五日目
昨日と同じく、月に煌々と照らされた砂漠を俺と沖田は歩いていた。
ただ、今回昨日と違うのは再度現れた殺気であろうか。
沖田もそれに気付いたらしく、立ち止まり得手に手を掛けにやりと笑っていた。
俺も持っていた傘を構えると二日前と同じく犬型のえいりあんが砂の中から飛び出す。
そいつらに向かい発砲させると、一匹にあたり宙で血を流しながら舞う。
それを視界に捕らえながら俺は跳躍した。
そうしながら傘を振り下ろしえいりあんを叩き落す。
二匹のえいりあんたちが俺に向かって口を大きく開けながら飛び掛ってきた。
が、俺は宙で一回転すると足に犬の胴体を絡ませ思いきり下へ振り落とす。
そうして、一度体制を整えるため砂の上へ着地する。
「星海坊主さんんんんッ!」
沖田の叫び声に、とっさに足元を見る。
するとぎょろりと瞬く二つの眼と、俺の周りを取り囲むようにある牙に気付く。
俺は急いでそこから離脱しようとするのだが、蔦のようなもので足を絡み取られた。
「くそッ!」
典型的なえいりあんの罠にかかるとはッ!
手に持っていた傘をがしょんと動かし発砲しようとするが、奴の下僕なのか邪魔するように犬型のえいりあんが俺に向かって飛びかかる。
俺は、とっさに装てんした弾をそいつらに向かって発射した。
犬型のえいりあんたちに見事当たりさしあたっての実害はないのだが、俺を捕らえているえいりあんの命令だろうか、俺達を囲むように三十匹はいるであろう犬型のえいりあんが現れ歯を見せ唸っている。
怒りと苛立ちのまま俺を捕らえているえいりあんの目を見ると、奴はまるで笑みを浮かべるように目を細めた。
その間にも引きずりこむように両足の蔦が俺を砂の奥へと誘い込む。
何度もその行為を止めようと(もしくは両足の蔦を破ろうと)傘を動かすのだが、その度に犬型のえいりあんが襲い掛かり俺を捕らえるえいりあんに攻撃を加えることが出来ない。
「坊主さんッ!」
「そこで切るなッ!」
「犬っころのほうを集中してやっつけてくれやせんかッ!」
俺のツッコミにも動じず、沖田はそう指示を出した。
そうせざる得ない状況であったし、沖田の力量に関してはそこそこに認めているので俺はそれに乗ることにする。
「乗ってやるから、きっちり俺のこと助けやがれッ」
「もちろんでさァッ」
叫ぶ彼の声を聞きながら、俺は傘の弾数が切れるまで打ち続ける。
俺は犬達の親玉に餌認定されているので、(着々と死へのカウントダウンは行なわれているが)犬の実害にあう事は恐らくないだろう。ただ、俺が得手を所有しているから犬達は蔦を打たせまいと襲い掛かってくるだけで。
それに比べ、沖田のほうが犬に囲まれて大変ではないだろうか。
まぁ、あれほどのレベルのえいりあんに(しょせん地球人だとしても)勝てないとはまったく思わないので、さほどの心配もしていないが。
そのうちに、がしょんと装填しても弾が切れて撃てなくなってしまう。
俺を捕らえる親玉のえいりあんはそれをチャンスと見たか、砂の中――自分の口の中へ引きずり込もうと蔦を動かし始めた。
「沖田!」
まずい、と思い俺は彼の名を呼ぶ。
「わかってやすッ!」
沖田は叫び、犬の群れの中からまったく綺麗な姿で(唯一刀だけてらてらと血で濡れていたが)飛び出すと、唯一砂の中から出ているぎょろぎょろと動く目をその刀で突き刺した。
えいりあんの耳障りな叫びがあたりに響き渡る。
それに怯えてか、犬達の動きも一瞬固まった。
「坊主さんッ」
沖田は俺の近くに隙を狙いくると、蔦を切り裂いた。
それと同時に飛び跳ね、えいりあんの口の中から二人同時に脱出する。
「だから、そこで切るなって言ってるだろッ! この年で坊主さんはほんとしんどいからッ」
「大丈夫でやす。見事体現してるじゃないですかィ」
「なにそれ、上のほう? 上のほう見て言わないでくれるッ?」
軽口を叩きながら、俺達は背中合わせに敵を見る。
犬達に囲まれているのはもちろん、罠が失敗したせいか片目をやられたせいか親玉のえいりあんがその大きな図体を見せている。
俺達の約三〜四倍ぐらいはあるだろう。
大きな図体のいたるところには蔦がうねり、胴体の真ん中に大きな口がギザギザの歯を見せている。
目は、図体の上にちょこんとついており、俺らをじっと見ていた。
「そっちのデカブツは星海坊主さんに任せやす。俺ァ、そんなの相手にすんの慣れてないんでね」
「ああ。雑魚の相手をやってくれ。こういうでかいのは専門だ」
にやり、と笑みを浮かべると合図をしたわけでもないのに同時に背中を離した。
親玉はキシャアアアア! と金切り声を上げ、触手を俺へ向かって放つ。
しかし、普通の人ならば捉え切れないほどの速さで放たれる触手は、俺にとっては遅くすら感じるもので、適度に傘でぶちぶちと切りながら胴体に近づいていく。
そうしながら、胴体を打つため傘の先端を向けようとするのだが、触手が邪魔をする。
先にこの触手を全滅させたほうが早いだろうか、と思案しながら触手を胴体と切り離すため、傘を振るうと親玉の奥のほうの砂の中から突如犬型のえいりあんが飛び出した。
不意打ちだったため、この一撃は食らうかと傘を構えようとした途端、犬型のえいりあんと俺の間を黒い影が刹那通り過ぎる。
視界が開けた途端、犬型えいりあんは血まみれで砂の上にいた。
「アンタはそのデカブツに専念してくだせェ」
にやりと笑って沖田はまるで風のように大勢の犬型えいりあんの元へ走る。
不意打ちすらも予測し俺が反応するよりも先に対応してしまうそのタイミングは、うちの娘によく似ていた。
存外、彼の戦闘のタイミングは娘と酷似しているのかもしれない。得手は傘と刀でまったく違ったが。
俺はこのボス級えいりあんに専念できることに対し、知れず笑みを浮かべながら傘で触手をぶっちぎった。
悲鳴に似た金切り声が砂漠に木霊する。
振るう触手もなくなったえいりあんの頭上高くに飛び上がると、俺はにやりと笑った。
「てめぇごときが俺を捕食するなんざ、百年早えーんだよ」
そうして、頭から傘で真っ二つに叩き潰した。
断末魔を上げ、砂煙をたたせながら二つになったそれは倒れる。
砂煙が落ち着く頃、周りを見渡すとしかばねになった犬型えいりあんと、刀を丁寧に拭いている沖田がいた。
「そっちも終わったようだな」
その言葉に、沖田は顔を上げ硝子のような鳶色の目をこちらに向けた。
「頭を潰された群れほどやりやすいものはありやせんからね」
にやり、と笑い沖田は刀を鞘に収める。
「行きやしょ」
促す沖田に、俺は頷く。
旅はもうそろそろ終わりを見せた。
>>20091219
力量不足は否めないが、戦闘シーンを書くのは楽しい。
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