと笑みを浮かべた。
 すると、乗客の中から声が上がる。

「あ、あいつは星海坊主じゃねぇか!」

 どうやら、俺の正体がばれたようだった。
 自慢ではないが、俺の名はえいりあんばすたーの中でも一・二を争うほどには有名である。夜兎という種族の性質はもちろんのこと、結構腕っ節も立つので理性がなかったりその星の国家的に不適格と見なされたえいりあんを駆り続けていたところ、なんだか最強の掃除人的な呼び名をもらっていた。
 しかも、俺は人前に顔を晒すことが苦痛ではなかったため(むしろ愉快だ。積極的に前へ出ることはないが)、そこそこに文明が進んでいたり俺の手を借りたことのある星の出身者ならば、俺の顔ぐらい知っていてもおかしくはない。
 その言葉に他の乗客が反応する。
 星海坊主について行ったほうが安全なのではないか。こんなところで来るかわからない救援を待っているだなんて気が狂う。あの男は星海坊主だと分かっていて立候補したのだ。……等々。
 そのどれもが身勝手で確率すら読めない阿呆な考えだったため、溜息を吐き諌めようと口を開いたのだが――。
 その前に男が殺気立った目で乗客を見ていた。

「うるせェ!」

 男が声を荒げると、ざわめいていた乗客たちは一気に静まり返った。
 そうして、刀のような鋭い目のまま男はにやりと笑う。

「星海坊主だって所詮一固体の生物でしかねェ。ざっと見三十人ほどの素人集団をつれて凶悪なえいりあんの中に飛びこぶなんざァ集団自殺しにいくも同等でィ。まぁ、もっともアンタらを見捨てたら星海坊主が生き残るのはたやすいだろうが。……それでもついて行くってんなら止めねーが」

 明らかな殺気に、喧嘩に関しちゃ素人の乗客たちは怯えたように固まっている。
 が、それでも声を発する無謀な奴は居た。

「じゃ、じゃあアンタは大丈夫だって言うのか! アンタだけ星海坊主についていって、助かろうっていう魂胆じゃねェのかよッ」

 それに返答したのは、今度こそ俺だった。

「それは大丈夫だ。そいつの力量は俺ほどまでとはいわねーが娘ほどにはあるだろうよ。アンタらのように足手まといにはなるまい」

 娘の力量は俺には及ばないものの、依頼を引き受けえいりあんの大群を一人でぶちのめすことぐらいは可能である。星一個をうめつくすほどのえいりあんはまだ相手できないが。
 この男の力量はその程度だが、目的地にたどり着くというだけならば足手まといにはならない。えいりあんと積極的に対峙するわけではないので。
 俺の娘も比較的有名なので(可愛く育ってくれたのでマスメディア的には取り上げやすいらしい)、そこまで言うと乗客たちはざわめきながらも納得しているようだった。
 俺の娘と似た力量ならば、確かに足手まといになることはないと。

「皆納得したところで、船長さんよ。俺と星海坊主の分の水と食料を寄越せや。夜になったら出発するんでそれまでにな」

 男がにやりと冷淡な顔を見せながら、脅すこともないような内容を伝えると船長は慌てたように壊れた宇宙船の中へ駆け込む。
 それが合図となったのか、乗客たちも船内へ向かったり船体の状況を確認するように周囲を見渡したりと自由行動を始める。
 そんな中、男は俺の前に立った。

「勝手に決めちまいましたが、出発時刻は日が落ちてからでかまいやせんでしたか?」

 独特のイントネーションは娘と似たものを感じる。
 どうやら、丁寧に聞かれたらしい言葉に俺は頷いた。

「そっちのほうが都合がいい。これから世話になるぜ」

 そう述べた俺に対し、男はにやりと人を舐めたような笑みを浮かべた。

「こちらこそ、お願いしまさァ」

 そうして、期間限定の連れと握手をした。



      >>20091109 また、世間一般の人が興味ないような話を始めましたー。



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