城主が病没した、と。噂に聞いたのはその死後3日の事。






























城下町からは外れた掃き溜めの中が、今日までの時人の人生の舞台だった。




イヤな予感がしないか? 空気を読めるなら 魔がさした君のあやまち すべての引き金となり




喧騒とは生気の塊の様なもので。無くなれば必然、沈黙が転がるだけ。
場末の人口は多かったが、生活には少しも豊かさは無くて只管に貧しかった。
当然ゆとりなど、軒下に打ち棄てられた身形の良い死体を捜すより難しく
安息のない身体と心を抱えて、雨風に晒され憤怒を溜めていくばかりが毎日だ。

時人が流浪の旅の途中に決めてから7日が経過しても、景色はいつも同じだった。

うんざりしていた。心の底から。
汚い世間にも浮かばれない自分にも。

だから、一世一代の芝居をうつのに躊躇いはない。
もとから何も無かったから、得る結果には変わりない。
それが 死ぬ 事ひとつにしても、だ。こんな場所じゃ死ぬ気も起きない。
況してや此処で一生を生き終える気も無い。それこそ真っ平だ。



「幸いな事に此の国は、ボクの故郷ですらない。」



齢は14。城主の御落胤と噂にある児とは2つしか違わない。
言葉で言い込めて、口で言い負かせてしまえる誤差範囲。
はっきり宣言してしまえば、得意分野ですらある。

今日まで、ずっとそうして生きてきたのだから。

身形は服装がそうであったから決して綺麗ではなかった。
ただし持ち前の容姿そのものには自信があったし、自慢でもあった。
序に言えば、昔絵姿で眺めた城主の顔は、完全に他人の空似だが、
時人の面立ちに似て無くない訳でなかった。縁も何もないのに。

そして時人はこの国の生まれでなかった。全くの他国者。
今日までの匂いが無い時人には、縁者も近親者もいないできた。
詰る所、誰一人とて時人が でない 事を証明し得ないのだ。


己の故郷であっても大差はなかっただろうが、
愛着も糞も無いこの国に、同情する気も湧かない。
だから自分が執政に立つのに後ろめたい感情は覚えない。



「どうせ壊れているんだ。もっと崩れたって変わり無いさ。」



酷薄な笑みを浮かべて、時人は今後の人生の舞台となる場所を見据えた。



「――――ボクが、全てを手に入れる。」



それは、高らかな宣言だった。






























城からの使いが寄越されたのは、時人が名乗りを挙げてから
3日とその間を空けないでだった。だから余計に滑稽で。
時人は、無邪気な明け透けない笑みを隠す事無く堂々と迎えを受けた。

先に到着した空の籠のすぐ後に、質素な造りにも格が伺える籠が着く。
恐らく『御落胤』を迎えに来た使いの者だろう。他の家臣が畏まる。
どんな欲に肥えた古狸が出てくるか、それとも口煩わしい狐婆が出てくるか。
籠内より扉に掛かる片手の五指が見えて、化け物が出てくる動作を
楽しげに眺めながら。時人は第一関門だろう人物の顔が現われるのを
鼻歌を歌いたいのを抑えて待っていた。目を爛々と輝かせて。



「お初見えになります、城主御嫡子さま。お迎えに参りました。」



小汚い場末と小奇麗な城下町との境目に待ち合わせて、
これから入城を果たす為の段取りをつけるのだ。限りなく身分が
国の、しかも城の中核にいるだろう人物が寄越されると聞いていた。


それ故に、まさか時人自身と同じ年頃の青年が出てくるとは思ってもなかった。


畏まって頭垂れる大勢の家臣を見るにつけて、負い役の重要性を思えば必然、
ある程度の力はある、侮れない相手だろうけれど。拍子抜けした、のが感想だ。
この様子なら案外、梃子摺らないのではないか?時人は勝機を予想見た。



「ああ、宜しく頼むよ。これから色々と君にはして貰うから。」



取敢えずはこの青年から己に懐柔させるか、と。時人は微笑んだ。

平伏した様に見せた青年の顔を、その本当の思惑を知る事無く。





「今日より先、アナタに従い。御身柄を護衛する事を誓いましょう。」





時人は己自身が抱えた、最大の機密を隠したままに。
その日、権力を手にする為だけに、身体を御籠に乗せた。

迎えに来た青年に扉を閉められるその瞬間、彼と初めて眼を合わせる。
まるで今日と言う日を象徴する、晴れ渡った青空を切り取り嵌めた様な
そんな清涼感と、感情や熱を持たない冷涼さを味わい舐めた色だ、と思った。
時人は間を於かず視線を籠内に入れ込んで、場末からの隔絶を望んだ。
それは同時に、青年からの視線の問い掛けに逃れた事を意味するのだが、
この時はそこまでに考えが及ばなかった。目先の空想と起こるだろう
苦難に立ち向かい、全部を従わせる為の算段に思考を侵されて。



故に、青年の視線の意味に気付かない。
どうしてまで、冷たいのか?酷薄なのか、を。

青年は、当然ながらアキラである事は言うまでもない。






























「 2) 罪を感じて懺悔をしろ。 」






























それが、3年前。時人が魔窟に踏み入れた日で。



アキラと出逢った日、である。



back next top
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送