六日目
えいりあんに囲まれていた。
一通り倒したのだが、撃っても切っても溢れ出てくるえいりあんに俺と沖田は背中合わせで得手を持って警戒しながら、話す。
「空港はまだなんですかィ?」
「方向があっていれば見えてもおかしくないはずなんだがな」
沖田からの質問に、俺は端的に答えた。
溜息を吐き、えいりあんの群れを見る。
「しかし、面倒だな」
「なんで、今更こんなに湧いてできたんですかね?」
俺は肩をすくめた。
「砂漠のボスが倒されたからだろう。昨日の奴が良くも悪くもこの砂漠を仕切っていたようだな」
ボスが倒れたため、えいりあん達は野放し状態になったのだろう。
ならば、ボスより強い俺達を狙いに来ることはないと思うのだが……、どうやらえいりあん達はボスが弱体化したから倒されたのであって、俺達は強くないのだと判断したようである。
まったく、迷惑な話だ。
「……体力、温存したいところなんですがねェ」
沖田は呟き、溜息を吐いた。
それに関しては俺も同じ意見だったのでまったくだ、と同意を示す。
「とりあえず、この円陣を切り崩すか」
「まぁ、それが妥当でやすね」
意見が一致したので、ぽんと肩甲骨同士を叩きお互いに敵の中へかけていく。
円形を保ったまま弾撃ちっぱなしも出来なくもないが、弾切れを考えると微妙である。先が見えぬのにむやみやたらに消耗するのは食べ物にしろ弾丸にしろ、考えなしのやることだ。
というわけで、体力は消耗するものの傘で殴ることに徹する。
飛び跳ね、一定方向に移動しながら襲い掛かってくる敵を相手していく。
液体を飛ばしてくる敵を傘で広げ防御し、その隙を狙い後ろから襲い掛かるえいりあんを足で蹴飛ばす。
そうしながら、傘を素早く閉じると液状のえいりあんが飛び掛ってきたので傘で下方向に払い、逆方向から襲い掛かってくるえいりあんを殴る。
面倒になり両足に力を入れ跳躍すると、えいりあんを足場にし飛び掛る別のえいりあんを傘で殴った。
すると、ちかっとなにか光るものが見える。
気のせいかとも思ったが、位置的に空港の方向だったため沖田に呼びかけた。
「沖田ァ! 北側の地平線に光、見えねーかッ?」
「ちょッ、待ってくだせェ!」
沖田の返事が即座に聞こえてきて、敵の頭上をぴょんぴょん飛びながら返事を待っていると、それは比較的早くに帰ってきた。
「確かに見えまさァ! 星海坊主さん、あれ空港でしょうッ?」
「ああ、そうであってほしいぜッ!」
確証は持てないものの、空港であってほしいことは確かだったので沖田にそう返す。
「ですが、このままえいりあんの群れを空港に持ち込んじゃあ、パニックになりますぜ?」
「ああ、わかってらァ! クソッ、一掃出来るような武器があれば楽なんだが……」
叩いても沸いて出てくるえいりあん達に俺は舌打ちをする。
この程度のえいりあんを死滅するまで戦うのは別段平気なのだが、ゴールは近いのに時間ばかりが過ぎていく状況は避けたい。
娘との数少ないバカンスが、更に削られているのだから。
すると、沖田も俺に同調した。
「ほんとでさァ。愛用のバズーカ砲があれば、星海坊主さんの可哀想な頭ばりに一面死滅させてやったのに」
「いやいや、死滅とかって! 死滅じゃないからッ、信じていればきっと生えてくるからッ!」
「そりゃあ、離婚調停中の妻が帰ってくると信じてるぐらいないでさァ」
「それだったら可能性あるだろ! 離婚したって復縁する夫婦だっているんだしッ」
「いやいやない。マジでない」
「あるからねッ! 信じていれば救われるからッ」
思わず敵を倒す手に力が入る。
信じていれば実家に帰った毛根の女神様だってきっと戻ってくるに違いない!
主に、毛髪剤とかケアで頑張りたいところだよね、そこ。
などとまったく緊張感のないやり取りをしながら敵を倒していくが、一向に数は減っていかない。
光の方向へ、敵を倒しながら進んでいくものの。
「くそッ、マジでキリねーなァ」
悪態をつく、沖田の声が聞こえる。
それを聞きながら、光の方向を見ると小さな光だったものが、建物の形を成してきた。
「沖田!」
俺は叫んだ。
「俺がおとりになるから、お前は空港に行って対えいりあん用武器を失敬してくるなり、稼動させるなりしろッ!」
こんなえいりあんまみれの砂漠の真ん中にある空港だ。
国一つ滅ぼせるほどの大砲、とは言わないものの襲われた時用の武器の一つや二つは設置されているだろう。
「ですが、えいりあんの中心に星海坊主さんいることになってしまいまさァ! そこに、大砲撃つわけにはいきやせんッ」
「大丈夫だ! お前もあの現場にいたんなら、見ているはずだろッ、俺が砲撃防いだのをよッ!」
飛び跳ねながら、そう言うと沖田はくくくと笑った。
それは小さなもので、本来叫び声やらなんやらで聞こえないはずなのに、その笑い声だけは確かに聞こえたのである。
「無用な心配をしてしまいやした。……じゃあ、ちょっくら行ってくるんでせいぜい全身の毛を剥ぎ取られないよう頑張ってくだせェ」
「こわッ! 物騒な台詞置いていくなよッ」
俺はあえてえいりあんの攻撃を受けながら、空港の方向へ走っていく沖田を追撃しようとするえいりあんを傘で撃ち抜く。
ある程度距離が離れると、仕留めきれなかったごく少数以外のえいりあん達は、ターゲットを俺に変え襲い掛かってきた。
大量のえいりあん対俺一人なんていう状況下は比較的慣れっこだったので獰猛な笑みを浮かべてやる。
「さぁて、俺のお遊びの相手になってくれや」
えいりあん達は俺に飛び掛ってきた。
そうして、えいりあん達と戯れて三十分ほど経過しただろうか。
死体の数は着実に増えているというのに、襲い掛かってくるえいりあん達が減ることはなく。
どれだけのえいりあんが飢えて獲物を待っていたのだろうかと、舞う緑色の液体を浴びながら思う。
息切れすることはないが、いささか面倒になってきた。
「……沖田はまだか?」
呟き、他者に頼っている自身を省みて昔とは変わったなァ、と感慨深く思った。
『星海坊主さーん』
そう、唐突に砂漠全体に響き渡るような大きさで、沖田の声が響いた。
緊張感のない声に脱力しそうになる。
『時間かかりやしたが、ビーム砲貸してもらえたんでちょっくら防御してくだせェ』
「はッ? 防御ってッ、せめて脱出する時間ぐらい……ッ!」
『いきやすよー』
間延びした声でビーム砲の光が俺めがけてやってきた。
俺は咄嗟に傘を開き防御体制に入る。
どうやら、間一髪で傘を開いた後ビームが俺の元に到着したらしく、傘はぼろぼろになり俺もダメージを受けたが命に別状はない。
「……いくら大丈夫だといったからって、やりすぎだろ……」
びりびりと痛い体を押さえ、あれほど手間のかかったえいりあんの群れの死体を見ながら俺は一言呟いた。
>>20091223
次でおしまいですよ。
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